中国武漢におけるCOVID-19の臨床的重症度 [医学一般の話題]

中国武漢で発生した感染症COVID-19は、2020年1月9日を以て、新型コロナウイルスSARS-CoV-2が原因ウイルスとして正式に特定。

中国の流行中心地である武漢(Wuhan)における新型コロナウイルス感染者の致死率は1.4%であると、Joseph Wu氏(香港大学University of Hong Kongの著名疫学者)が主導する研究グループによって報告された(Nature Medicine)。この数値は、WHOが発表した推定致死率よりもかなり低い値であるが、むしろ妥当だろう。さらに、PCR検査の信頼性の低さや、感染が確認された患者が軽度より重度の症状を示した可能性などから推定すれば、実際の致死率はもっと大幅に低いと予想される。

さらに、旅行者データから予測された症例数から推測した死亡率と武漢における死亡率を使用してモデルをパラメータ化したことを考えると、武漢以外の人には一般化できない。実際、これまでのところ、武漢の死亡率は中国本土の他のすべての都市よりもはるかに高くなっている。現在、無症候性の未診断感染者の人数が未知の要因の1つとなっており、これらの無症候性または臨床的に非常に軽度の症例が症候性死亡リスク(sCFR)の推定値に入らないため、感染死亡リスクは症候性死亡リスク(sCFR)よりも低くなる。

メルケル首相は、「国民の60%から70%が新型コロナウイルスに感染する可能性がある」と示唆したようだ。しかし、これは新型コロナに対して全く免疫を持っていないという仮定に基づいている。この推測の背景として。感染者がその感染症に対する免疫をもたない集団に入ったとき、感染性期間に直接感染させる平均の人数を「基本再生産数」と呼び、新型コロナもインフルエンザやSARSと同様に、基本再生産数は2~3と言われている。計算では、基本再生産数が3であれば、集団免疫による感染拡大停止までに67%が感染することになることを根拠として述べたものと思われる。

しかし、2009年にパンデミック化した新型インフルエンザでも、国民の6~7割が感染するようなことはなかった。多くの人が、何らかの形で免疫をもっていると考えられる。さらに、感染から回復して免疫を得た人々が「免疫の壁」となって感染拡大を抑制する力となる。

念のため補足すれば、60歳以上の感染者が症状を示した場合の致死率は、35~59歳の患者に比べて約5.1倍高く、29歳以下の感染者では0.6倍とのこと。しかし、これも極めて自然のことであり、取り立てて騒ぐことでも特殊なことでもない。

但し、新型コロナウイルスによる肺炎の特徴として、両側の肺が炎症を起こすため呼吸ができなくなることが患者にとってつらく、人口呼吸器が必要になるなど治療上やっかいと言える。

それでも、一般論としては、驚異の程度で考えるならば通常のインフルエンザと同等と捉えるべきで、かつてのペストやスペイン風邪のように、世界中が怯えてパニックになるような感染症ではないと思われる。因みに、20世紀最悪のパンデミックとされるスペイン風邪では、世界中で2000万人~4500万人が死亡し、日本国内でも約45万人が死亡した。無論、個人にとっては自らの命こそ唯一無二であり、かけがえの無いものであるからこそ恐怖することは心情として当然だが。

しかしながら、「パンデミック」と宣言された以上、今更、封鎖することに意味があるとは考えられない。

緩和措置の最も重要な目標は、流行曲線を「平坦化」して医療サービスのピーク需要を減らし、より良い治療法を開発するための時間を稼ぐこと。

出典文献
Estimating clinical severity of COVID-19 from the transmission dynamics in Wuhan, China
Joseph T. Wu, Kathy Leung, Mary Bushman, Nishant Kishore, et al.,
Nature Medicine (2020)

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