呼気中一酸化窒素の測定は炎症状態の指標となる [鍼灸関連研究報告から]

 呼気中一酸化窒素(fraction of exhaled nitric oxide : FEno)が気道炎症を評価する客観的指標となることが明らかになっています。 

 日常臨床では、気道炎症の客観的指標は少なく、我々鍼灸師には尚のこと適切な手段がありません。風邪を引き金として発症する、急性の疼痛性疾患は多く存在します。これらの患者の診断や原因の証明、治療法の選択、刺激量の許容度を知るための指標など、確かな評価法が求められます。

 これまでのNO分析の機器は、理工系の実験に使用されるものが主で、大きく高額なものでした。しかし、欧米では既に、医療用として小型で安価な測定器が使用されています。これは、エアロクライン社(スウェーデン)製の「NIOX MINO:縦24cm、幅13cm、厚み10cm、0.8kg、ペットボトルを扁平にした様な形状」です。気道内に炎症がある場合にはNOが大量に放出されます。呼気中濃度が50ppbを越えると好酸球性気道炎症が強く疑われ、喘息患者の発作を予期することができます。投薬のタイミングなど適切な管理が可能となり、また、炎症の終息も判断できます。この測定器の測定範囲は5~300ppbと優れたものです。国内のメーカーに問い合わせましたが、何れも、ppmレベルで、装置も大がかりな物でした。

 日本では薬事法の認可は受けていませんので、一部の呼吸器系の医師は個人輸入を代行する会社へ依頼して入手しています。各種探しましたが、国内では、この器械程、高性能、コンパクトで低価格なものはありませんでした。輸入手続き込みの本体価格は75万円ですが、測定キットが使い捨てなため、一回に1600円のランニングコストがかかります。これが少々難点な事と、認可後は鍼灸師の使用が困難になることが予想されます。 

 私は20年程前から、将来の検査の主流は血液ではなく、「呼気分析」になるものと予想していました。この方法が普及し簡易なものとなれば、鍼灸師の診療スタイルも大きく変わり、客観的データが得られると期待していました。ほんの少しですが、可能性が見えてきた様です。

 これと関連する話では、名古屋工業大学・名古屋大学の野瀬和利・内藤 建・津田孝雄・近藤孝晴らの研究で、ヒト皮膚より水素、アセトンなどのガス状分子が放出されていることが発見されています。
Influence of cycle exercise on acetone in expired air and skin gas. Redox Rep. 2009; 14(6): 285-9

 アセトンは、血中グルコースが欠乏したときに脂肪酸の代謝によって生じます。これは、糖尿病の指標として用いられます。一方、大腸に存在する腸内細菌が、ヒトが利用できなかった炭水化物や食物繊維などをエネルギー源として利用する過程で、水素が発生します。このため、水素の過剰産生を検出することにより、腸管内における吸収不良の存在が診断できます。

 また、ガス状分子の別の機能として、水素ガスによる生体への効果が研究されています。日本医科大学老人病研究所生化学部門の太田成男教授のグループが「Nature Medicine」に発表した研究です。水素ガスの吸入によって、活性酸素の1つであるhydoroxylradical(ヒドロキシラジカル)をH2O(水)にする反応を促進させることができ、活性酸素による各種臓器へのダメージを防止できると報告されています。
“Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals, Nature Medicine 13, 688-694,2007. Published online: 7 May 2007|doi:10.1038/nm1577”

 ガス状分子は細胞膜を瞬時に通り抜けるため、神経伝達物質として使われるなどその機能は多彩で、今後大きな可能性を秘めています。

 ヒトの代謝産物を分析する上で、サンプルとして血液を用いない方法は、非侵襲・非観血分析として非常に重要になってきています。このような分析手法は、血液採取になんらかの問題がある患者に対してとりわけ有益であり、また、痛みを伴わないため在宅医療に広く適用できます。非侵襲・非観血で採取できるサンプルには、呼気、汗、唾液、尿、放屁などがありますが、中でも、「呼気分析」は将来鍼灸師にとっても有用なアイテムに成るものと予想しています。

NIOX MINO
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