運動介入は軽~中等度認知障害に対する進行遅延効果無し [運動健康法という妄想]

軽度から中等度の認知症患者の認知障害および他の転帰に対し、中程度〜高強度の好気性および筋力トレーニングによって体力は改善したが、その他の臨床的アウトカムを改善させる効果は認められなかった。さらに、差はわずかだが、運動介入群のほうが認知障害が進行した。
この知見は、オックスフォード大学Sarah E. Lamb氏らによる、無作為化臨床試験「Dementia And Physical Activity:DAPA試験, BMJ誌2018年5月16日号)の結果によるもの。

すなわち、運動が日常生活の活動、行動成果、および健康関連の生活の質を改善させることはなく、むしろ認知機能を悪化させる可能性すらあるということ。

私にとっては、納得のいく結果である。何か楽しいことをする。その目的のために体を動かして頭も使う。このような活動は認知機能にとっても有益であろうが、運動そのものに効果があるとは考られない。

因みに、私は、中学・高校の体育の授業や部活以来これといった運動もスポーツも一切していないし、「健康法」など考えたことも無いが、全く問題は無い。昨年の5月に、たまたま、ある植物の毒で軽く死にかけたのだが、その際、病院退職後30数年ぶりに血液検査を受け、その他に、心電図、心エコー、胸部レントゲン、および頭部CT検査も行った。恐らく、オレアンドリンなどの強心配糖体による心筋へのダメージによると思われる、LDH(261)の若干の増加と、V1~V3誘導にSTの逆転が見られたが、それ以外は全て正常であった。

従来、一般世間のみならず医師たちでさえ、運動によって認知機能の低下を予防、あるいは改善できるなどとする、勝手な思い込みや希望的予測がある。しかしこれまでに、無作為化試験に基づくような十分なエビデンスは存在しなかった。

この研究の対象者は、イングランドの15地域から、NHSプライマリケアの患者、大学のコミュニティ&メモリサービス利用者、認知症研究登録者、およびボランティアの494名。参加者の平均年齢は77歳(SD 7.9歳)で、301/494(61%)は男性。

2対1の割合で、329名を運動介入群、165名を通常ケア群に無作為に割り付けた。運動介入群は、通常ケアに加えて、監督下で行う運動を地域のジム施設およびNHSの施設において4ヵ月間実施し、その後、継続的に運動に関するサポートを受けた。

メインアウトカムは、アルツハイマー病評価スケール下位項目(ADAS-cog)の12ヵ月時点のスコアであった。セカンドアウトカムは、ADL、神経学的症状、健康関連QOL、要介護度など。運動介入群の体力測定として、6分間歩行テストなどが行われた。

12ヵ月で、平均ADAS-cogスコアは介入群で25.2(SD 12.3)、通常ケア群で23.8(SD 10.4)(グループ差-1.4,95%信頼区間-2.6〜-0.2、 P = 0.03)。平均差が小さく、臨床的関連性は不確実だが、運動群において認知障害が大きい。認知症タイプ(アルツハイマー病またはその他)、認知障害の重症度、性別、および運動性によって、セカンドアウトカムおよびサブグループ分析に差異は認められなかった。参加者のうち65%以上(214/329人)が予定されたセッションの4分の3以上に参加。 6分間歩行距離が改善した(平均変化18.1m、95%信頼区間11.6m〜24.6m)。

「運動によって痴呆症が進行する可能性がある」、とすると、そのメカニズムは如何なるものか。

私なりの推測を述べると、2つの要因が思い浮かぶ。第1は、筋への血液の集中による他臓器の虚血と、その後の再環流にともなう活性酸素の多量発生による傷害。第2は、運動の継続によるHDLコレステロールの増加。運動をしている人は、しない人に比べてHDLコレステロールが30~40%高い。一般には善玉と言われているHDLコレステロールだが、老年性痴呆症の患者ではHDLは高く、その意味合いは時と場合によって異なる。

また、この研究では、認知症のタイプでセカンドアウトカムやサブグループ分析に差は認められなかったと記されているが、ADAS-cogについては判然としない。

別の研究(*)では、認知症タイプによって運動プログラムに対する応答に差異があることが報告されている。非アルツハイマー型認知症の参加者は、アルツハイマー型認知症よりも運動による効果が大きく良好な認知機能を有していた。非アルツハイマー型痴呆の参加者の82%が血管起源の痴呆または脈管成分を伴う痴呆を有すると考えると、運動介入は血管リスク因子に影響をおよぼす可能性がある。

個人的には、認知機能の評価法に疑問がある。また、人の脳機能は複雑であり、単純な尺度で評価できるとは考えにくい。認知症の実体は単一の病態で構成されているとみなすべきではなく、症状管理を最適化するためには異なる戦略を必要とするのではないだろうか。

出典文献
Dementia And Physical Activity (DAPA) trial of moderate to high intensity exercise training for people with dementia: randomised controlled trial
BMJ 2018; 361 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k1675 (Published 16 May 2018)
Cite this as: BMJ 2018;361:k1675


Effects of a High-Intensity Functional Exercise Program on Dependence in Activities of Daily Living and Balance in Older Adults with Dementia
Annika Toots, Håkan Littbrand, Nina Lindelöf, Robert Wiklund, Henrik Holmberg,et al.,
J Am Geriatr Soc. 2016 Jan; 64(1): 55–64.
Published online 2016 Jan 19. doi: 10.1111/jgs.13880
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