シルデナフィルは肝性脳症における神経炎症を低減して学習機能を復元する [免疫・炎症]

肝硬変患者の約40%が潜在性肝性脳症(minimal hepatic encephalopathy;MHE)を呈しますが、神経機能を回復させる具体的な治療法はありません。MHE患者は、精神運動遅延、注意欠陥、認知障害、および視空間失調(visuo-spatial incoordination)などにより生活の質が低下し、予後は不良です。

肝硬変患者における、高アンモニア血症と神経炎症が相乗的にMHEの認知および運動機能障害を誘導します。アンモニア低下剤として、ラクツロースやプロバイオティクスなどが試みられています。

シルデナフィル治療はミクログリア活性化と、il-1 βおよび海馬におけるTNF αのレベルを正常化し、グルタミン酸の膜発現や GABA 受容体、およびラジアル ・ モリス水迷路空間学習能力の正常化に関連付けられると報告されています。

門脈大静脈シャント(PCS)を行ったラットが、MHE患者の認知および運動機能障害を再現するモデルとして使用されています。PCSラットでは、小脳における神経炎症は、Y迷路タスク学習の能力障害と大脳基底核運動低下を仲介します。

Y迷路課題を学習する能力は、主にグルタミン酸-NO-cGMPの経路によって小脳で変調されていますが、空間学習と記憶は主に、海馬における異なるメカニズムによって変調されています。従って、空間学習および記憶には、海馬におけるこれらのメカニズムを正常化する必要があります。

これらのメカニズムとして、海馬におけるインターロイキン1β(IL-1β)の増加が関与します。 Wangらは(*1)、 IL-1βがp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼの活性化を介して、GABA A受容体の膜発現の増強が海馬における学習障害をもたらすことを示しました。 GABA A受容体を遮断することで、IL-1βにより誘導された学習障害を防止しました。

ホスホジエステラーゼ5阻害剤であるシルデナフィルは、海馬の神経炎症を軽減し、アルツハイマー病のAPP / PS1トランスジェニックマウスモデルにおいて、認知能力を向上させます(*2)。

また、シルデナフィルは、マウスの脱髄の炎症モデルにおける小脳の炎症およびIL-1βレベルを低下させます(*3)。小脳で変調されたY字迷路の条件付きタスクの学習は復元しますが、PCSによるMHEラットの空間学習を改善するかどうかは評価されていません。

この研究は、PCSラットの海馬における神経炎症の確認、およびシルデナフィルの投与によって海馬の神経炎症が低減して空間学習が復元されるか、さらに、グルタミン酸およびGABA A受容体の膜発現の変化を含む、基礎となるメカニズムの分析を目的として行われました。

ウェスタンブロットによって炎症マーカーを測定して神経炎症を評価。MAPキナーゼp38のリン酸化は、免疫組織化学によって評価。GABAおよびグルタミン酸受容体の膜発現は、BS3架橋剤を使用して分析。空間学習は、半径方向およびモリス水迷路を用いて分析。シルデナフィルはラットの飲料水に混ぜて投与。

PCSラットは、海馬におけるIL-1β、TNF-αおよびp38のリン酸化レベルの増加を示し、シルデナフィルによって減少しました。

シルデナフィルによって、PCSラットのモリス水迷路における空間学習障害を回復させました。

放射状迷路.空間学習はPCSラットにおいて障害され、シルデナフィル投与によって復元されました。

出典文献
Vicente Hernandez-Rabaza, Ana Agusti, Andrea Cabrera-Pastor, et al.,
Sildenafil reduces neuroinflammation and restores spatial learning in rats with hepatic encephalopathy: underlying mechanisms.
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:195 doi:10.1186/s12974-015-0420-7
http://www.jneuroinflammation.com/content/12/1/195

Secondary Source:

*1
Wang DS, Zurek AA, Lecker I, Yu J, Abramian AM, Avramescu S, et al.: Memory deficits induced by inflammation are regulated by α5-subunit-containing GABAA receptors.
Cell Reports 2012, 2:488-96. PubMed Abstract |

*2
Zhang J, Guo J, Zhao X, Chen Z, Wang G, Liu A, et al.: Phosphodiesterase-5 inhibitor sildenafil prevents neuroinflammation, lowers beta-amyloid levels and improves cognitive performance in APP/PS1 transgenic mice.
Behav Brain Res 2013, 250:230-7. PubMed Abstract |

*3
Raposo C, Nunes AK, Luna RL, Araujo SM, da Cruz-Hofling MA, Peixoto CA: Sildenafil (Viagra) protective effects on neuroinflammation: the role of iNOS/NO system in an inflammatory demyelination model.
Mediators Inflamm 2013, 2013:321460. PubMed Abstract |

因みに、シルデナフィルはホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)に分類される治療薬ですが、一般的には、勃起不全治療薬(バイアグラ)として有名です。

肺高血圧症の発現機序である一酸化窒素経路(NO-sGC-cGMP)に着目して開発された肺高血圧症治療薬ですが、もともとは、1990年代前半に狭心症の治療薬として開発された薬でした。しかし、狭心症に対する治療効果は認められなかったため試験は中止されましたが、被験者が試験薬の返却を渋りました。その理由が、陰茎の勃起を促進する作用であったため、これを適応症として発売されました。
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