COVID-19重症患者の悪化要因から見えること [医学一般の話題]

ウイルス名;SARS-CoV-2による、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者の一部が重症化する原因を考えると、多くの疾患の重症化に共通するメカニズムが見えてくる。重症化した病態の本質は、自身の免疫の暴走による全身性の炎症である。

ウイルスの侵襲に対して自身の免疫が強く反応して暴走する、「免疫の嵐;サイトカインストーム」が起こり、肺や腎臓など、多臓器にダメージが生じてショック状態に陥って心肺停止で亡くなる。中には、ついさっきまで普通に談笑していた人が、わずか数時間で亡くなる事もあるとか。欧米では、重症化する患者が多いようだが、未だ、確かなことは判らない。

周知のように、中国における約45,000人の症例分析では、COVID-19が重篤な病態となる可能性が最も高い人々は、高齢者や併存疾患を有する人々であることが示唆されている。それ以外の健康な人の死亡率は1%未満で、心血管疾患を有する人々の死亡率は10.5%、糖尿病患者では7.3%、慢性呼吸器疾患、高血圧、または癌の患者では約6%で、80歳以上の患者では14.8%。

全体として、既知の症例の2.3%が致命的であった。この死亡率は、日本、韓国およびアメリカなどでもほぼ同様の値となっている。しかし、多くの専門家は、多数の軽症例が診断されていない可能性を考慮すると、この死亡率は過大評価であると述べている。但し、イギリスやイタリアでは7~8%、フランスでは13%以上と突出して高いが、この要因についていくつか考えられてはいるものの定かではない。

年齢とともに重症度が高まるこのパターンは、他のウイルスの流行、特に1918年のインフルエンザ大流行の時の、幼児と20歳から40歳までの人々の死亡率が高かったパターンとは異なっており、SARSとMERSコロナウイルス流行の記録と一致している。

悪化するか否かは患者の一般状態も影響するが、個人の免疫応答が大きく関与している。SARS-CoV-2が人間の気道の中に入ると、気道を覆う細胞に感染して増殖する。肺の中では、病原体を根絶するために免疫細胞が集合して炎症が起きる。やがて免疫応答が後退して患者は回復する。しかし、如何なる原因によるのかは不明だが、免疫系が何らかの機能不全を起こし、一部の人々は、免疫細胞の暴走に関連する「免疫の嵐;サイトカインストーム」となる。この段階では、自らの免疫によって攻撃されて重症の炎症状態となっている。

つまり、死を招く全身の炎症状態の直接的な原因は、前述したように、自分自身の免疫の暴走である。これは、敗血症の症状がが好中球の暴走によることと共通している。

ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬で、自己免疫疾患にも効果がある)に効果があることも納得できる。しかし、ヒドロキシクロロキンやアジスロマイシンなど、ある程度効くが、一度重症化したら薬はほとんど効果がなく対症療法しかない。呼吸困難になったら人工呼吸器に繋いで、それでもだめなら体外式膜型人工肺(ECMO)を使う。治せるのではなく、症状を緩和させてその後は患者の治癒力頼みだが、人工呼吸器に繋いだ患者で回復できた人はほとんどいないとのこと。

このウイルスの重症化のメカニズムは、まだはっきりとは解明されていない。

コロナウイルスやその他の感染症から起こり得る、肺の全身炎症(急性呼吸窮迫症候群;ARDS)に起因する呼吸不全の原因は正確には知られていない。恐らく、感染の受けやすさと発症および重症化には、自己免疫疾患などと同様に遺伝子のタイプが関与しているものと推測される。

一方、ウイルスの性格も重症化に影響する要因となっている。風邪の原因となるコロナウイルスは、一般的な風邪を引き起こす他の多くのウイルスと同様に、通常、鼻と副鼻腔などの上気道に限定される。しかし、SARS-CoVとSARS-CoV-2は、より重篤な疾患に関連する肺の深部に侵入する。

この理由の1つは、ウイルスが侵入を得るためにヒト細胞上のACE-2受容体に結合することである。この受容体は、上気道と下部気道の毛状上皮細胞、ならびに下部気道のII型肺胞上皮細胞に存在する。II型肺胞上皮細胞は肺胞がつぶれるのを防ぐための活性物質(サーファクタント)を分泌しているため肺機能にとって重要であり、下気道疾患が非常に重篤となる原因となる。

アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロンシステム(RAAS)活性化に対抗する酵素であり、COVID-19パンデミックを担うウイルスであるSARS-CoV-2に対する機能受容体としても機能する。したがって、SARSウイルスとACE2の相互作用が感染の潜在的因子となる可能性がある。

