鍼治療はうっ血性心不全患者の運動耐容能を改善する [鍼灸関連研究報告から]

 鍼治療は、うっ血性心不全患者の運動耐容能改善に付加的戦略となる可能性があるとともに、骨格筋機能を改善する可能性があると報告されています。

Acupuncture improves exercise tolerance of patients with heart failure: a placebo-controlled pilot study
Heart doi:10.1136/hrt.2009.187930 Published Online First 15 June 2010

 最適化心不全治療を受けている安定うっ血性心不全患者(NYHAII-III, 駆出率<40%)17名を対象に、ランダムにverum acupuncture(真の鍼治療群:VA)とplacebo acupuncture(プラシーボ群:PA)に割り付けて、心肺機能、QOLについて検討。

 6分間歩行距離安定性(6MWT)はVA群で著明に改善(+32±7 m) し、PA群では改善しませんでした (-1±11 m; p<0.01)。VA群では、換気効率のマーカーであるVE/VCO2 slopeも改善しました。

 QOLについては、SF-36 の‘general health’ score と ‘body pain’ score がVA群で改善。

 但し、心拍出量、PeakVO2(最高酸素摂取量)の改善は認められませんでした。PeakVO2は、心不全患者の予後推定指標として、心肺運動負荷試験の中でも重要視されています。

 鍼治療の作用機序として、筋交感神経活動の抑制が考えられています。筋肉の交感神経系活動性亢進は心不全患者の予後に関わります。鍼治療は、安静時交感神経活動性を抑制することが動物実験で認められれており、ヒトでも確認されています。交感神経抑制作用は、国内でも昔から多くの報告がありますし、鍼灸師であれば経験的にも理解していることです。但し、刺す本数が多すぎた場合や刺し方によっては、逆に、交感神経を興奮させます。この研究では長期的な治療効果は不明ですが、継続によって安定的な改善効果を期待できるのではないかと思うのですが。

Acupuncture Inhibits Sympathetic Activation During Mental Stress in Advanced Heart Failure Patients
Journal of Cardiac Failure Vol. 8 No. 6 2002

 心肺機能検査については私も詳しくはないのですが、知らない方のために。

 6MWTはGuyattらによって標準化が始まったself-paced testで,心不全や終末期の呼吸不全,慢性呼吸不全,慢性腎不全,疾病を有する小児,高齢者などを対象にした報告が数多く見られます.6MWTの目的は,中等度から重度の呼吸器疾患・心疾患患者の病態の日常生活への影響や介入効果を判定することです。正確なVO2maxや運動・作業制限因子を解明するものではないと言われています。従って6MWTは、日常生活における持久性を中心とした機能障害の程度と、介入効果を評価するツールの様です。

  VE/VCO2 slopeは、運動中の二酸化炭素排出量(VCO2)の増加に対する換気量(VE)の増加率を示し、換気効率を表しています。酸素消費と炭酸ガス排泄について、肺の機能の効率を評価する検査で、入院リスクを予測する指標ともなるようです。収縮期心不全患者では拡張期心不全や正常者に比べて高くなります。
 VE/VCO2 slopeは多因子によって影響されますが、心疾患の場合は主に、呼吸パターンの変化と肺換気血流不均衡の増大によって高値を示します。この指標は年齢と性差に影響されますが、その機序については明らかではない様です。

 PeakVO2(最高酸素摂取量)は、VO2maxの代用として運動耐容能の指標として用いられますが、負荷中止に至った理由を考慮して評価する必要があります。臨床的には、酸素輸送能の最もよい指標であり、重症度分類の客観的評価に用いられ、心不全患者の生命予後指標や治療効果の判定に使用されます。

 

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