経絡構造  (足の陽明胃経)  [経絡とは]

3 足の陽明胃経

 内経のルーツである、「帛書」の中の“陰陽脈灸経”、“足臂十一脈灸経”の何れにも、陽明経と胃との関連性は記されていません。また、胸部・腹部の走行の記述は簡単過ぎて流注の判断はできません。さらに、主治する腹部症状としては、腹・腹外側の腫れ・腸痛しかありません。つまり、胃と陽明経は関連づけられていません。
 一般的な鍼灸治療学書(6種類)に記された、胃経の経穴の主治症状の検証では、頭・頚部では人迎穴、足では梁丘・足三里・内庭穴のみに、上腹部および胃の症状が記載されていました(局所穴としての腹部の経穴は除く)。私も、胃を含めた上腹部症状に対しては胃経の経穴はほとんど使用していません。従いまして、何故この経脈を胃と結びつけて構成したのかは現時点では理解できません。

流注

 霊枢:経脈篇ヨリ。胃ハ足ノ陽明ノ脈ニシテ、(1)鼻ヨリ起シ、安頁中ニ交ワリ、傍ニイキ太陽ノ脈ニ納メ(約シ)、下リテ鼻外ヲ循リ、上歯ノ中ニ入ル。(2)還リ出デ、口ヲ挟ミ、唇ヲ環リ、下リテ 承漿ニテ交ワル。(3)却キテ頤ノ後下廉ヲ循リ、大迎ニ出デ、頬車ヲ循リ、耳ノ前ヲ上リテ、客主人ヲ過ギ、髪ノ際ヲ循リ、額顱ニ至ル。 (4)ソノ支ナルハ、大迎ノ前ヨリ人迎ニ下リ、喉龍ヲ循リ欠盆ニ入ル。(5)膈ニ下リ、胃ニ属シ、脾ニ絡ス。(6)ソノ直ナルハ、欠盆ヨリ乳ノ内廉ヲ下リ、下リテ臍ヲ挟ミテ、気街ノ中ニ入ル。(7)ソノ支ナルハ、胃口ヨリ起シ、下リテ腹裏ヲ循リ、下リテ気街ノ中ニ至リテ合ス。(8)以テ、脾関ニ下リ、伏兎ニ抵リ、膝臍ノ中ニ下ル。(9)下リテ 脛ノ外廉ヲ循リ、足足付ニ下リ、中趾ノ内間ニ入ル。(10)ソノ支ナルハ、膝ヲ下ルコト三寸ニシテ(下廉三寸)別レ、下リテ中趾ノ外間ニ入ル。(11)ソノ支ナルハ、足付ノ上ヨリ別レ、大趾ノ間ニ入リ、ソノ端ニ出ヅ。

語彙説明

 頞中(あっちゅう):鼻梁・納め(甲乙経では“約シ”):纏う・還:戻り・承漿:穴名、オトガイ唇溝の中央・却キテ:退いて・額顱:前額部髪の下・喉龍:喉頭・欠盆:鎖骨上窩の胸郭上口:膈:隔膜・気街:そ径靱帯下・脾関,伏兎:穴名・膝臍:膝蓋骨・足跗:
足背
        
 流注解釈
(1)大腸経終末の外鼻枝,下眼瞼枝(眼窩下神経)にて鼻より始まり、眼瞼枝(滑車下神経の終末枝)へ連絡して内眼角の皮膚へ向かい、左右の分枝が交わると見た。ここで外側の太陽経に纏って、外鼻枝を鼻の外側に沿って下行して神経孔より入り上歯神経叢に入る。(2)〔三叉神経節〕まで戻り、頬神経にて出て口角の皮膚に至り、顔面神経頬筋枝(頬神経と口角の皮膚で結合)にて口を挟み走行する。ここで、左右の頬筋枝が承漿にて交わると見た。(3)退いて、下顎下縁に沿って下顎縁枝(顔面神経)を逆行し、下顎角後方で広頚筋 後縁より出て耳下腺神経叢を過ぎ、耳介側頭神経(三叉神経と交通する)を髪際に沿って上がり前頭神経(耳介側頭神経の終枝である浅側頭枝は前頭神経と吻合する)にて前頭部に至る。(4)その支脈は、顔面神経より迷走神経に交通し、 喉頭の外側に沿って下行して胸郭上口へ入る。(5)迷走神経にて横隔膜を貫通して下り、胃に分布し脾枝にて脾臓に結びつく。(6)その本脈は、〔迷走神経より上頚神経節へ連絡しC3~5の交通枝より 横隔神経へ入る〕横隔神経にて乳頭内側の胸部を下り、〔横隔膜下面に出て横隔神経叢で交感神経幹に入り、交通枝にて〕Th11~12の肋間(肋下)神経にて腹部正中へ向かって斜めに下り臍を挟む。また、L1大腿神経へ入り鼠茎部へ行く。(7)その支脈は、迷走神経胃枝,胃神経叢より腹腔神経叢,腸骨動脈神経叢より大腿動脈神経叢へと進み鼠茎部の中央にて大腿神経と合流すると考えた。(8)大腿神経にて大腿前面を下り、大腿神経の小関節枝にて膝の関節包前面上部に下る。[ここより、総腓骨神経の関節枝のうち関節包の外側から前面に分布する枝に連絡して深腓骨神経へ入り](9)深腓骨神経を下腿外側に沿って下り、外側分枝(通常は第1/2趾間の対向縁に分布するが、頻度は高くはないが、末端が内側分枝と外側分枝に分かれて第2/3趾対向縁に分布するタイプもある)にて中趾の内側に入る。(10)その支脈は、膝下3寸で浅腓骨神経に分かれ、中間足背皮神経にて中趾の外側へ行く。(11)その分枝は、足背より(内側足背皮神経の分枝)別れ、第1,2趾間に入り、内側母趾背神経にて母趾内側先端の皮下に出る。(この領域は、胆経の支脈および、絡脈と重複している。足背神経の分枝には種々のタイプがあり混乱したものか、意識的に使い分けた可能性もある。)
 
経穴分布 
 腹部では、Th11~12の肋間神経にて、腹部を中心へ向かい臍を挟むまでの部分は有穴領域と予想されますが、実際に天枢穴が記述されています。その他の、胸,腹部は無穴領域と予想され、実際に経穴の記述はありません。従って、私の仮説と全て相合します。

 一般的に使用されている、頭部,顔面・胸,腹部前面の胃経の経絡図は、簡略化して便宜的に作成された体表への投影図と考えるべきです。     

足の陽明胃経流注図

img002.gif

追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0