ACE2を変化させる可能性のあるRAAS阻害剤の使用と、ACE2発現の変動が疾患毒性の一部に関与する可能性が懸念され、ACE阻害剤およびアンジオテンシン受容体遮断薬(ARBs)の廃止を求める意見もある。

但し、心不全や心筋梗塞を起こした患者を含む、リスクの高い高血圧患者などにおけるRAAS阻害剤の突然の離脱は、臨床的不安定性および不利な健康結果をもたらす可能性がある。

また、ACE2が肺損傷患者に有害ではなく有益である可能性があるという仮説も提案されている。世界中における、ACE阻害剤およびARBの一般的な使用を考えると、Covid-19患者におけるこれらの薬物の使用に関するガイダンスが緊急に必要である。

現在、組換えヒトACE2およびCovid-19のARBロサルタンを含むRAASモジュレーターの安全性と有効性を検証するための臨床試験が行われている。

追伸(4月4日)
米国心臓協会(AHA)、米国心不全学会(HFSA)、米国心臓病学会(ACC)の3学会は、3月17日、「ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の服用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の重症化要因にはならない」とする共同声明を発表した。COVID-19重症化とこれらの降圧薬の使用をめぐる議論を受け、今回の声明の発表に至ったとしている。

臨床上の意思決定において重要性が強調されているのは、早期のウイルス学的検出、炎症性指数の動的モニタリング、および胸部X線写真で、痰はRT-PCR結果において最高度の陽性率が観察されている。

ウイルス核酸は急性期に患者の血液サンプルの10%で検出され、患者の便の50%でRT-PCRが陽性を示した。また、便から生きているウイルス株が単離されており、便が潜在的に感染性を有していることを示す重要な情報である。

動的サイトカイン検出はサイトカインストームをタイムリーに同定し、人工肝血液浄化システムを適用するために重要であった。

初期の抗ウイルス治療は、疾患の重症度を緩和して病気の進行を防ぐことができる。ショックと低酸素血症は、通常、サイトカインストームによって引き起こされる。人工肝臓の血液浄化システムは、急速に炎症性メディエーターを除去してサイトカインストームをブロックすることができる。

重篤な疾患の症例では、中等度のグルココルチコイドの早期および短期間の使用が支持されている。酸素化指数が200mmHg未満の患者は集中医療センターに移す必要があり、保存的な酸素療法が好ましく、非侵襲的換気は推奨されていない。機械的換気を有する患者は、クラスター人工呼吸器関連肺炎予防戦略を厳密に監視する。抗菌予防は合理的に処方されるべきであり、疾患の長い経過、繰り返し発熱およびプロカルシトニン(PCT)の上昇を有する患者を除いて推奨されなかった。

一方、二次真菌感染も懸念されるべきである。COVID-19の患者の中には、ラクトバチルスやビフィズス菌などの減少したプロバイオティクスを有する腸内微生物叢を示す患者も存在する。栄養と胃腸機能は、すべての患者のために評価されるべきで、栄養サポートとプレバイオティクスまたはプロバイオティクスの適用は、腸内微生物叢のバランスを調節し、細菌の転位による二次感染のリスクを減らすために提案されている。

SARS-CoV-2感染後のウイルスクリアランスパターンについては不明。そのため、退院した患者に対して2週間の検疫が必要となり、定期的なフォローアップも必要となっている。

患者がSARS-CoV-2感染後、抗体が作られるかは依然として不明。SARS患者における、回復から約5年後または10年後の調査では、コロナウイルス抗体が長く持続しないことが示唆されている。しかし、少なくとも短期的には免疫の獲得が期待される。

鍼灸治療の対象となる疾患ではないが、病態を考える上で参考になるので知る範囲でまとめてみた。

引用文献
Why Some COVID-19 Cases Are Worse than Others
Emerging data as well as knowledge from the SARS and MERS coronavirus outbreaks yield some clues as to why SARS-CoV-2 affects some people worse than others.
Katarina Zimmer
The Scientist , Feb 24, 2020

Renin–Angiotensin–Aldosterone System Inhibitors in Patients with Covid-19
Muthiah Vaduganathan, Orly Vardeny, Pharm.D., Thomas Michel, et al.,
March 30, 2020 DOI: 10.1056/NEJMsr2005760

Management of corona virus disease-19 (COVID-19): the Zhejiang experience.
[Article in Chinese]
Xu K, Cai , Shen Y, Ni Q, Chen Y, Hu S, et al.,
Zhejiang Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 2020 Feb 21;49(1):0.

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。