低酸素環境によって成体マウスの心筋細胞が再生する [生体にとって酸素とは]

吸入する酸素の濃度を徐々に低下させることで、成体の心筋細胞におけるミトコンドリアの代謝や活性酸素の減少につながり、心筋細胞の増殖が誘導されて損傷からの機能回復をもたらすことが報告されている。

これらの回復には毛細血管の拡張や冠側副血行の発達が伴っており、これが心筋の変性を抑制して心機能の改善をもたらしたものと推測されている。

新しく増殖した心筋細胞の細胞系譜を追跡したところ、幹細胞などに由来するのではなく、新生仔と同様に既存の心筋細胞から増殖していることが確認されている。以上の結果から、低酸素の環境におかれることにより内在性の心筋細胞の再生能が活性化されることが判明した。この研究により、低酸素療法が心筋症の治療に有効である可能性が示唆された。

従来は、心筋細胞は細胞周期を永久に停止していると考えられ、再生はしないものと考えられてきた。しかし、最近では、哺乳類の成体の心筋細胞も再び細胞周期に復帰できるという考えが支持されている。

一般的に、心臓における酸素の欠乏は心筋症のおもな原因となっており、心筋細胞の再生のために酸素濃度を低下させるとする考えは受け入れがたいものと思われる。しかし、この研究では、酸素濃度を低下させることが、心筋細胞のミトコンドリアにおける代謝や活性酸素を減少させて心筋細胞を再生させることが確認された。

具体的な吸入方法
低酸素ショックを避けるため、吸入する酸素濃度を1日1%ずつ低下させ、酸素濃度が7%に達したところでこのまま2週間維持。その後、1日2%ずつ酸素濃度を上昇させて環境中の濃度である20.9%に到達。
詳細は下記論文を参照。

私は以前から、医師の酸素に対する妄想を指摘してきたが、この研究も、この考えを支持するものと言える。

但し、誤解の無いよう付け加えると、高等動物の体細胞はそれぞれが分化した機能を営んでおり、そのエネルギー源である酸素を有機呼吸による代謝系に頼っているのは事実である。さらに、一般的に信じられている「フリーラジカル老化説」には根拠が無い。

むしろ、抗酸化物質のサプリメントを大量に摂取すると早死するリスクが高く成る。

フリーラジカルのリークは呼吸の副産物ではなく、意図的なシグナルであり。呼吸鎖複合体の数を増やし、ミトコンドリア内部で呼吸を最適化して呼吸能力を高めている。これまでの研究の問題点は、細胞に対して大気濃度の酸素に曝して行っており、体内における濃度をはるかに上回る条件にあった。生体とフリーラジカルとの関係は複雑であり単純には言えないが、「抗酸化物質は決して寿命を延ばしたり、病気を予防したりはしない。」ことだけは確かだ。

出典文献
ライフサイエンス 新着論文レビュー
低酸素の環境による成体のマウスにおける心臓の再生

2016年12月13日

中田祐二・Hesham A. Sadek
(米国Texas大学Southwestern Medical Center,Department of Internal Medicine)
email:中田祐二
DOI: 10.7875/first.author.2016.121
Hypoxia induces heart regeneration in adult mice.
Yuji Nakada, Diana C. Canseco, SuWannee Thet, Salim Abdisalaam, Aroumougame Asaithamby, Celio X Santos, Ajay Shah, Hua Zhang, James E. Faber, Michael T. Kinter, Luke I. Szweda, Chao Xing, Ralph Deberardinis, Orhan Oz, Zhigang Lu, Cheng Cheng Zhang, Wataru Kimura, Hesham A. Sadek
Nature, DOI: 10.1038/nature20173

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