「絞扼性神経障害の鍼治療」出版のお知らせ [出版のお知らせ]

「絞扼性神経障害の鍼治療」を出版

本書は、絞扼性神経障害の概念、およびその基本的な病態を解説し、筆者が考案した基本的な鍼治療法を説明するとともに、22種類の疾患についての診断法と治療法を解説したものです。

各論の後に、絞扼性神経障害の範疇で捉えた他の疾患についても若干例ですが治療法を紹介しています。最終章では、私説として、筋による神経への直接的な障害を考慮して捉えた疾患概念を提唱しています。また、鍼による、新たな治療法になり得ると考えられる刺激法の例を、私がブログに紹介した文献から抜粋して紹介しています。

筆者は、1988年の全日本鍼灸学会誌において、絞扼性神経障害の概念と治療法を報告しました。以後、1992年までに主に下肢に生ずる絞扼性神経障害についての鍼治療法を報告しました。本書では、これらの知見に新たな文献を加えて解説しています。

著者名 : 小川義裕
発行所   : 虎の門針灸院
出版日 : 2015年3月22日初版
サイズ   : B5版, 188ページ, 図34枚
ISBN 978-4-9908155-2-3
C3047 ¥ 8500 E

解説している疾患
1. 胸郭出口症候群  
2. 絞扼性肩甲上神経障害
3. 絞扼性腋窩神経障害
4. 高位橈骨神経絞扼性障害
5. 橈骨神経管症候群
6. 異常感覚性手有痛症
7. 筋皮神経の絞扼性障害
8. Struther’s Arcadeによる尺骨神経の絞扼性障害
9. 肘部管症候群
10.回内筋症候群
11.前骨間神経症候群
12.手根管症候群
13.尺骨管症候群
14.梨状筋症候群
15.外側大腿皮神経の絞扼性障害
16.伏在神経の絞扼性障害
17.総腓骨神経の絞扼性障害
18.浅腓骨神経の絞扼性障害
19.腓腹神経の絞扼性障害
20.足根管症候群
21.前足根管症候群
22.Morton病 

図のサンプル
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市販はしておりませんが、希望される方にはこのブログを通じて販売しております。
購入を希望される方は、下記メールアドレスまで、「氏名、住所、電話番号、郵便番号」をお知らせください。折り返し、口座番号をお知らせ致します。入金を確認次第発送しますので、入金後1~2日で到着致します。

メールアドレス:dbqmw440@ybb.ne.jp

「はじめに」の一部紹介

 絞扼性神経障害(entrapment neuropathy)は、Kopell ,Thompson(1963)らによって提唱された概念であり、局所性のニューロパシーに含まれます。この疾患は、末梢神経が靱帯や筋起始部の腱性構造物などに接して走行する部位、筋・筋膜を貫く部位、および線維性または骨線維性トンネル内などにおいて、圧迫や何らかの機械的刺激を受けて生じる限局性の神経障害を総称したものです。
 末梢神経はその走行中に複数の部位で結合織性の固定をうけており、これらの部位では神経自体の伸延性に乏しいため、圧迫などの機械的刺激によって損傷を受けます。このような部位は全身に多く存在するため、日常診療において比較的頻繁に見られる疾患です。また、この圧迫は特定の部位で生じるため、本症を認識して局部の診察を行えば診断は比較的容易です。しかしながら、一般的に、不定の疼痛やしびれ感などの愁訴はその原因を中枢である頸椎や腰椎に求めやすい傾向があります。また、重度の運動麻痺を生じた手根管症候群などを除けば、整形外科医でさえも本症に対する認知度が低いため、誤診されている患者さんを少なからず見かけます。この原因として、鑑別の際に本症が念頭に置かれないこと、また、X線検査などに頼り過ぎて局所の診察が不十分なことが挙げられます。臨床的には、問題を引き起こす部位はほぼ決まっており、この疾患を念頭において診察すれば診断に苦慮することは少ないと言えます。 しかし一方、胸郭出口症候群のように、発症機序や病態の定義が曖昧であるため診断に苦慮する疾患もあります。また、神経の走行には分岐や吻合などの破格も多く、症状と神経分布が一致しない症例に少なからず遭遇します。このような場合でも、触診によって異常な部位を確認して治療することで多くは軽快します。鍼灸師の責務は確定診断をすることではなく、原因となっている病態を判断して治療することにあります。
本症は、日常の診療においては軽症例やsubclinicalな症例が多く、手術を必要とするような重症例は少ないため、治療が適切であれば鍼治療の効果は即効的です。また、鍼治療による効果の有無によって器質的要因の重大性や神経障害の程度を推測でき、保存的治療の限界と手術の適応性を判断する意味において診断的価値があります。端的に言えば、鍼治療で効果が得られない場合、その多くは保存的治療が無効であると予想できます。

