経絡構造 (足の太陰脾経) [経絡とは]

 脾経の流注の、その構造の全体像を見ますと、内経が言う「脾」は脾臓でなければ構成できません。 かつて、内経に記された「脾」とは脾臓なのか、膵臓かという論争がありました。現在一般的には、膵臓を中心にした消化機能の全体像を示しているとされています。私は、以前よりこの考えには反対の立場です。但し、この経脈の流注の全体を見る限り、脾臓と関連させ、これを冠とした理由は分かりません。

4 足の太陰脾経
 霊枢:経脈篇ヨリ。脾ハ足ノ太陰ノ脈ニシテ、(1)大指ノ端ヨリ起シ、指ノ内側ノ白肉際ヲ循リ、核骨ノ後ヲ過ギ、内踝ノ前廉ニ上ル。(2)臑内ヲ上ガリ、脛骨ノ後ヲ循リ、厥陰ノ前ニ交差シテ(原文の「交出」は交差と訳す)、(3)膝ヨリ股内ノ前廉ヲ上リ、(4)腹ニ入リ、脾ニ属シ、胃ニ絡ス。(5)膈ヲ上リ、咽ヲ挟ミ、舌本ニ連ナリ、舌下ニ散ル。(6)ソノ支ナルハ、復タ胃ヨリ別レテ、膈ヲ上リ、心中ニ注グ。

語彙説明
 白肉際:この場合は、足の甲と裏との境目・核骨:第1中足骨頭・臑内:下腿内側・

流注解釈
(1)内側母趾背神経の末端より背側趾静脈に連絡して始まり、第1中足骨頭部を過ぎ、内側縁静脈にて内果の前縁に上がり、(2)大 伏在静脈に入り下腿内側を上がり、脛骨の後側に沿って進み、厥陰肝経の前に交差して(伏在静脈の枝を肝経と分け合い)(3)膝より大腿前内側を副伏在静脈を上がり、(4)外腸骨静脈に進み腹部へ入り、下大静脈より左腎静脈から脾腎静脈副行路を経て脾臓に属し、脾臓より、短胃静脈にて(乃至は胃腎静脈副行路を経て)胃にも連絡する。(5)脾動脈より腹大動脈へ進み隔膜を上り、左右の総頚動脈に入り咽を挟み上り、外頚動脈から舌動脈に進み舌に連なり舌下動脈で舌下に散る。(6)その支脈は、左胃静脈より左横隔静脈へ進み胃と別れ、横隔膜を上り心嚢静脈に進み心臓へ注ぐとみた。(これは胃横隔膜副行路であり、肋間静脈、奇静脈へと連絡する。また、左腎静脈からは、胃や左下横隔静脈への側副血行路もある。)
 
経穴分布
 流注解釈より、外腸骨静脈より舌静脈に至る範囲は無穴領域と予想されます。大包は「霊枢:経脈篇」に記述されていますが、「脾の大絡」として記されていますので、脾経からは除外しました。これによって、全て相合すると判断しました。

 「概略」でも述べたように、正経脈が体表を走行するものでないことは経脈篇にも明記されています。但し、一ヶ所だけ例外が記されています。経脈篇によれば、「経脈十二者.伏行分肉之間.深而不見.其常見者.足太陰過於外踝之上.無所隠故也.」と記されています。但し、脾経では外果上では矛盾しますので、内果上の誤りと判断します。その結果、私の仮説でも、脾経の下腿内側の走行は伏在静脈ですので、正経脈の中で唯一見える領域であることより、経脈篇の記述と一致します。

 脾経は、その支脈で心臓へ注ぎますが、これを左横隔静脈より心嚢静脈へ進むと判断しました。さらに、ここより脾の大絡が始まり、肋間静脈を経て胸腹壁静脈へ進み大包穴へと出ます。支脈とは別に、脾気を肺へ運ぶ経路を考えています。
 素問:経脈別論によれば、「飲の胃に入れば、精気を遊濭し、上りて脾に輸す。脾気は精を散じ、上りて肺に帰す。」と記されています。これは、胃によって消化吸収した精気(微)を左胃大網動脈を上り脾臓に運び、脾動脈を出て、腹腔動脈より肺経の経路と同様に肺へ運ぶと考えたものと思われます。つまり、脾の水穀を精微と化して全身に輸布する運化機能と、精気を上昇させる昇清機能は、このような臓器の位置と血管による関係から想像した素朴な発想です。
 脾には消化機能の概念もあるので、膵臓の機能も含まれるとする意見は、生理学の知識があるために古人の想像する消化と、現代医学の消化機能を同一視したことによる誤謬に過ぎません。内経による脾とは脾臓そのものです。
 絡脈の別脈として、脾静脈より下腸管膜静脈にて腸に分布する経路があります。私の解釈が正しければ、門脈圧亢進の際の側副血行路のひとつである脾静脈と、下腸管膜静脈の怒張に注目し、脾経の支脈として想定したものと推測されます。

足の太陰脾経流注図

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追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。

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