ICU患者への早期リハビリテーションは筋力を改善しなかった [運動健康法という妄想]

ICUへ入所中の重篤な患者に対し、早期のベッド内サイクリングと大腿四頭筋電気的刺激を組み合わせる、早期リハビリテーションによって、退院時の筋力などが通常ケアと比較して向上するかという研究。

当然ながら、筋力を含むその他の評価が通常ケアよりも改善することは無かった。鍼灸師ごときが言うのもなんですが、この研究は二重に馬鹿げていると思う。

先ず、機械的換気を必要とするようなICUの患者では、長期間におよぶベッドレストによって、“Intensive Care Unit-Acquired Weakness;ICUAW”が生じ、それは手足の筋力低下と呼吸機能に関連付けられている。しかしながら、重篤な患者の体力に訓練に耐える余力があるとは思えず、筋力の維持・回復が望めるとは考えられない。ICUAWを防ぐために利用できる運動は患者の一般状態によって制限されるはずである。一様に、早期に開始するのは乱暴であり、意義があるのか疑問。

そもそも、このようなトレーニングが可能な患者であれば、ICUに留め置く必要があるとは考えにくい。

第二点は、大腿四頭筋への電気刺激で筋力が増強すると考える発想。

別の研究で、マクマスター大学のミシェル・コー博士率いる CIHR の研究チームによる報告のように、退院時に速く歩行できたとして、効果的であったとする意見もあるが、、?。

本研究は、フランスの1100病院内のICUにおける無作為化臨床試験で、2014年7月から2016年6月まで登録して6か月間フォローアップしている。

介入群は、早期のベッド内サイクリングと大腿四頭筋の電気刺激(n = 159)。対照群は通常のケア (n = 155)。

メインアウトカムは、ICU退所時の筋力で、盲検された理学療法士によって評価。サブアウトカムは、人工呼吸器を使用しなかった日数、およびICUモビリティスケールスコア(0-10;高スコアほどより高い歩行能力)など。機能的自律と健康関連QOLは6ヶ月で評価。

314名の患者のうち、312名(平均年齢、66歳、女性、36%)が研究を完了し、78%が人工呼吸を受けた。

ICU退所時の世界平均メディカルリサーチ評議会スコア(The median global Medical Research Council score)は、介入群で48(四分位範囲[IQR]、29〜58)、通常ケア群51(IQR、37〜58) (中央値の差 −3.0 [95% CI, −7.0 to 2.8]; P = 0.28)で差は無し。

ICU退所時のICU移動度尺度は、両群で6(IQR、3〜9)(中央値差、0 [95%CI、-1〜2]; P = 0.52)。 28日間の人工呼吸器無しの日数の中央値は、介入群で21(IQR、6~25)、通常ケア群で22(IQR、10~25)(中央値差、1 [95%CI、-2 〜3]; P =0 .24)で、全く差は無し。

臨床的に重要なイベントの発生は、介入群で7名(4.4%)、通常ケア群で9名(5.8%)。6カ月後の評価では、群間に有意差はなかった。

私には、患者の状態・状況を考慮せずに「運動・筋力増強」と叫ぶ、「筋トレ妄想」に思われる。

追伸

うっかり書き忘れたが、肝心な、メインアウトカムの筋力評価の結果がこの文献の要約には記されていない。結論で、大腿四頭筋の筋力が改善しなかったとだけ述べられている。

出典文献
Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults, A Randomized Clinical Trial.
Guillaume Fossat, Florian Baudin, Léa Courtes, et al.,
JAMA. 2018;320(4):368-378. doi:10.1001/jama.2018.9592

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