 一方、手術を必要とするような重症例を除けば、整形外科などにおける治療は局所への麻酔薬の注射か温熱療法などであり、絞扼要因を軽減する観点が欠如していることに問題を感じます。温熱療法や低周波電気刺激などは悪化させることはあっても軽快させることはほとんどありません。さらに、これらの治療はentrapment pointのみを対象としており、圧迫を引き起こす誘因となっている、筋群の緊張が考慮されていません。さらに、臨床において多く見られる、同一の神経が複数の部位で圧迫される“double lesion neuropathy”の視点も欠如しています。先天的に存在する腱弓が圧迫の原因となっている場合においても、これらの腱弓に連続する筋群の過剰な緊張が、直接・間接的な要因となって発症の引き金になっています。その誘因として、不慣れな作業やover use、および外傷などのエピソードがほぼ全ての患者さんに存在しています。これらの筋の繰り返された収縮による神経への機械的刺激や圧迫、および緊張による神経の伸延性の阻害などが発症の契機になったものと推測されます。一鍼灸師では、神経伝導速度測定、超音波、およびMRIなどの検査は行えませんので診断が困難な場面もあります。しかし、これらの検査も万能とは言えません。臨床的には、神経伝導速度に異常を示さない症例の方がむしろ多いのです。手術を必要とするような重症例以外の患者さんに対する治療としては、多くが鎮痛剤の投与による経過観察が中心であり、整形外科的にはほとんど有効な手段があるとは言えません。これらの軽症の患者さんに対して鍼治療は圧倒的に効果的であり、重度の運動麻痺を除けばそのほとんどが数回の治療で軽快します。
 .........。

 筆者が、鍼灸の学会誌に外側大腿皮神経の絞扼性障害の病態および治療法を紹介したのは1989年のことでした。その後、1992年までに、伏在神経の絞扼性障害、腓骨管症候群および足根管症候群の病態と、考案した治療法を紹介しました。また、2006年に全日本鍼灸学会東京地方会からの依頼により講演を行い、同年、医道の日本誌に絞扼性神経障害の多重発症例を報告しました。初めての報告から既に25年の歳月が経過し、今では鍼灸師の間でも周知の疾患となっています。今更、絞扼性神経障害についての本を書くことに意義はないと思っておりましたが、1冊の本で20種類以上の絞扼性神経障害を網羅し、尚かつ、鍼治療の指針となるような解説書は見あたりません。そこで、日常診療における鍼灸師のための解説書として、本書の執筆を思い立ちました。

 筆者は絞扼性神経障害の治療において、絞扼に関与する筋の緊張緩和を重視しており、治療法は全ての絞扼性神経障害に対して共通するものです。この観点は、一見筋の緊張緩和のみを目標としているように受け止められますが、筋が持つ機能は単純ではありません。絞扼性障害の特徴として、神経支配域の変性を基盤とした軟部組織の線維化(myofibrositis)を生じますが、この部位への適切な刺鍼刺激は神経の回復を促進させるとの印象をもっています。また、骨格筋は運動器としての役割のみならず、「マイオカイン」と総称される生理活性物質を分泌する内分泌器官として捉えられ、代謝の主役として見直されています。現在、マイオカインの候補として30種類ほどが知られていますが、その効果やメカニズムが明らかになっているものは未だ少なく、研究はこれからと言えます。筋の伸展刺激や電気刺激によってIL-6, IL-8, GM-CSF, MIF, SPARK、VEGFなどが分泌され、自転車運動によってBAIBA, irisinが、筋の障害によってinsl6などが分泌されます。また、構成性に無刺激でIL-7,IL-15, Myostatin, Visfatinなどが分泌されます。IL-6は周知のように炎症性のサイトカインです。すなわち、筋の運動や異常な緊張は神経を機械的に刺激するだけではなく、炎症物質の分泌によって直接的に神経の炎症を引き起こす可能性も考えられます。さらに最近では、筋細胞分化に関わる因子として同定された転写因子であるMyocyte enhancer factor-2(MEF2)が、免疫系ではT細胞の分化・活性化、神経系ではシナプス機能の維持や調節に関与していることが明らかになってきています。例えば、パーキンソン病においてMEF2のS-ニトロシル化がニューロンの生存を制御していることが示されており、他の神経学的疾患でも同様の現象が起きていることが示唆されています。従来の絞扼性神経障害における病態の認識には、このような複雑な筋機能の視点がありませんでした。筋の多彩な機能については、未だ多くの未知な部分が多く、直ちに、治療に応用できる段階ではありませんが、このような視点に立つことで、今後の鍼治療の発展に寄与できるものと考えております。
なお、筆者は、このような観点とこれまでの臨床経験から、絞扼性神経障害を中心とする運動器疾患に内科的疾患を含め、筋の病理に関わる神経障害を1つの疾患概念として捉えた、「筋・筋膜性神経障害(Myofasial Neuronal Disorders ; MND)」を提唱するとともに、この概念による基本的な治療法を模索しているところです。
 ........。

