慢性腸炎症は海馬の神経新生を減少させると報告 [免疫・炎症]

腸炎症の急性期におけるp21Cip1(P21)誘導が、海馬の神経新生の減少をもたらす可能性があり、炎症性腸疾患(IBD)患者に起こる行動的症状の根底には海馬の神経新生減少が関係する可能性があると報告されています。

海馬下帯における神経新生は学習、記憶、および気分の制御に関与しており、この神経新生の減少は、認知機能障害やうつ病を含む重要な行動の変化を誘発します。炎症性腸疾患(IBD)は、腸管の慢性炎症状態ですが、認知機能障害およびうつ病がこの疾患に罹患している患者に頻繁に見られることから、関連性が研究されました。

大腸炎を誘導させるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与(3% wt/vol DSS in drinking water on days 1 to 5, 8 to 12, 15 to 19, and 22 to 26)したマウスを使用。7日目屠殺(炎症の急性期)、または治療開始後29日目に屠殺(炎症の慢性期)。

炎症の急性期にはIL-6の血漿レベル、およびTNF-αが増加し、炎症の慢性期には、海馬のp21タンパク質レベルの誘導が続きました。さらに、ネスチン(Nestin),脂肪酸結合タンパク質(Brain lipid-binding protein;BLBP)、およびダブルコルチン(DCX)を含む幹細胞/初期前駆細胞のマーカーは減少し 、グリア線維性酸性タンパク質(Glial fibrillary acidic protein;GFAP)、アストログリアのマーカーが誘導されました。

また、二重Ki67およびDCX染色によって、海馬におけるニューロン系統の増殖性前駆体の数が大幅に減少し、新しい神経細胞の産生の減少が示されました。

出典文献
Svetlana Zonis1, Robert N Pechnick, et al.,
Chronic intestinal inflammation alters hippocampal neurogenesis
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:65

脳に分布する主なグリア細胞はアストロサイト、オリゴデンドロサイトおよびミクログリアの3種に分類。アストロサイトが多様な神経伝達物質受容体を発現し、ニューロンの活動に応答して、自らも伝達物質を遊離することによってニューロン活動を修飾し、オリゴデンドロサイトが形成する髄鞘は神経活動に応じて拡大。さらに、ミクログリアがシナプスの再編成に積極的関与することなど、グリア細胞が高次機能発現に関与すると考えられています。

これらの事実はこれまでのようなニューロン中心の研究では脳機能の全貌を解き明かすことは困難であることを意味しています。

p21Cip1 :サイクリン CDK2 と CDK4、G1 で細胞周期の進行を阻害する細胞周期調節タンパク質。

Nestin はⅣ型中間径フィラメントの一つで,胚発生過程の初期において,中枢神経系(CNS)の幹細胞や筋細胞で発現しています。分化が進むにつれ,Nestin の発現は消失し,各組織に特異的な中間径フィラメントに置き換わっていきます。Nestin はCNS における神経幹細胞,神経前駆細胞のマーカーとして位置づけられています。

ダブルコルチン類似キナーゼは、遠位樹状突起に局在して樹状突起伸長とシナプス成熟の局所的制御を行うことにより樹状突起の発達を調節する重要な分子。

Brain fatty acid binding protein (B-FABP)、Brain lipid-binding protein (BLBP):同義語
脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid Binding Protein: FABP)は、水に不溶な多価不飽和脂肪酸を可溶化する細胞内キャリアーであり、リガンドである脂肪酸の細胞内動態を制御し、脂質代謝の恒常性維持やシグナル伝達に関与すると考えられています。
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