「是動病・所生病」とは何か-3 [黄帝内経の疾病観]

 正経十二経脈の病候の診断

 4.足の太陰脾経

是動病および[推測される医学的症候]
舌本強ばる・食すれば嘔し, 胃脘痛み,腹脹り,善く噫す, 後(大便)と気(放屁)とを得れば快然として衰うるが如く・身体は皆重し
[脳血管障害・ 嘔吐,上腹痛,膨満感,噯気, 大便,放屁にて軽快・易疲労感]

所生病および[推測される医学的症候]
 舌本痛み・体は動揺すること能わず・食下らず・煩心し,心下が急に痛む・溏し瘕泄し・水閉じ・黄疸し・ 臥すこと能わず,強いて立てば股膝の内腫れ,厥し,足の大指用いられず
[口腔内潰瘍・脳血管障害・嚥下困難,胸内苦悶,心窩部痛・水様性下痢・尿閉・黄疸・筋痛,関節炎,末梢神経炎]

 以上の症候群より、推測される疾患名は結節性多発動脈炎(“医道の日本誌”への報告では、以前の分類である“結節性動脈周囲炎”と診断)が考えられますが、確定は困難です。
 
 現在の診断基準では、組織所見(中・小動脈フィブリノイド壊死性血管炎の存在)と主要項目2項目(全部で10種)以上で“確実”とされ、2項目以上と血管造影所見(腹部大動脈分枝の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞)の存在、または、主要項目の「発熱」を含む6項目以上で、“疑い”となっています。組織所見・血管造影は不可能ですから、主要6項目が必要となります。
 医学的に解釈した症候を検討すると、舌が強ばる、体を動かせないことを脳血管疾患による運動障害、消化器症状を腸閉塞、胸部苦悶感、心窩部痛を胸膜炎、心膜炎・虚血性心疾患・心不全など、尿閉を腎不全によるもの、筋痛、関節炎で、一応6項目となります。
 但し、必須の症状と言える“発熱”の記述がないことには大きな問題があります。心膜炎・虚血性心疾患の判断も決め手に欠けていますが、仮に、心窩部痛と嚥下障害を食道潰瘍によるものとすると他の症状は説明できません。また、心膜炎でも嚥下障害は起きることがありますので、胸部の苦悶感と合わせ、心疾患であると判断しました。胸膜炎は、乾性では胸痛を初発としますが、浸出性の場合は、倦怠感はありますが、発熱、せきと、胸水を疑わせる記述もないため決め手には欠けます。
 従いまして、結節性多発動脈炎と確定するには無理があります。本症は、全身の諸臓器に分布する血管の炎症であるため、症状は極めて多彩です。臨床的にも、各症状の発症が極めて流動的で一定の形式がないため、これらの症状群を本症によるものと判断することは困難であったと思われます。それでも、繰り返し言いますが、これらの症状群を特定の疾患単位で認識している事実は重要です。逆に、これらの症状群を同時に充たす疾患を想定すると、本症である可能性が最も高いと思われるのです。

 5.手の少陰心経

是動病および[推測される医学的症候]
 嗌が乾く・心痛み・渇して飲まんと欲す是れを臂厥と為す
 [口渇(ショック)・胸部痛・ショックによる喝]

所生病および[推測される医学的症候]
 目黄となる・脇痛み,臑臂の内後廉が痛む, 厥し,掌中熱し痛む
 [黄疸(心不全による)・関連痛・発熱・関連痛]

 以上の症候群より、推測される疾患名は心筋梗塞

 心臓に由来する胸部痛と脇・上腕内側への関連痛があり、さらに、口渇,黄疸を心不全によるものと推測すると、心筋梗塞の可能性が最も高くなります。

 6.手の太陽小腸経
      
是動病および[推測される医学的症候]
 嗌(咽喉)痛み・頷(顎のつけ根)腫れ,顧みることができない・肩抜かれたるに似る,臑折れたるに似る
 [咽喉痛・耳下腺の腫脹・関節炎]

所生病および[推測される医学的症候]
 耳聾・頬腫れる・目黄ばむ・頚,頷,肩,臑,肘,臂の外後廉痛む
 [難聴・頬部腫脹・黄疸?・関節炎,多発性神経炎]

 以上の症候により、推測される疾患名は流行性耳下腺炎

 発熱の記述はありませんが、喉の痛みから感染症が疑われ、顎のつけ根や頬部の腫脹より本症が考えられます。関節炎,聴力障害,多発性神経炎,脊髄炎は頻度は少ないものの、本症の合併症状です。黄疸も頻度は少ないのですが、肝臓への侵襲も時に認められ生じます。

 7.足の太陽膀胱経

是動病および[推測される医学的症候]

 頭に衝いて痛む・目が抜けるに似る・項が抜けるが如く, 脊が痛む・腰が折れるに似る・髀曲げるに可ならず,膕結ぶが如く・踹裂けるが如く,踝厥なり
 [頭痛・項部痛・腰痛・四肢関節痛・腓腹筋痛]

所生病および[推測される医学的症候]
 痔・瘧・狂,癲疾す・頭,顖,項痛む・目黄ばみ・涙が出る・鼽血刀 ・項,背,腰,尻,膕,踹,脚皆痛み,小指用いられず
 [血便・発熱・意識障害・頭痛,項部痛・黄疸・鼻出血・項部痛,関節痛,筋痛]

 以上の症候より、推測される疾患名は黄疸出血性レプトスピラ症(ワイル病)

 発熱,頭痛,腰痛,腓腹筋痛,四肢の関節痛,鼻出血,結膜充血(不明快)は、本症の第1期症状として全て相合します。特に、項部と腓腹筋の強い痛み,鼻出血は特徴的である。第2期症状としての、黄疸,意識障害,血便も記載されています。3主要徴候は、黄疸,出血及びタンパク尿ですが、尿検査は不可能であるためタンパク尿は確認できません。それでも、症状は全て一致していること。また、この他の症状として、悪心,嘔吐,腹痛,血痰,喀血,性器出血もあり、本症の特徴は網羅されているので確実性は高いと言えます。



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