ベル麻痺の鍼治療には強刺激(得気)が効果的と報告 [鍼灸関連研究報告から]

ベル麻痺(特発性顔面神経麻痺)患者を対象として、強刺激( the de qi;得気)を加えた群と挿入のみを比較した前向き多施設共同無作為化比較試験の結果、より強い刺激が高い治療効果に関連したと報告されています。
(中国4大学、2病院;Tongji Hospital, Tongji Medical College, Huazhong University of Science and Technology, the Department of Neurology , Zhongshan Hospital, Fudan University, the Department of Neurology, Xiangyang Hospital Affiliated to Hubei University of Medicine, カナダ医師会雑誌)

無作為に、得気群167名とコントロール171名に割り付け、得気群へは手動で操作し、コントロールへは操作せず挿入のみ。主要転帰は、6ヶ月後の顔面神経機能の評価。但し、両群ともに、基本的治療としてプレドニゾロンが投与されています。これは初期治療としてルチーンな方法ではありますが、プレドニン無しの群の結果も見たかったのですが、、、。

6ヵ月後、得気群の患者の顔の機能は補正オッズ比[OR] 4.16(95% confidence interval [CI] 2.23?7.78)と、より優れていました。

「better disability assessment;障害者アセスメント」の最小二乗法の違いが9.80 (differences of least squares means 9.80, 95% CI 6.29?13.30)、「better quality of life;生活の質の向上」の違いは 29.86(differences of least squares means 29.86, 95% CI 22.33?37.38)でした。尚、ロジスティック回帰分析では、顔面神経機能におよぼす得気スコアの調整OR は1.07(95% CI 1.04?1.09)で、差はわずかです。

原文では、得気の説明として、「 soreness, tingling, fullness, aching, cool, warmth and heaviness, and a radiating sensation at and around the acupoints」などが、記されています。一般の方のために簡単に説明しますと、刺した部位から、患部へと響く「重だるい感覚」や、神経の走行に沿った「ビリビリとした感覚や痛み」などです。しかし、刺激の伝達は単純な1本の神経の走行の範囲のみではないことに特徴があります。

私は、神経分枝の吻合や脊髄レベルにおける複数の神経への連絡、および血管への刺激を契機とした神経刺激反応ではないかと推測しています。

中国の古典では、この得気を患部へと感じさせることを「気が至る」などと表現し、治療効果を得るための重要な操作と考えています。この考えには私も同感で、原因となる部位への施術によって、患部(患者さんが痛みなどを訴えている部位)へと響く放散痛(得気)を引き起こすことを目的に操作を行います。

しかし、先ず求められるのは、刺激の違いによる神経の応答を精査して、神経反応と治療メカニズムを解明すべきであり、その後、疾患や病態に応じた刺激法と経穴を選択することです。

この報告に述べられているような「中国の伝統的な理論」や、「気」などといった、大昔の未だ医科学が無かった時代の言葉や理論でかたづけるのは稚拙すぎます。また、要約のみで、詳しい施術部位(経穴)は不明ですが、写真で見る限り、単純に漫然と顔の経穴に刺しているだけであり、選穴に理論があるとは感じられません。

但し、1つ好感がもてるのは、刺激に電気を使用しなかった点です。私は、ベル麻痺への電気刺激は有害であると考えています。電気刺激は、初期の段階であれば炎症を悪化させ、麻痺の程度が比較的重症の場合には有害な「共同運動;噛むと目も閉じてしまう、など」の発症を助長すると考えています。

私の印象では、未だ刺法が確立した訳ではありませんが、刺激法(基本的な手技には無い方法)によっては、従来の常識よりも神経の回復を早められる可能性があると考えています。

Sha-bei Xu, Bo Huang, Chen-yan Zhang, Peng Du, Qi Yuan, et al.
Effectiveness of strengthened stimulation during acupuncture for the treatment of Bell palsy: a randomized controlled trial
CMAJ February 25, 2013 First published February 25, 2013, doi: 10.1503/cmaj.121108


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