奇経の構造 (督脈) [経絡とは]

 奇経とは、正経十二経脈と絡脈とは異なる別ルートとしての、8種類の経脈を指します。その内訳は、督脈,任脈,衝脈,帯脈,陰蹻脈,陽蹻脈,陰維脈,陽維脈です。督脈と任脈は、経絡図にも示されていますので、一般の方も見覚えがあるかも知れません。奇経についても、これまでと同様に構造的に検討したものを紹介します。

 「奇経八脈」の流注経路については、内経の記述は分散していて系統的ではありません。本稿では、内経の記述にもとづいて解釈するため、内経中に流注の記載が無いか、説明が不十分な経脈は除外しました。

 先ず、陰維脈,陽維脈は内経に記述はありません。帯脈は霊枢:経別篇の、足の少陰の経別の流注説明中に「…帯脈ニ属スル…」と記されているのみで、流注については記載されていません。何れも、「難経」中に簡単に記されているのみです。陰蹻脈は霊枢:脈度篇に少陰の別として記載されていますが、流注経路は足部から頭部までの長さの割に説明が少ないため、特定することが困難です。陽蹻脈は同篇に名称が記載されているのみです。
 
 督脈,任脈及び衝脈の三経のみが、流注経路についての記述が十分であり、さらに、この三経は経絡概念の全体像を考察するうえで重要であると考え、解釈しました。

 流注解釈の方法はこれまでと同様に、内経の記述に忠実に行います。従って、一般常識としての現在の流注解釈や、経絡図とは大幅に違っています。先に、十二経脈の解釈に於いて規定した条件に従って、解剖学的,文献的に進めます。

 尚、これらの三経は何れも血管であると判断して解釈しています。文中の番号は、原文と解釈文および、同様の走行領域に対応させています。

督脈

流注 
 「素問:骨空論」より。督脈ハ、(1)少腹ヨリ下ノ骨ノ中央ヨリ起シ、女子ハ廷孔ニ入リ繫ル。其ノ孔ハ溺孔ノ端ナリ。(2)其ノ絡ハ陰器ヲ循リ、簒間ニ合シ、簒ヲ繞リシノチ、別レテ臀ヲ繞リ、少陰ト巨陽ノ中絡トニ至りテ、合ス。少陰ヨリ股内後廉ヲ上り、脊ヲ貫キ腎ニ属ス。(3)太陽トトモニ目内眦ヨリ起シ、額ニ上リ巓上ニテ交ワル。入リテ脳ニ絡シ、(4)還リ出デテ別レ項ヲ下リ、肩膊ノ内ヲ循リ、脊ヲ挟ミ腰中ニ抵ル。入リテ膂ヲ循リ腎ニ絡ス。
(1)サテ、男子ハ茎ヲ循リ、下リテ簒ニ至リ、女子ト等シクナル。(5) 其ノ少腹ヲ直上スルハ臍中央ヲ貫キ、上リテ心ヲ貫キ、(6)喉ニ入リ、頤ニ上リ、唇ヲ環リ、上リテ両目ノ下中央ニ繫ス。

流注解釈 
 (1)子宮動脈を起点として、膣動脈へ進み膣にて内陰部動脈の膣前庭球動脈に結ぶ。(2)陰核動脈にて陰部に沿って進み、会陰動脈で会陰に合し前,後陰唇枝で周囲を回り、内陰部動脈を中枢へ少し戻り、下殿動脈へ向かい坐骨神経伴行動脈(坐骨神経は太陽経)内側回旋動脈との吻合より大腿動脈(足の少陰)へ入り足の少陰と合流する。ここより大腿内後側を上り、腹大動脈から腰動脈に入り、椎体動脈および椎間関節周囲、棘突起周辺の吻合枝に分布するとともに、腎動脈にて腎へ入り属す。
 (3)太陽経と共に、目の内側より眼角静脈にて始まり滑車上静脈を上り頭頂にて交わり頭頂導出静脈より上矢状静脈洞へ連絡し脳内に分布する。(4)後頭導出静脈にて脳内より戻り出て左右の後頭静脈に別れて下り、後外椎骨静脈叢へと入り項部を下り内椎骨静脈叢へと連絡して椎間静脈より肋間静脈へと進み、肋間静脈背枝で(足の太陽及び絡脈と同様に)肩背部に分布しつつ、腰静脈の脊髄枝で脊椎を挟み背枝で腰筋に至る。さらに、前,後内椎骨静脈叢へ入り脊柱管内を脊髄に沿って行く。また、上行腰静脈より腎静脈を経て腎に分布する。
 (1)男子は、陰茎動脈にて陰茎に沿って行き、下って会陰動脈へ進み女子と等しくなる。
 (5)会陰動脈より内腸骨動脈を経て臍動脈にて下腹部を上り臍を貫き、〔臍静脈へ出て静脈管に入り肝臓の下面を過ぎ下大静脈に入り〕上って心臓を貫く。(6)心臓を抜け、上大静脈を上り内頚静脈より顔面静脈に入り頤へと上る。上,下唇静脈で口唇を回り、さらに上って両目の下の下眼静脈に結ぶ。〔恐らく、下眼静脈より海綿静脈洞を経由して、横静脈洞さらにS状静脈洞乃至は乳突導出静脈より後頭静脈,または,顆導出静脈より椎骨静脈叢へと頭蓋底を通過する経路も考えて、(4)の項部へと連絡させているものと思われる。〕

督脈の流注経路の要約と意義

 督脈の流注経路は複雑ですが、整理しますと。
 (1)は子宮動脈を起点として、腹部大動脈より腎へ至る経路。
 (3)は足の太陽経と同一の領域を走行し腎へ至る経路。また、頭頂導出静脈によって頭蓋内へ連絡していることも認識している。
 (5)は胎生期の循環を示し、(6)で心臓を経由して下眼静脈に入る。恐らく、海綿静脈洞を抜け(4)に合流することも考えていたものと推測しています。
   
 督脈は生殖器と腎臓及び腎臓と脳,脊髄を結びつけた経脈であると考えられます。内経では腎と生殖器を深く関連ずけていますが、これは先述したように、腎臓と生殖器の発生の観察を基にした認識と考えられます。腎臓と脊髄はその位置関係より関連ずけ、脳は脊髄の延長として認識しています。
 胎児と母胎を結ぶ臍動脈によって母胎と生殖器と腎臓を結び、臍静脈で下大静脈,内頚静脈,顔面静脈を経由して脳,脊髄を結ぶ循環を発想しています。
 私の推測が正しければ、導出静脈によって頭蓋の内外の静脈が連絡することも認識し、胎生期の血管についても観察していた可能性があります。

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追伸

2015年1月6日に、「中医学の誤謬と詭弁」を出版しました。
本書は、臓腑経絡学説の本質について解説しています。市販はしていませんが、希望者には当ブログにて販売しています。詳しくは、カテゴリーの、「出版のお知らせ」をご覧ください。
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