アルギナーゼ 1 + ミクログリアは IL-1β依存神経炎症のAβプラーク沈着を減らす [免疫・炎症]

従来、神経炎症はアルツハイマー病(AD)を進行させると考えられてきました。しかし、アルギナーゼ 1(ARG1)+ミクログリアがアミロイドβ(Aβ)斑の沈着を減少させることが示唆されています。

ミクログリアは、脳免疫およびホメオスタシスの重要な調節因子として認識されており、ADなどの神経疾患において重要な役割を果たしていると考えられています。また、慢性的な神経炎症の存在によって病的タンパク質であるアミロイドベータ(Aβ )が蓄積されます。このような観点から、これらがリンクする炎症カスケード仮説の概念が生み出されました。この仮説は、Aβ誘発神経炎症がAD発症を促進し、さらに、神経炎症を増大させて悪循環させるとするものです。

しかしこの研究では、持続的なIL-1β誘発性炎症の1ヶ月後、Aβ沈着が驚くほど減少することが確認されました。Aβ斑の周囲において、ミクログリアの動員および活性の上昇が見られました。これは、別の炎症性サイトカインでも同様の結果が報告されており(*1,2)神経炎症による基本的な効果であり得ることを示しています。

この研究では、hIL-1βcDNAを有するアデノ随伴ウイルスベクターを使用して、8ヶ月齢のアミロイド前駆体タンパク質(APP)/ PS1マウスの海馬に炎症を4週間誘導し、他の半球にはコントロールを注射。

骨髄キメラおよび染色分析を使用して、持続性炎症に存在する免疫細胞の起源およびタイプを識別。アルギナーゼ1(ARG1)及び誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の免疫反応性は、代替的活性化のマーカーと古典的な活性化細胞のマーカーを使用し、ARG1 +またはiNOS+ミクログリアによるAβの細胞取り込みの変化は共焦点顕微鏡によって示されました。

抗炎症表現型が神経炎症中に存在したかどうかを判定するために、RNAはフローソート上のミクログリアで抽出し、RT-PCRを実施。

インターロイキン(IL)4の注射は活性化細胞を誘導するために使用され、一方、ARG1 +細胞の誘導をブロックするためのIL-1βの持続的な発現は、IL-4Rα抗体をミニポンプおよび海馬内カニューレを使用して伝達。

RNA の抽出にはフローソートミクログリアと rt-PCR を実施。

炎症を起こした半球では、ARG1 +ミクログリアの強固な活性化を観察しました。さらに、炎症を起こした半球において、ARG1+ミクログリアにはiNOS+ミクログリアと比較してより多くのAβが含まれていました。

炎症を起こした半球で上昇した、フローソートミクログリアから単離されたRNAは、代替活性化ならびにBDNFおよびIGF1などの神経保護mRNAと一致。

ARG1+ミクログリアが媒介するプラーク減少を調べるために、IL-4と供にARG1 +ミクログリアを誘導することで重要なプラーククリアランスが観察されました。

海馬内カニューレを介する抗IL-4Rα抗体を用いた神経炎症によって、ARG1 +ミクログリアの数とプラーク減少との間の明確な相関関係が観察されました。

この研究結果は、神経炎症の複雑さを物語っており、興味深い知見と言えます。

最近の報告では、抗炎症性サイトカインであるIL-10はADにおいては有害であることが示唆されています。

また、ミクログリアには炎症性および抗炎症性の両方が存在することも示唆されています。
例えば、TNFαやIFNγなどの炎症性サイトカインは、炎症性サイトカインの産生によってミクログリアを古典的な活性化の表現型へ分極させます。一方、抗炎症性サイトカインであるIL-4、IL-13、およびIL-10は、破片クリアランスと抗炎症性サイトカイン産生によってミクログリアを代替活性化した表現型へとシフトさせます(*3)。

尚、原著は全文が公開されていますので、実験データなど詳しく知りたい方は原文をお読みください。

出典文献
Jonathan D. Cherry, John A. Olschowka, M. Kerry O’Banion, et al.,
Arginase1+microglia reduce Aβ plaque deposition during IL-1β-dependent neuroinflammation.
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:203 doi:10.1186/s12974-015-0411-8
http://www.jneuroinflammation.com/content/12/1/203

Secondary Source:

*1
Chakrabarty P, Ceballos-Diaz C, Beccard A, et al.,
IFN-gamma promotes complement expression and attenuates amyloid plaque deposition in amyloid beta precursor protein transgenic mice.
J Immunol 2010, 184:5333-43. PubMed

*2
DiCarlo G, Wilcock , Henderson , Gordon M, Morgan
Intrahippocampal LPS injections reduce AB load in APP+PS1 transgenic mice.
Neurobiol Aging 2001, 22:1007-12. PubMed

*3
Cherry JD, Olschowka JA, O’Banion MK,
Neuroinflammation and M2 microglia: the good, the bad, and the inflamed.
J Neuroinflammation 2014, 11:98.

補足
ミクログリアは、脳内において神経細胞の10倍も存在するグリア細胞の約5%に過ぎませんが、損傷部位の清掃、神経炎症の惹起、抗原提示機能などのマクロファージ様細胞としての機能と、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の病態進行などの関与しています。さらに最近では、統合失調症や自閉症などの精神疾患や知的発達障害への関与も示唆されています。

しかし一方では、神経軸索の再生や脳内環境のバイオセンサーとしても働きます。さらに、発達期の脳において、運動機能を担う大脳皮質第5層ニューロンの生存に関わり、ミクログリアが放出するIGF1がその機能に関与していることが示唆されています。(上野将紀・藤田 幸・山下俊英 大阪大学大学院医学系研究科 分子神経科学DOI: 10.7875/first.author.2013.037)

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