酸化ストレスは癌転移を抑制し抗酸化剤は癌転移を促進する [栄養の話題]

固形癌細胞は一般的に血液に入ることで全身に広がりますが、遠隔転移を形成するのには非常に非効率的で、この理由は良く解っていません。メラノーマの細胞を静脈内および脾臓内移植した実験では腫瘍を形成する細胞は極めて少なく、血液中や内臓内のメラノーマ細胞は皮下腫瘍では観察されていない酸化ストレスを受けていることが示唆されました。

転移性黒色腫においては、葉酸経路におけるNADPH生成酵素の増加によって酸化ストレスに耐える能力を増加させる可逆的代謝変化を受けていました。

抗酸化剤は、NSGマウスで癌の遠隔転移を促進しました。

低用量メトトレキサート、ALDH1L2およびMTHFD1のノックダウンによる葉酸経路の阻害は、有意に同マウスにおける皮下腫瘍の遠隔転移を阻害しました。

このように、酸化ストレスはin vivo(体内)でメラノーマ細胞の遠隔転移を制限します。

世間では、抗酸化剤が盲目的にもてはやされていますが、活性酸素種にも多くの重要な働きがあります。酸化的か抗酸化的かは、相手によって変化することにも留意すべきです。

葉酸塩は、葉酸塩-メチオニン代謝系(one-carbon metabolism)、およびDNAの複製や細胞分裂への働きを介して、癌発症に関与する可能性が示唆されています。

・Kim YI (2004). Will mandatory folic acid fortification prevent or promote cancer? Am J Clin Nutr 80(5): 1123-1128. [PubMed abstract]

・Kim YI (1999). Folate and carcinogenesis: evidence, mechanisms, and implications. J Nutr Biochem 10(2): 66-88. [PubMed abstract]

ノルウェーにおける臨床試験の結果では、虚血性心疾患患者3,411名に対して、葉酸(800 μg/日)+ビタミンB12(400 μg/日)を39カ月間(中央値)補充した結果、補給しない場合と比較して癌の発生率が21%、癌による死亡率が38%増加したと報告されています。癌の発症とは無関係であるとする多くの報告もありますが、葉酸の補充によって癌のリスクが上昇する可能性も留意する必要があります。

・Ebbing M, Bønaa KH, Nygård O, Arnesen E, Ueland PM, Nordrehaug JE, et al. (2009). Cancer incidence and mortality after treatment with folic acid and vitamin B12. JAMA 302(19): 2119-2126. [PubMed abstract]

葉酸に関する詳しい説明は、厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』 「統合医療」情報発信サイトを参考にしてください。

補足
メトトレキサートは、ジヒドロ葉酸レダクターゼと結合することで、ジヒドロ葉酸のテトラヒドロ葉酸への還元を阻害します。その結果、TMPとプリン塩基の合成、およびアミノ酸代謝を阻害します。メトトレキサートは、急性白血病、慢性リンパ性白血病、小児白血病などの白血病、および乳癌、頭頚部腫瘍などへの抗腫瘍効果を有しています。

出典文献
Elena Piskounova, Michalis Agathocleous, Malea M. Murphy, Zeping Hu, et al.,
Oxidative stress inhibits distant metastasis by human melanoma cells
Nature (2015) doi:10.1038/nature15726

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