胎児性アルコールスペクトラム障害の有病率の推定 [酒は百毒の長]

妊娠中の母親の飲酒による胎児のアルコール暴露は、胎児性アルコール症候群(fetal alcohol syndrome : FAS)を引き起こす可能性があります。出生時の特異的顔貌や低体重などは成長とともに次第に目立たたなくなりますが、成人後に依存症やうつ病などが現れることから、「胎児性アルコールスペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders : FASD)」とも呼ばれます。

この、Lancetの報告では、2012年7月までに発表された研究を検索し、FASを有する個体における併存疾患の有病率をランダム効果モデルを想定したメタ分析によって推定しています。

ヒットした5068件中127件が適格基準を満たし、FASDを有する個体において428の併存疾患を同定。最も一般的な疾患は、先天性奇形、変形、染色体異常、精神および行動の障害でした。 33の研究では、FASが1728名に発症し、5併存疾患の最も高い有病率は50%から91%で、末梢神経障害、行為障害、受容言語障害、慢性漿液性中耳炎、および表現言語障害などでした。

診断基準では、妊娠中の母親の飲酒、特徴的な顔貌(低い鼻梁、内眼各贅皮、平らな顔など)、出生時低体重、小頭症、小脳低形成、難聴、直線歩行困難などの障害となっています。非遺伝性の精神発達遅滞の最多の原因となっています。頻度は出生数1000人あたり0.1-2名とされていますが、民族や集団によって大きく異なります。

別の文献(*)では、南アフリカでは、FASは55.42/1,000、アルコール関連神経発達障害は20.25/1,000、FASD 113.22/1,000。クロアチアではFASが特に高く、43.01/1,000、イタリア36.89/1,000、西アフリカ28.29/1,000、アルコール関連の先天性欠損症ではオーストラリアで10.82 /1,000、などと報告されています。

このように、有病率は国によっても大きく異なるため明確ではありませんが、著者らは、臨床危険因子として出生前のアルコール暴露を評価することの重要性を強調しています。胎児に対するアルコールの有害性は明らかであり、妊娠中のアルコール飲用は世界的な公衆衛生問題として認識されるべきです。

因みに、「酒は百薬の長」と一般的に言われていますが、この言葉の起源を知らない者による誤解に過ぎません。酒好きの方便として利用されていますが、実際には「酒は百毒の長」が相応しい言葉です。

そもそも、「酒は百薬の長」に医学的根拠があるわけではなく、前漢の末に「平帝」を毒殺して「新」を建国した「王莽」が言ったことです。彼は、「塩、酒、鉄」を政府の専売としました。つまり、税収を増やす為の方便に過ぎません。

内政的には、性急な変革のために失敗し、対外政策にも匈奴を始めとする諸民族の乱が相次ぐなどで全て失敗しました。「新」はわずか15年(AD8-23年)で滅び、その後は後漢の時代となりました、

厚生労働省研究班の推計によれば、日本における、アルコールの過剰摂取による社会的損失は年間4兆1483億円(2008年)に達するとのことです。その内訳は、肝臓病、脳卒中、癌、および外傷の治療費に1兆226億円。 病気や死亡による労働損失と、生産性の低下などの雇用損失の合計は3兆947億円。 自動車事故や犯罪などの社会保障に約283億円です。

しかし、日本では基礎データが集計されていないことや、酒を原因とした家庭崩壊による経済的損失など、金額に換算しにくい問題も多いため、前述した金額は日本におけるアルコール関連損失の合計額を示したものではありません。

また、男性の全死亡原因に占めるアルコールの割合は、日本では4.5%、アメリカ4.8%、ベラルーシ28.1%、ロシア24.1%などです。WHOにおいても、飲酒の抑制は喫緊の課題となっています。

出典文献
Svetlana Popova,Shannon Lange, Kevin Shield, et al.,
Comorbidity of fetal alcohol spectrum disorder: a systematic review and meta-analysis
THE LANCET, Published Online: 05 January 2016
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)01345-8

*secondary source

Roozen S, Peters GY, Kok G, Townend D, Nijhuis J, Curfs L.
Worldwide Prevalence of Fetal Alcohol Spectrum Disorders: A Systematic Literature Review Including Meta-Analysis.
Alcohol Clin Exp Res. 2016 Jan;40(1):18-32. doi: 10.1111/acer.12939.

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