腰椎椎間板ヘルニアに対するコンドリアーゼの効果について [腰痛関連]

腰椎椎間板ヘルニア (LDH) 患者に対する、コンドリアーゼ(condoliase;ヘルニコア) による chemonucleolysis( ディスク内側の部分溶解)の有効性と安全性を評価した、多施設、無作為化二重盲検プラシーボ対照試験(フェーズ III)の結果、痛みを有意に改善したと報告されている。

Condoliaseはヘルニコアの一般名で、椎間板内に直接注射する薬剤。プロテウスに由来する純粋な蛋白融解酵素( mucopolysaccharidase) であり、椎間板髄核において、コンドロイチン硫酸とヒアルロン酸に対して高い基質特異性を有する。

この基質特異性が、以前に使用されていたキモパパインとの相違点。キモパパインは世界の患者に広く使用され、多くの調査で徴候の 80% の改善を示していたようだ。しかし、その低い基質特異性のために椎間板を取り巻く組織にまで作用し、アナフィラキシー反応や、重篤な神経麻痺、横断性脊髄炎などの神経学的合併症を引き起こす危険性があった。それ故、1999年に、製薬業者は生産と販売を中止している。Condoliaseは、生化学工業が製造し、科研製薬が2018年8月1日より販売を開始している。

Condoliaseは、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、およびヒアルロン酸を分解する作用を有し、髄核中のグリコサミノグリカンを分解して髄核の保水能を低下させ、椎間板内圧を低下させることで症状を緩和すると考えられている。

しかし、知識不足故か、私にはこの説明が理解できない。髄核が水分豊富なことには、圧を分散させる意味において重要な意味があるはず。さらに、髄核中のグリコサミノグリカンを分解することによって椎間板全体の強度を減少させることが危惧される。また、実験結果では、椎間板の高さが減少したことも評価されているが、むしろ構造的に弱体化して長期的には不利になると考えられるが、、?。

対象となった患者(年齢;20〜70歳)の条件は。(1)片側の足の痛みと、SLR テストの陽性( ≤70°)。 (2)MRI で検証された、L4/l5およびl5/L6または l5/S1のLDH。(3) 神経学的な徴候が圧縮された根の分布と一致する。(4) 6 週間以上の保存的な治療による非改善。(5) 入院前の7日間連続でVAS:50mm以上。

除外要件として、(1) MRI 上、2カ所以上のレベルで LDH を有する。(2) noncontained LDH (transligamentous extrusion or sequestration)。(3)腰椎手術の既往歴。(4)3週間以内に神経根ブロックを受けていた。(5) 重度かつ急速に進行性の神経学的欠損 (例えば、馬尾症候群) があった。(6) 他の腰椎疾患をもっていた。(7) 妊娠中または授乳中。(8)BMI:35.0 kg/m2 以上。(9) 労働者の補償を受けていた。

介入は、各バイアルに、condoliase またはプラシーボのそれぞれ1.25 U/mL を含む注入のための溶液として生理食塩水 1.2 mL で構成。condoliase とプラシーボ(中身が不明)との間には色と粘度に差はなかった。

すべての患者は、投与の日に安全性を監視するために入院。患者は翌日退院し、1、2、4、6、13、26、39、および52週後に受診。

すべての患者は、インフォームドコンセントの時に受けていたのと同じ保存的治療を受け続けた。痛みや神経症状が注射後に悪化した場合には、調査員の裁量で必要に応じて保存的治療の追加が許可された。治療投与後に神経根ブロックや手術を受けた患者は研究から除外。

当初評価した204名中、最終的にcondoliase群76名とプラシーボ群70名が評価を完了。

プライマリエンドポイントは、ベースラインから13週までのVAS。

セカンダリエンドポイントは、レスポンダー率 (VASが50%以上改善した患者の割合)、オスウェストリー障害指数 (ODI)、36-アイテムのショートフォーム健康調査 (SF-36)、神経学的検査 (SLR test, hypesthesia, muscle weakness, deep-tendon hyporeflexia)、MRI 上の椎間板と椎間板ヘルニアの体積、X線による椎間板の高さ。

セイフティーエンドポイントは、有害事象 (AEs)、バイタルサイン、実験室のパラメータ、anticondoliase 抗体価、X 線の変化 (disc height, posterior intervertebral angle, vertebral translation)、および Modic と Pfirrmann を用いた MRI の変化。

