AMPKの活性化が炎症性疼痛を抑制する(鍼鎮痛との関わり) [鍼治療を考える]

アデノシン-リン酸活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化は、NF-κBの活性化を抑制してIL-1βの発現を減少させ、神経因性疼痛を抑制すると報告されている。

完全フロイントアジュバント(complete Freund’s adjuvant ; CFA)の注射はその局所に炎症性疼痛を引き起こすことが知られている。この研究では、マウスにCFAを注射して炎症性疼痛を誘発し、AICAR(5-アミノイミダゾール-4-カルボキシアミドリボヌクレオシド、AMPK活性化剤)、Compound C(AMPK阻害剤)、およびIL-1ra(IL-1受容体拮抗薬)の効果を注射後4日目に試験した。

AMPK活性化剤AICAR(5-アミノイミダゾール-4-カルボキシアミドリボヌクレオシド;AMPK活性化剤)によって鎮痛効果が生じ、マウスの炎症を起こした皮膚中の炎症誘発性サイトカインであるIL-1βのレベルを減少させた。さらに、AMPKの活性化は、炎症を起こした皮膚組織の活性化マクロファージ(CD68+およびCX3CR1+)における細胞質ゾルから核へのCFA誘導性 NF-κB p65転座を抑制した。

IL-1raの皮下注射は、CFA誘発性の炎症性疼痛を軽減した。 AMPK阻害剤Compound CおよびAMPKα shRNA AMPKは、炎症を起こした皮膚組織におけるIL-1βおよびNF-κB活性化に対するAICARの鎮痛作用およびAICARの作用を逆転させた。

このAMPKは鍼治療においても関わりがある。

電気鍼(EA)鎮痛に対する感受性の個人差の原因として、AMPKがEAに感受性であったラットの視床下部において最も高度に発現される遺伝子であることが同定されている(*Sun Kwang Kim, 2014)。

リアルタイムRT- PCR分析によって、感受性ラットの視床下部におけるAMPKのmRNA発現レベルが非感受性ラットよりも有意に高いことが示された。また、AMPK活性を阻害する、ドミナントネガティブ(DN)AMPKアデノウイルスのラット視床下部へのマイクロインジェクションはEA鎮痛を有意に弱める(P<0.05)が、野生型(WT)AMPKウイルスではEA鎮痛に影響はなかった(p>0.05)。

マウスの百会穴に対する通電前処理が、AMPK 活性化を介して虚血性脳損傷を軽減するとの報告では。

通電処理後、両頚動脈を15分間結紮することによって確率した脳虚血モデルが、.傷害後72時間で海馬における神経障害が減少し, 通電治療後に末端デオキシヌクレオチド転移酵素媒介dUTPニック末端標識陽性細胞数が低下した。また、アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼα (AMPKα) およびリン酸化 AMPKαの発現が調節された。AMPK アンタゴニストの腹腔内注射、およびcompound Cはこの現象を抑制した。この実験により、通電前処理はAMPK 活性化を介して虚血性脳損傷を軽減することが示唆された(*Qiang-qiang Ran, 2015)。


AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase:AMPK)は、人から酵母まで真核細胞に高度に保存されているセリン/スレオニンリン酸化酵素の一つで、細胞内のエネルギーセンサーとしての役割を担っている。アデノシン三リン酸(Adenosine Triphosphate:ATP)は「生体のエネルギー通貨」とも言われており、全ての真核生物が活動するためのエネルギー源。このATPのリン酸基が1つ外れることでエネルギーが放出され、ADP(Adenosine Diphosphate:アデノシン-2-リン酸)とAMP(Adenosine Monophosphate:アデノシン-1-リン酸)になる。

AMPKはAMPで活性化されるタンパクリン酸化酵素であり、ATPの減少を感知して活性化する。カロリー制限、運動、低グルコース、低酸素、虚血のような細胞内 ATP 供給が枯渇する状況において、ATPのレベルを回復させるために代謝を調整する。

AMPKの活性化は、がん抑制遺伝子のp53を活性化してがん細胞の増殖を抑制する効果があり、培養がん細胞や移植腫瘍を使った動物実験など多くの基礎研究で明らかになっており、がんの予防や治療のターゲットとして有望視されている。

また、AMPKは脂肪酸やコレステロールの合成に必要なacetyl-CoA carboxylase (ACC)とHMG-CoA還元酵素(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA reductase)の活性を阻害する。HMG-CoA還元酵素は、コレステロールやイソプレノイドを合成するメバロン酸経路の律速酵素の一つであり、この酵素の阻害剤であるスタチン (Statin)はコレステロール降下剤として広く用いられている。AMPKはスタチンと同じようにHMG-CoA還元酵素を阻害して、メバロン酸の合成を阻害する。

出典文献
AMPK activation attenuates inflammatory pain through inhibiting NF-κB activation and IL-1βexpression
Hong-Chun Xiang, Li-Xue Lin, Xue-Fei Hu, He Zhu, et al.,
Journal of Neuroinflammation201916:34
https://doi.org/10.1186/s12974-019-1411-x


Expression levels of the hypothalamic AMPK gene determines the responsiveness of the rats to electroacupuncture-induced analgesia
Sun Kwang Kim, Boram Sun, Heera Yoon, Ji Hwan Lee, Giseog Lee, et al.,
BMC Complement Altern Med. 2014; 14: 211.
Published online 2014 Jun 30. doi: 10.1186/1472-6882-14-211

Electroacupuncture preconditioning attenuates ischemic brain injury by activation of the adenosine monophosphate-activated protein kinase signaling pathway
Qiang-qiang Ran, Huai-long Chen, Yan-li Liu, Hai-xia Yu, et al.,
Neural Regen Res 2015;10:1069-75 : http://www.nrronline.org/text.asp?2015/10/7/1069/160095

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