神経炎症および神経因性疼痛における TNF αの軸索輸送の役割について [医学一般の話題]

周知のように、軸索内では軸索輸送によって細胞質がたえず流動しています。この軸索輸送には、細胞体から神経終末に向かう順行性軸索輸送と、神経終末(軸索の末端)から細胞体に向かう逆行性軸索輸送があります。

軸索と神経終末ではタンパク質合成が行われないため、神経細胞体から必要なタンパク質を輸送しています。一方、栄養因子のような、神経終末からエンドサイトーシスで取り込まれた物質は逆行性輸送で細胞体に輸送されます。

この軸索輸送の障害は様々な疾患に関与しますが、私の著書であります「絞扼性神経障害の鍼治療」では、この軸索輸送の障害を原因の1つと考える、重複性絞扼性神経障害(Double lesion neuropathy, or Double crush hypothesis)を臨床的に重視して述べています。しかし、この説には否定的な意見もあります。これらの指摘に対する私の考えは別の機会に述べることにして、今回は、軸索輸送の負の要素について紹介します。

それは、神経傷害部位から逆行性軸索輸送によって運ばれるTNF-αが神経因性疼痛を促進する重要な要因になるとする報告です。これは、「神経障害の学問:神経炎症と神経因性疼痛における TNF α 軸索輸送の役割の研究の動向」と題された、アメリカ末梢神経学会本会議の講演(2011)のレビューに記されています。

TNF-αは神経損傷の数分以内に、電気生理学的効果を有するシュワン細胞、内皮細胞、肥満細胞、および常在マクロファージと、血液神経関門の透過性をアップレギュレートします。

TNF-αは、血管機能障害において重要な役割を果たしているマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の発現を増加させる(特にMMP-2、MMP-9)ことにより、血管機能不全において重要な機能を果たしています (Zhang et al., 2009)。

また、TNF α は DRG ニューロンの Nav1.3および Nav1.8 の電位依存性ナトリウム チャネルのアップレギュレーションに寄与し、同側の後根神経節と脊髄後角ニューロンの TNF 受容体 1 (TNFR1) のアップレギュレーションに対応します (Xu et al., 2006)。

TNF-αは、肥満細胞、内皮細胞、神経鞘細胞、および血行性マクロファージ(シュワン細胞を含む)を強力に活性化します。

軸索輸送 (ビオチン化)はTNF α を活性化するとともに、坐骨神経に注入後 96 時間以内に脊髄後角アストロ サイトに局在します。また、グリア線維性酸性蛋白 (GFAP)の活性はTNF 受容体ノックアウトマウスで減少することが示唆されています(Shubayev and Myers, 2002)。

損傷部位からニューロンを上昇する TNF α の軸索輸送と、感覚経路におけるグリア細胞は求心性入力のための神経系感作の重要な要素であり、知覚神経の薬理学の変更と神経因性疼痛を促進する重要な要因であると結論付けています。また、TNF-αの輸送および生産の抑制と、その受容体の占有は新たな治療法となり得ます。

ウォーラー変性の病態生理学、神経病理学および分子生物学は、炎症性サイトカインのアップレギュレーションおよび神経障害性疼痛状態の進展にリンクする観点で検討されます。

このように、神経免疫情報への洞察は、ウォーラー変性、サイトカインシグナル伝達およびTNF-αタンパク質隔離に基づく新たな治療法の理論的根拠を提供します。

このレビュー以外にも、軸索原形質輸送の混乱が、ラットの無傷のC線維侵害受容器の軸索において機械的感受性(AMS)を誘発すると報告されています(Andrew Dilley and Geoffrey M Bove 2008)。

坐骨神経の軸索原形質輸送遮断薬(コルヒチンおよびビンブラスチン)による、C線維侵害受容器のAMSを試験し、局所的な神経炎の軸索原形質輸送近位のブロックが大幅に炎症誘発性AMSの減少を確認しています(対照の55.6%に対し15.6%; P <0.05)。さらに、AMSに必要なコンポーネントが順行性輸送によって運ばれていることも裏付けられています。

引用文献
Primary Source:
Robert R. Myers, Veronica I. Shubayev,
The ology of neuropathy: an integrative review of the role of neuroinflammation and TNF-α axonal transport in neuropathic pain.
J Peripher Nerv Syst. 2011 Dec; 16(4): 277?286.
doi: 10.1111/j.1529-8027.2011.00362.x

Secondary Source:

Zhang H, Park Y, Wu J, Chen X, Lee S, Yang J, Dellsperger KC, Zhang C.
Role of TNF-alpha in vascular dysfunction.
Clin Sci (Lond) 2009;116:219-230. [PMC free article] [PubMed]

Shubayev VI, Myers RR.
Anterograde TNF alpha transport from rat dorsal root ganglion to spinal cord and injured sciatic nerve.
Neurosci Lett. 2002;320:99-101. [PubMed]

Xu JT, Xin WJ, Zang Y, Wu CY, Liu XG.
The role of tumor necrosis factor-alpha in the neuropathic pain induced by lumbar 5 ventral root transection in rat.
Pain. 2006;123:306-321. [PubMed]

Additional Source:
Andrew Dilley and Geoffrey M Bove
Disruption of axoplasmic transport induces mechanical sensitivity in intact rat C-fibre nociceptor axons.
J Physiol. 2008 Jan 15; 586(Pt 2): 593-604.
Published online 2007 Nov 15. doi: 10.1113/jphysiol.2007.144105
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