すべての AE データは13週まで収集。condoliase の長期安全性を評価するために、下肢痛、腰痛、神経学的所見、および画像パラメータのデータを52週まで採取。撮像パラメータは、以下の基準に基づいて陽性所見の頻度として集計された。(1) ディスクの高さの 30% 以上の減少;(2) 後椎間角5°以上;(3) 3 mm 以上の椎体変異。(4) Modic 分類の変化。(5) Pfirrmann 分類における椎間シグナルの変化。

合計204名の患者のうち、166名が適格であり、無作為化によって、82名および81名がそれぞれ condoliase およびプラシーボの注入を受けた。最終的に、condoliase グループの76患者とプラセボ群の70患者の合計は13週で評価を完了した。患者のベースライン特性に関しては、喫煙歴、後椎角、椎間変異、およびModic型が両者の間でアンバランスであった。

プライマリエンドポイントに関しては、平均 VASスコアは、condoliase群はベースラインで72.4、13週で22.9 mm。プラシーボ群では74.6 と 39.2 mm。ベースラインから13週目までのVASの変化は、condoliase 群は− 49.5 mm、プラシーボ群では− 34.3 mm で、その差は− 15.2 mm(95% 信頼区間;−24.2 から− 6.2;P = 0.001) と、統計的に有意であった 。下肢痛のVASの改善度の差は, すでに1週で2群間で検出可能であり, 2週で有意となり、その後有意に推移した。

セカンダリエンドポイントに関しては、レスポンダ率は condoliase グループで有意に高かく (13週;72.0% vs 50.6% ;P = 0.008)。Condoliase はまた、SLR テスト、ODI、PCS、SF-36においてプラシーボよりも改善し、これらの改善は52週まで維持された。また、condoliase 群において、椎間板および椎間板ヘルニアの容積が有意に減少した。

手術を受けた患者の割合は、condoliase 群で 9.8%、プラシーボ群で 9.9% だった。いずれの場合も、手術の理由は効能不足。

condoliase 群に死亡、アナフィラキシーショックおよび神経学上の後遺症は無かった。プラシーボ群の5名が有害事象によってる研究から脱落した。condoliase グループ4名、プラシーボ群6名、合計10名に深刻な有害事象が発生。condoliase 群では、投与後1週間以内に36.6% の患者で腰痛が観察され、重症度は中等度から軽度であり、治療せずにほとんどの患者で臨床症状が解決または軽減した。下肢の痛みを引き起こす LDH の再発は、condoliase群の1名の患者で報告されたが、外科的治療は必要なかった。

アレルギーのような症状, すなわち、発疹、蕁麻疹、掻痒、および毒性皮疹などの症状が投与後1日以内に発症したが、標準的な皮膚治療で軽快した。

血清 anticondoliase 免疫グロブリン E (IgE) 抗体価が上昇した患者はいないが、condoliase 群の1名が血清 anticondoliase IgG 抗体価が上昇した。しかし、この患者にはアレルギー症状は見られなかった。

画像所見については, condoliase 群は 、Modic 1 型の発生率、およびディスク高の平均変化率が30% 以上減少 (26.8% and 8.5%)し、プラシーボ(17.3% and 0%)と比較して大きかった。

.ベースラインから52週までの平均ディスク高の変化はcondoliase 群で有意に大きかった (−17.0% vs. −8.0%)。

Pfirrmann 分類等級は、condoliase 群でより頻繁に変化した(53.7% vs. 2.5%)。両群とも、 ベースラインから52週までの後椎間角または椎体変異に有意な変化は認められず、画像所見は臨床症状に関連付けられていない。

結論として、Condoliase は LDH 患者の症状を有意に改善し、忍容性が良好であった。したがって、Condoliase は、LDH の治療のための新規かつ強力な chemonucleolytic 薬であると述べられている。

疑問点

対象患者は、6 週間以上の保存的治療で改善しなかった者とあるが、短すぎないか。

プラシーボでもそれなりの効果があったが、不可解なことに、薬剤名が記されていない。少なくとも、「chemonucleolysis」は考えにくいが、何を使用し、それは通常使用されている薬品なのか、その目的は何か、どのようなメカニズムで改善したのかが気になる。

プラシーボとの差は、− 15.2 / 100mm(95% confidence interval, −24.2 to −6.2; P = 0.001)。統計的に有意とは言え、患者の感覚による採点の15%の違いに意味があるのか疑問。私も患者に同様の質問をするが、耐えうる限界の痛みを100として、今の痛みを数値で答えろと言われても、正直なところ、私には正確に数値で表現する自信は無い。

