鍼治療の末梢性鎮痛作用にはadenosine A1 受容体が関与 [鍼灸関連研究報告から]

 鍼治療による末梢性鎮痛効果にはアデノシンA1 受容体が関与し、鍼刺激はアデノシン分泌を高めると,マウスを使った実験で示されています。

Nanna Goldman, et al.
Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture
Nature NeuroscienceYear published: (2010) doi:10.1038/nn.2562
16 March 2010 Accepted 27 April 2010 Published online 30 May 2010

 動物実験ではありますが、鍼の鎮痛作用として中枢性のオピオイドによる作用とは別な、新たな作用機序の可能性が示されと言えます。

 周知の様に、アデノシンおよびアデノシン三リン酸(ATP)は生体内に遍く存在する物質です。ATPに代表されるアデノシン化合物は生命にとってのエネルギー源であると同時に、細胞の構造と機能の維持に必須の物質です。その一方細胞外では、プリン受容体を介して血管拡張をはじめとする多くの生理活性を発揮することが分かってきています。

 アデノシン化合物が中枢神経のプリン受容体中のA1 受容体を活性化すると、神経変調作用を通して鎮痛効果を発揮します。プリン受容体はP1・ P2受容体に大別され、さらに、4つのサブタイプ(A1, A2a, A2b, A3)に細分されます。
 
 アデノシンはP1受容体に作用しますが、末梢神経レベルではA1受容体を介して抗侵害作用を発揮します。一方、A2受容体を介して疼痛誘発作用を発揮します。脊髄後角レベルでは、A1受容体を介して抗侵害作用を発揮します。その機序は、K+ チャネルを開放し、細胞の過分極を生じることによってシナプス後ニューロンを抑制すると同時に、シナプス前ニューロンからのサブスタンスPやグルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の放出を抑制することによります。また、ATPは末梢レベルおよび脊髄レベルにおいてもP2X受容体を介して疼痛発生に関与します。

 アデノシン化合物による鎮痛は、アロディニアなどの神経因性疼痛に効果的な様です。アデノシンの持続静脈内投与(50~70μg/kg/min, 60分間)で、数時間~数日にわたる自発痛とアロディニアが軽減され、中には永続的な疼痛緩解が認められました。但し、70μg/kg/min.以上の高用量では、末梢侵害受容性神経刺激による胸痛などの身体各所の疼痛が生じたと報告されています。

 今後は、人体に対しての鍼刺激による、アデノシン分泌についての研究が求められます。既に、これらの研究報告をご存知の方はご教授下さい。

*Fukunaga AF : Adenosine compounds. “Textbook of intravenous anesthesia”, White PF(ed), Baltimore , Williams & Wilkins, 1997, : 413-432.

*Sawynok J : Adenosine receptor activation and nociception . Eur J Pharmacol , 1998, : 1-11.
Sollevi A, Belfrage M, Lundeberg T, et al. : Systemic adenosine infusion : A new treatment to alleviate spontaneous and evoked neuropathic pain. Pain, 1995, ;155-158.

*Segerdahl M, Sollevi A : Adenosine and pain relief : A clinical overview. Drug Dev Res ,1998, ; 45: 151-158.

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