自発的ホイールランニングは神経保護マイクログリアを促進すると報告 [医学一般の話題]

成人の脳は、海馬のニューロンを新生する能力を保持しています。マイクログリアは、海馬の神経新生を調節しますが、その作用が炎症性または神経保護作用かは様々な表現型の発現に依存しています。

運動は、老齢動物におけるマイクログリアの活性化を変化させることが示されていますが、その働きの詳細は不明です。この研究は、リポポリサッカライド(LPS)を投与した高齢マウスに対し、自主的ホイールランニングが海馬における神経新生の炎症誘発性低下を保護するかを評価したものです。

アダルトマウス(4ヶ月)と高齢マウス(22ヶ月)(C57BL6/J mice)を合計9週間、ホイールランニング(車輪走行)または無しで飼育。 5週間後、分裂細胞を標識するためにブロモデオキシウリジン(BrdU)の1日4回注射(BrdU)と、腹腔内へのLPSまたは生理食塩水を単回注射。4週間後に組織を回収して、新生細胞の生存、新生ニューロンの数、およびミクログリアの活性化を免疫組織化学的に測定。

LPSは、老齢マウスの新生ニューロン数を減少させましたが、ホイールランニングをすることによって防止されました。さらに、運動は老齢マウスにおいて、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF) で標識されたマイクログリアの割合を増加させました。(実験内容の詳細は、下記原著を参照してください。)

マイクログリアは脳内における免疫細胞であり、腫瘍細胞や細菌を殺すためにインターロイキン1β(IL-1β)、腫瘍壊死因子αなどの炎症誘発性サイトカインを放出します。また、死滅したニューロンや他の脳細胞を貪食して脳内を清掃する役目も担っています。

免疫細胞としてのマイクログリアが産生する、サイトカインやタンパク質分解酵素および活性酸素種は腫瘍細胞や細菌のみならず正常なニューロンへもダメージを与えるため、その存在は両刃であり、アルツハイマー病やダウン症ではマイクログリアの暴走が発症に関与しているようです。

一方、神経保護表現型を発現するマイクログリアは、幹細胞の増殖を刺激してニューロンの修復を手助けする神経成長因子も放出します。

結果として、自発的ホイールランニングが神経保護マイクログリアの表現型を促進し、高齢マウスの脳における海馬の神経新生を炎症誘発性の低下から保護できることが示唆されました。

しかしながら、これはホイールランニングのみに見られる効果でしょうか。適度な運動であれば、どの様な種目でも脳への良好な刺激となるはずです。もっと言えば、その刺激の直接的原因が筋を動かすための脳の活動によるものであれば、手先の作業でも同様の結果となるはずです。さらに、筋の活動によって筋自身が産生する、マイオカインの中の何れかの物質による作用である可能性も考えられますが、この研究では追求されていません。マウスを使用しての実験による制限はあるでしょうが、「走ればいいぞ」だけでは単純過ぎると思うのですが。

出典文献
Alyssa M. Littlefield, Sharay E. Setti1, Carolina Priester, Rachel A. Kohman,
Voluntary exercise attenuates LPS-induced reductions in neurogenesis and increases microglia expression of a proneurogenic phenotype in aged mice.
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:138 doi:10.1186/s12974-015-0362-0
http://www.jneuroinflammation.com/content/12/1/138

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