全ての患者が、処置以前の保存的治療を継続していることも疑問。むしろ、処置群の全てにおいて保存的治療は中止し、保存的治療のみを継続する群を別に比較目的で設定すべきではないか。

さらに、前述したように、髄核中のグリコサミノグリカンを分解することで構造的に弱体化してしまい、負荷に対する耐久性が低下して長期的には再び腰痛を引き起こすことになるのではないかと危惧される。

実際に、下記「注射用コンドリアーゼの使用説明書」では、国内第II/III相試験及び第III相試験において、本剤が投与された229例中122例(53.3%)に副作用が認められ、その主な副作用は腰痛51例(22.3%)である。

そもそも、ヘルニアによる機械的圧迫が症状の直接的な原因でないことは周知の事実。さらに、手術の適応性も積極的には疑わしく、多くの患者においてその必要性は低い。

「DISCUSSION」には、保守的治療の無効な患者に対し、手術が利用可能な唯一の選択肢となっているが侵襲が高く、患者に肉体的、精神的負担を課すことになる。condoliase と Chemonucleolysis は一般的な麻酔を必要としない 低侵襲治療であり、通常の日常や社会活動への早期復帰に貢献すると述べている。

しかし、そのように主張したいのであればなおさらのこと、意味不明なプラシーボと比較するのではなく、ヘルニアの摘出手術とを比較するRCTを行うべきであると言いたい。

尚、この研究は日本人の医師らによるものなので、恐らく、今後、国内の医学雑誌にも報告されると思われる。

出典文献
Condoliase for the Treatment of Lumbar Disc Herniation: A Randomized Controlled Trial
Chiba, Kazuhiro, Matsuyama, Yukihiro, Seo, Takayuki, Toyama, Yoshiaki,
Spine: August 1, 2018 - Volume 43 - Issue 15 - p E869-E876
doi: 10.1097/BRS.0000000000002528
Randomized Trial

追伸
参考までに、注射用コンドリアーゼの使用説明書の一部を抜粋。

<効能・効果に関連する使用上の注意>

(1) 画像上ヘルニアによる神経根の圧迫が明確であり、腰椎椎間板ヘルニアの症状が画像所見から説明可能な患者にのみ使用すること。

(2) 本剤は異種タンパクであり、再投与によりアナフィラキシー等の副作用が発現する可能性が高くなるため、本剤の投与前に十分な問診を行い、本剤の投与経験がない患者にのみ投与を行うこと。

(3) 変形性脊椎症、脊椎すべり症、脊柱管狭窄症等の腰椎椎間板ヘルニア以外の腰椎疾患を合併する患 者、骨粗鬆症、関節リウマチ等の合併により椎体に症状が認められる患者の場合は、本剤投与により腰  椎不安定性が強く認められるおそれがある。これらの患者において、合併症が原因で症状が認められる  場合は、本剤の有効性が得られない可能性があるため、本剤のリスクを考慮し、症状の原因を精査した  上で、本剤による治療を優先すべきか慎重に判断すること。投与を行った場合には、患者の状態を慎重  に観察すること。

3.副作用
国内第II/III相試験及び第III相試験において、本剤が投与された229例中122例(53.3%)に副作用      (臨床検査値異常を含む)が認められた。主な副作用は、腰痛51例(22.3%)、下肢痛11例(4.8%)、発  疹等6例(2.6%)、発熱4例(1.7%)、頭痛3例(1.3%)であった。主な臨床検査値異常は、Modic分類の   椎体輝度変化a)54例(23.6%)、椎間板高の30%以上の低下b)33例(14.4%)、好中球数減少6例(2.6 %)、5°以上の椎間後方開大b)5例(2.2%)であった1,2)。(承認時)
(1) 重大な副作用
ショック、アナフィラキシー(頻度不明)※本剤は異種タンパクであり、ショック、アナフィラキシーがあらわ   れるおそれがあるので、投与終了後も観察を十分に行い、異常が認められた場合は、直ちに適切な処置  を行うこと。

4.高齢者への投与
(1)高齢者では、一般的に加齢による椎間板の変性により髄核中のプロテオグリカン含量が低下してい   ることが知られている。そのため、本剤の治療効果が得られない可能性があることから、投与の可否を   慎重に判断すること。
(2)高齢者に対する安全性は確立されていない。[70歳以上の患者に対する使用経験がない。一般に高齢 者では軟骨終板が菲薄化しており、椎体の変性が発現する可能性が高まる。

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