「是動病・所生病」とは何か-4 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の各経脈病候

8.足の少陰腎経
 
 是動病および[ 推測される医学的症候]
 飢えるも食を欲さず・面漆柴の如く・咳唾すれば血有り,喝喝として喘す・坐して起たんと欲すれば,目こうこうとして見る所無き, 心は懸れるが如く,飢えたる状の如し, 気足らざれば善く恐れ,心愓愓として人が将に捕らえにくるが如し,是を骨厥と為す
[食欲不振・腎不全による顔色か紫斑による黒色・ 出血傾向・呼吸困難・ 立ちくらみ(貧血)・錯乱,譫妄]

 所生病および[推測される医学的症候]
 口熱し,舌乾き,咽腫れ,上気し,嗌乾き及び痛む ・ 煩心し心痛む・黄疸し・腸澼す・脊股内後廉痛み,痿厥し,嗜臥,足下熱痛す
 [発熱・のぼせ・口渇, 咽喉痛・胸痛・黄疸・下痢・疲労感・関節痛,筋肉痛]

 以上の結果より、推測される疾患名は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

 TTPは、肺を除く、抹消の細小動脈(特に脳、腎)が血小板によって閉塞することで発症します。TTPの古典的5大徴候は、溶血性貧血・血小板減少性紫斑病・発熱・精神神経症状・腎機能障害です。
 後天性TTPでは、疲労感、吐き気、筋痛が先行し、発熱,貧血,出血,精神神経症状として、意識障害,錯乱,麻痺,失語,痙攣,知覚障害,視力障害・頭痛・血尿・蛋白尿などが起きます。
 血小板の減少による出血傾向によって、些細な打撲程度で紫斑を生じます。また、ほぼ全ての患者に、点状・斑状の皮下出血斑が自然発生的に生じます。その他、鼻出血、歯肉出血、性器出血も見られます。
 記述された症候を検討しますと、先行する症状としての疲労感,筋痛、溶血性貧血によると推測される、黄疸,立ちくらみがあり、発熱症状・精神症状として、錯乱,譫妄、咳による出血、顔色の黒は紫斑によるものか、腎不全によるものかは不明ですが、何れも本症の症状です。但し、腎障害については明確な記載はありません。腎障害を示す症候ははっきりしませんが、そもそも腎臓には特徴的な症状は乏しく、また、内経当時には腎機能の認識は未だ無かったため、腎障害の症状を鑑別して分類することは困難であったと思われます。さらに、5大徴候とは言え、これらの症状が全て揃うことは稀であり、厳密に疾患名を特定することのみに固執することは危険でもあります。
 以上の結果、医学的確定診断は困難ですが、ほぼ本症の要件は満たされているものと判断しTTPの可能性が高いと結論しました。症候の解釈に恣意的側面があるとの批判はあるものと思われます。無論、古代の記述のみによる診断には自ずと限界があります。そのことを踏まえた上でも、これらの症状群を特定の疾患の症状として認識したものと判断しました。

9. 手の厥陰心包経

是動病および[推測される医学的症候]
手心熱し・腋腫れる・甚だしければ胸脇支満し,心中憺々として大いに動く・面赤く目黄ばむ・臂肘攣急し,喜笑して休まず
[発熱・リンパ節腫脹・ 胸痛,心悸亢進・発熱・黄疸・小舞踏病]

所生病および[推測される医学的症候]
 煩心し,心痛し・掌中熱す
[胸内苦悶感・胸痛・発熱]

 以上より、推測される疾患名はリウマチ熱。

 胸痛,心悸亢進等を心炎によるものと推測し、「臂肘攣急,喜笑して休まず」は、四肢,顔面の不随運動と判断して小舞踏病とすると、リウマチ熱の大症状の2つが揃います。多発性関節炎と思われる症状は記載されていませんが、小症状の内、発熱、感染症によるリンパ節腫脹と思われる記述があります。また、うっ血性心不全によると思われる、黄疸症状も記載されています。従って、リウマチ熱と判断しました。

 次回、10.手の少陽三焦経につずく。





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