経穴分布による経絡構造仮説の検証 [経絡とは]

経穴分布による経絡構造仮説の検証

 これまでに述べた、内経における「経絡の構造的検討」は、私の仮説に基づいて内経に記された経絡の流注の原文を解剖学的に解釈したものです。従いまして、実験や臨床的に検証できる類のものではありません。原典の解釈が、個々の場面において論理的に妥当か否かによって判断されるべきものです。

 この仮説の検証方法として、内経中に記述された経穴の存在部位を調べました。これは、内経中に出現する経穴は、神経・血管の走行が浅く体表面より捉えやすい領域にのみ限定される(これを有穴領域と仮称:『解釈法の統一』規定10))と予想したものです。内経(素問・霊枢)に記載された経穴の全てについて、その存在部位と有穴領域を比較検討しました。

 結論から述べますと、既に各経絡の稿で説明した様に、経穴の分布は推測と全て一致しました。同時に、“正経十二経脈”“絡脈”“奇経”の流注も、仮説どおり、同一の解釈法でほぼ100%再現できたことには大きな意味があります(但し奇経八脈については、記載の無いもの、記述の不備なものを除き、任脈、衝脈、督脈のみを解釈)。

内経中に出現する経穴

 各経絡の流注解釈の稿で出現経穴(Tabl-1)の分布については述べていますが、今回はまとめて説明します(拙著「内経医学に於ける正経十二経脈の構造的検討」より,医道の日本誌2000年7・12月号)。

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 私の調査では、正経十二経脈における“正穴”は132(左右計:264)、妊脈14(横骨2穴を含:15)督脈12穴を合計すると158(左右計:291 Table-1参照)です。現在の成書では片側で361となっていますが、これは内経以後に追加されたもので、恐らく「類経図翼」に従ったものと思われます。
 素問:気穴論には365穴と記されていますが、これは左右合計であるとともに重複して計算されています。王氷の割注では、重複する経穴を除くと313穴と記されており、私の計算でも314穴です。
 その内訳は、気穴論では熱兪穴59,水兪穴57,五臓の輸穴50,六腑の輸穴と原穴で72,局所別に127と記されています。しかし、その内容を水熱穴論によって確認すると、熱兪穴の内、頭上の25穴は局所別の頭頂の25穴と重複し、気衝,横骨,志室は水兪穴と重複し、三里は合土穴と重複しており、計33穴が重複しています。水兪穴では、照海,光信が局所別にも記され、復溜は経金穴,陰谷は合水穴でもあり、合計51穴が重複しているため、総数は314穴になります。
 この合計は、私の調査結果よりも22~23穴多いのですが、頭頂,胸兪,膺兪穴の多くは穴数のみで穴名は記載されていないため、これらの経穴の扱いは判然としません。経穴数は研究者によって若干異なりますし、そもそも内経の原典は失われていますので、本稿ではこれ以上の追求はしません。

 現在の経穴数と内経との差の原因は、体幹前部の経穴のほとんどが内経には出現していないことによります。これは同時に、私の解釈と一般説との根本的な違いと関連しています。経脈が上・下肢より体幹へ進む際、原典では「入る」と記述しており、体幹内部の走行を示していることは明白です。しかし一般説では、語句の意味を無視し、原典には記載もされていない経穴で結びつけて、体表面を平面的に走行させてしまう過ちをおかしています。

 我々が常識のごとく認識している経絡概念と経穴は原典に帰って解釈し、誤謬の原因となった歴史的経緯から捉え直す必要があります。その上で、現象としての経絡を総合的に解明すべきであると考えています。

 今回の結果で重要な点は、私が解釈した経脈流注と予想された経穴分布が一致したことにあります。即ち、内経によって記された経脈は具体的な構造を基に発想され構築された概念であるということです。そして、「陰経は血管」,「陽経は神経」を結びつけて考案したものと言えます。
 
 内経による流注の記述は必ずしも十分ではなく、私の恣意的な解釈が混入していることも否めません。しかしながら解釈は、前後および全体の流れと、他の全ての経絡の流注との整合性を考慮しています。従って、全体の整合性を考慮しますと大きく変更することは不可能と考えられます。全体像を概観し判断すると、細部はともかくとして、コンセプトは間違ってはいないと考えています。(今回のブログでは修正していますので、以前に専門誌に提唱した内容とは一部異なっています)

 従来の仮説は、何れも経絡流注の一部についてのみ、体表面の温度分布、神経・血管の走行、電気抵抗および、経感伝現象などを取り上げて議論しているに過ぎません。内経に記された、流注の全体を説明できたものはありません。これは極めて大きな問題であり、決定的な欠陥と言えます。科学は先ず、“全て”を説明することから始まります。その上で、実証され普遍性を得るものです。私の仮説は全てを説明した点で、取り敢えずスタートラインに立てたものと言えます。

追伸

2015年1月6日に、「中医学の誤謬と詭弁」を出版しました。
本書に、臓腑経絡学説の本質について解説しています。市販はしておりませんが、当ブログにて販売を受け付けています。詳しくは、カテゴリーの「出版のお知らせ」をご覧ください。

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