鉄補給はマラリア感染に影響しなかった [医学一般の話題]

アフリカにおける鉄欠乏性貧血の妊婦に対する研究で、鉄の補給はマラリア原虫の感染に不利ではなかったと報告されています。

アフリカの一部の地域では、赤血球が鎌型となる鎌型赤血球症が30%以上存在しますが、この異常ヘモグロビンによて重篤な貧血症になります。しかし、この貧血がマラリア感染に対しては抵抗性があるため、この遺伝子が選択されたと考えられてきました。それ故、鉄欠乏性貧血の妊婦に対する鉄補給の是非は不確実でした。

しかし、母体のマラリア原虫の感染リスク、母体の鉄状態、および新生児アウトカムに対する産前鉄補給の影響を調べたプラシーボ対照ランダム化比較試験の結果、鉄補給はプラシーボと比較してマラリア原虫の感染リスクに有意な差はなく、出生児の体重増加に関連しました。

ケニア農村のマラリア流行地域において、2011年10月~2013年4月までに、妊娠13~23週、15歳~45歳の妊婦470名( ヘモグロビン濃度9 g/dLまたはそれ以上)を対象に、鉄60 mg(フマル酸第1鉄, n=237)群とプラシーボ群 (n=233)に分けて調査。

プライマリアウトカムは、出生時における母体のマラリア原虫感染症。セカンダリアウトカムは、出生児体重、在胎週数、子宮内発育、および出生後1ヶ月の妊産婦と乳児の鉄の状態。

鉄補給群とプラシーボを比較したマラリア原虫感染リスクは 50.9% vs 52.1% (crude difference,-1.2%, 95% CI, -11.8% to 9.5%; P=0.83)で差はなし。

出生児体重は3202 g vs 3053 g (crude difference, 150 g, 95% CI, 56 to 244; P=0.002)で有意な差有り。

出産1月後のヘモグロビン濃度は12.89 g/dL vs 11.99 g/dL (crude difference, 0.90 g/dL, 95% CI, 0.61 to 1.19; P<0.001)で有意な差有り。

母体の幾何平均血漿フェリチン濃度は、32.1 μg/L vs 14.4 μg/L (crude difference, 123.4%, 95% CI, 85.5% to 169.1%; P<0.001 :単位がナノグラムでないことに注意)。

尚、重篤な有害事象が、鉄補給群で9名、プラシーボで12名報告されています。

以上の結果を見ますと、鉄補給による介入がマラリア原虫の感染リスクに対して影響することは無く、これまでの認識は間違っていた可能性があります。では、何故、マラリア感染が多い地域では、鎌型赤血球を持つヒトが多いのでしょうか。

出典文献
Martin N. Mwangi, Johanna M. Roth, Menno R. Smit, Laura Trijsburg, et al.,
Effect of Daily Antenatal Iron Supplementation on Plasmodium Infection in Kenyan Women.
A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2015;314(10):1009-1020. doi:10.1001/jama.2015.9496.

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