鍼刺激は脳出血ラットのNotch1 およびHes1蛋白発現を抑制する [鍼灸関連研究報告から]

大脳基底核出血後のラットにおいて、鍼治療はNotch-Hes シグナル経路の伝達を阻害して神経保護効果を有することが報告されている。

治療穴は、曲鬢(Qubin;GB7)および百会(Baihui;DU20)。

非外傷性脳出血は脳実質内の血管の破裂が原因で発生し、出血によってニューロンのアポトーシスを引き起こす (Chamnanvanakij et al., 2002; Riggs et al., 2005; Gao et al., 2009)。以前より、鍼治療は神経系の損傷を減少させて修復を促進することが示唆されている(Feng et al., 2013; Li et al., 2013; Nam et al., 2013).。

成体の脳ニューロンが新生することの発見は神経科学の分野における転換点と言える。この事実は、神経変性疾患や脳卒中の新しい治療のパラダイムとなる可能性を有している。最近のいくつかの研究は、鍼治療による脳疾患への治療の可能性を示唆している。

鍼治療(ST36、GV20など)による、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中などの脳疾患に対する神経因性の効果のメカニズムはまだ解明されていないものの、ニューロペプチド Y、塩基性繊維芽細胞成長因子、グリア細胞由来神経栄養因子、脳由来神経栄養因子の発現などが提案されている。

ノッチ(Notch)シグナルは隣接する細胞間におけるシンプルなコミュニケーションだが、その経路は進化上保存されており、細胞の増殖、分化、およびほとんど全ての組織や臓器のアポトーシスに関与する。(Monahan et al., 2009; Guo et al., 2010; Yalcin-Ozuysal et al., 2010; Fernandez-Valdivia et al., 2011; Gianni-Barrera et al., 2011)。

Notchシグナルの研究は100年以上昔にショウジョウバエの翅の変異体から慎ましく始まったが、現在では、発生や再生、先天疾患、代謝性疾患、癌などのメカニズムに深く関与するなど、最近注目されている分野。

鍼刺激がNotchシグナルへ何らかの影響を与える可能性が示唆されていることは非常に興味深いことであり、様々な疾患に対する治療効果の可能性が期待できることから鍼灸にとっても極めて注目される。

出典文献
Wei Zou, Qiu-xin Chen, Xiao-wei Sun, et al.,
Acupuncture inhibits Notch1 and Hes1 protein expression in the basal ganglia of rats with cerebral hemorrhage
Acupuncture inhibits Notch1 and Hes1 protein expression in the basal ganglia of rats with cerebral hemorrhage.
Neural Regen Res. 2015 Mar; 10(3): 457–462. doi: 10.4103/1673-5374.153696

参考文献(一部)
Feng X, Yang S, Liu J, Huang J, Peng J, Lin J, Tao J, Chen J. Electroacupuncture ameliorates cognitive impairment through inhibition of NF-kappaB-mediated neuronal cell apoptosis in cerebral ischemia- reperfusion injured rats. Mol Med Rep. 2013;7:1516–1522. [PubMed]

Li X, Wang Q. Acupuncture therapy for stroke patients. Int Rev Neurobiol. 2013;111:159–179. [PubMed]

Nam MH, Ahn KS, Choi SH. Acupuncture stimulation induces neurogenesis in adult brain. Int Rev Neurobiol. 2013;111:67–90. [PubMed]

補足:

HES;hairy and enhancer of split
ショウジョウバエの神経分化を抑制する、哺乳類相同遺伝子群。転写を負に制御する抑制型のbasic helix-loop-helix (bHLH)型転写因子であり、多くはNotchシグナルのエフェクターで、ホモおよびヘテロ二量体を形成する。Hesは、主に分化促進型のbHLH因子を抑制することによって、幹細胞や未分化細胞の維持に機能していると考えられている。
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