追伸

「絞扼性神経障害の鍼治療」および「附着部障害の鍼治療」を購入された方へ 
          
「絞扼性神経障害の鍼治療」、および「附着部障害の鍼治療」の中の記述について、「刺法」の一部変更をお知らせいたします。

これらの書籍はオンデマンド印刷にて随時増刷しておりますが、その際に、ミスプリントや変更したい箇所など、部分的な修正を行っています。

この度増刷する、「絞扼性神経障害の鍼治療」、および近い将来に増刷予定の「附着部障害の鍼治療」の内容を若干ですが変更しております。変更はわずかですが、基本的刺法ですので、以前に購読された方のためにお伝えします。

「治療法の総論」の中で、筋の緊張緩和への刺法としては「散鍼」を原則とすると記していますが、現時点では寧ろ留鍼し、途中で何度か「搓捻」、および「堤・插」操作を加えています。この刺激は、附着部障害における附着部(enthesis)へのEt鍼、および絞扼性神経障害の鍼治療における絞扼点(entrapment point)に対する、“emancipation method”においても共通点があります。尚、これらの刺法によって、現在までに局所の炎症が悪化したことはありません。      

出版後も多くの知見が報告されており、新たな情報や疾患の追加など、何れ、改訂版の出版も必要になろうかと思われます。また、その他の疾患についてもまとめたいと考えています。しかしながら、一開業鍼灸師にとりましては、未解決の問題も実験的検証は行えず、臨床に頼るしかないため、実現できるかは未定です。 
               
尚、「釈迦に説法」になってしまうかも知れませんが、念のため、前述した、「搓捻」と「堤插」についてご存じ無い方のために簡単に説明いたします。

「搓捻」とは、要するに、留鍼中に鍼を回転させて刺激することです。「搓」は、180°以上の回転を強く加え、「捻」は、45°以内の回転を弱めに加える。これらの手技によってコラーゲン線維の一部を切断することで線維束の異常を回復させる。同時に、回転刺激によって「得気:deqi sensation」を生じさせることを重視しています。

経穴領域におけるコラーゲン線維の形態変化(巻き付きなどの異常)が経穴の構造、および病態に関与し、また、その解除が鍼治療の機序に大きく関与していると報告されています。経穴領域において、例えて言えば、絡み合ったコラーゲン線維の一部を切除して解除することでコラーゲン線維を正常化して病態を改善すると推測されます。

「堤插」の「插」は、鍼を中に進めることで、「堤」とは鍼を外に退くことを意味し、鍼尖を上下に1分程度の範囲で動かす操作。

双方向性の回転刺激の微妙な違いは、マウスの皮下結合組織の細胞応答に影響するようです。また、“堤插操作:Lifting and Thrusting Manipulation”を伴う鍼治療は、操作無しの治療と比べ、エンドトキシンの注射によって誘発された血清IL-1β、TNF-αおよびIL-6のレベル増加を有意に阻害し、抗炎症性サイトカインであるIL-4を上昇させたとも報告されています。

私は、コラーゲン線維への操作とは別に、神経に対する、ダメージを与えない程度の回転刺激は神経機能の回復に寄与するものと推測しています。これらの刺激法の組み合わせは、神経機能の促進や、異常なコラーゲン線維の正常化を促す効果が期待されると考えています。

尚、「絞扼性神経障害の鍼治療」の増刷は、10日ほどで完了します(本書は、5月28日に到着しました。)。

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