良いストレス悪いストレス [医学一般の話題]

慢性的なストレスは、保護的免疫反応の抑制や、病理学的免疫応答を悪化させるため有害だが、数分から数時間の短期的なストレスには抗炎症、抗感染、抗腫瘍や創傷治癒などのimmunoprotection を高める効果もあるため、臨床的にも有益となる。

急性ストレスによって、胸腺や脾臓における免疫細胞の産生が促進することが知られており、これらの作用には自律神経系が関与している。

感染や外傷、虚血などの急性ストレスによってマクロファージが活性化されることで、TNFαやIL-1などの炎症性サイトカインが放出される。これらのサイトカインは感覚神経の末端に結合し、そのシグナルは中枢へ伝達されて交感神経、迷走神経や視床下部-下垂体-副腎系を活性化し、ノルアドレナリン、アセチルコリン、コルチコステロンが放出されてマクロファージの過剰な活動を抑制する。これらの、自律神経系や視床下部-下垂体-副腎系により産生されるグルココルチコイドは、炎症の過度な亢進を抑制することが知られている。

迷走神経遠心路の電気刺激は、脾交感神経を介する抗炎症作用を惹起する。脾交感神経から放出されたノルアドレナリンが、コリンアセチルトランスフェラーゼ陽性の脾臓メモリーT細胞のβ2アドレナリン受容体に結合することで、アセチルコリンが放出されて近接するマクロファージのα7ニコチン性受容体と結合して炎症性サイトカインの放出を抑制する。

最近、安部 力・井上 剛らは、拘束ストレスによる自律神経系の活性化によって、コリン作動性抗炎症反応経路を介して腎臓における虚血再灌流障害が軽減されることを報告している。延髄のC1ニューロンは、中間帯外側細胞柱や迷走神経背側核に投射して交感神経や迷走神経を制御し、腎臓における虚血再灌流障害を軽減する。

コリン作動性抗炎症反応経路には、脾交感神経を介する脾臓の免疫細胞の活性化が重要であると考えられているが、この脾交感神経への経路は未だ不明。

末梢レベルにおけるコリン作動性抗炎症反応経路の解明は進んだが、延髄のC1ニューロンへの入力系については謎であり、中枢レベルにおける解明が重要になる。

これらの知見は、鍼治療における刺激法を模索する上で参考となる。

引用文献
・Dhabhar, F. S.: Effects of stress on immune function: the good, the bad, and the beautiful. Immunol. Res., 58, 193-210 (2014)[PubMed]
・Tracey, K. J.: The inflammatory reflex. Nature, 420, 853-859 (2002)[PubMed]
・Tracey, K. J.: Reflex control of immunity. Nat. Rev. Immunol., 9, 418-428 (2009)[PubMed]
・Pavlov, V. A. & Tracey, K. J.: Neural regulation of immunity: molecular mechanisms and clinical translation. Nat. Neurosci., 20, 156-166 (2017)[PubMed]
・Inoue, T., Abe, C., Sung, S. S. et al.: Vagus nerve stimulation mediates protection from kidney ischemia-reperfusion injury through α7nAChR+ splenocytes. J. Clin. Invest., 126, 1939-1952 (2016)[PubMed]
・Tsuyoshi Inoue, Mabel A. Inglis, Kenneth E. et al., C1 neurons mediate a stress-induced anti-inflammatory reflex in mice. Chikara Abe, Nature Neuroscience, DOI: 10.1038/nn.4526

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