マクロファージ遊走阻止因子が抑うつ様症状発現に関与する可能性 [医学一般の話題]

マクロファージ遊走阻止因子(MIF)の遺伝子欠失マウスでは、強制水泳テスト(forced swim test;FST)によるうつ様行動が減少すると報告されています。尚、うつ病の動物モデルにおける検討では、性差の重要性が示唆されています。

現在、世界中でうつ病患者が急増しており、アメリカでは、大うつ病患者は約2000万人と言われています。うつ病患者の中には、従来のセロトニンやノルエピネフリン再取り込み阻害剤などの抗うつ剤、および甲状腺ホルモンや気分安定化剤による補完にも抵抗性を示す治療抵抗性うつ病(treatment-resistant depression;TRD)が1/3以上存在(アメリカでは約700万名の成人)します。

本研究では、MIFノックアウトマウスと野生型(WT)マウスを使って、オープンフィールドテストによって自発運動活性を調べています。ショ糖の嗜好テスト(SPT)で無快感様行動、強制水泳試験(FST)と尾懸垂試験(TST)によって行動的絶望をテスト。サイトカインの脳および血清レベルは、酵素COX-2、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)を測定。グルココルチコイドホルモンコルチコステロンは、RT-qPCRないしは高感度電気化学ベースのマルチプレックスイムノアッセイによって測定。モノアミンおよび代謝物はHPLCを用いて評価。

行動への影響として、FSTでは、 MIFノックアウトマウスは、雌雄ともにうつ様行動が低レベルを示しましたが、TSTは有意では無い傾向が見られました。IFN-γ のレベルが減少してドーパミン代謝が増加し、うつ病様行動が減少しました。しかし、SPTでは性特異的不一致が見られ、雄では無快感症様行動が減少しましたが、雌では増加しました。これは、雌の MIFノックアウトマウスで検出された、コルチコステロンレベルの増加に関連していることが示唆されました。

前頭前皮質(PFC組織)の逆転写酵素定量PCRでは、MIFのノックアウトによるIFN-γmRNA発現は性特異的であることが示唆されました。また、MIFノックアウトマウスは海馬におけるIFN-γの発現が低く、雌は雄より低い発現量でした。

海馬では、IFN-γのmRNAは雌雄のKOマウスがWTマウスよりも低いmRNA発現を示しました。興味深いことに、雌のMIFノックアウトマウスはWTと比較して、血清中のIFN-γは高レベルを示しました。

セロトニン代謝物5-HIAAのレベルは、雌MIFノックアウトマウスは雌のWTマウスに比べで統計的に有意な減少を示しました。

コルチコステロンの血清のレベルも、遺伝子型 × 性差の相互作用が判明し (F(1,35) = 4.326, p < 0.05)し、雌女性 MIFノックアウトマウスはWTに比べ、コルチコステロンレベルが上昇していました。

出典文献
Cecilie Bay-Richter, Shorena Janelidze, Analise Sauro, et al.,
Behavioural and neurobiological consequences of macrophage migration inhibitory factor gene deletion in mice.
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:163 doi:10.1186/s12974-015-0387-4
http://www.jneuroinflammation.com/content/12/1/163

最近の動物モデルによる研究では、炎症がうつ病の発症に関与している可能性が示唆されています。MIFは、脳内のいくつかの細胞型によって合成される重要な多機能サイトカインですが、うつ病の行動症状に関連する脳領域で発現しており、ドーパミン代謝に対するIFN-γの効果によって抑うつ様症状に関与していることが示唆されています。

MIFは、癌、2型糖尿病、遅延型アレルギー反応や敗血症など、免疫応答や炎症を伴う疾患に密接に関与します。MIFは主要な炎症促進性受容体である、Toll様受容体-4やシクロオキシゲナーゼ(COX)-2の発現を誘導します。さらに、TNF-α、IL-1β、IL-6 およびIFN-γなどの炎症性サイトカインレベルを増加させます。

シクロオキシゲナーゼ(COX)-2の活性化は、グルココルチコイドの抗炎症作用を抑制します。 MIFの血漿レベルの増加は、患者における視床下部 - 下垂体 - 副腎(HPA)軸の調節不全と抑うつ症状に関連します。

MIFの不在ではIFN-γ の発現が低下してドーパミンの生合成が上昇します。ドーパミンのレベルは、行動の変化に関連付けられています。

但し、MIFは、リンパ球のみならず脳や腎臓など多くの臓器で発現しており、腎臓の尿細管上皮細胞、皮膚や角膜の基底膜細胞などでも強く発現しています。MIFは炎症、免疫反応を惹起するだけではなく、マクロファージを活性化して貪食能を高め、組織損傷の修復にも関与するなど多様な機能を有しています(西平 順, 北海道大学1998)。

参考文献
Rajeev Krishnadas, Jonathan Cavanagh,
Depression: an inflammatory illness?
J Neurol Neurosurg Psychiatry 2012;83:495-502 doi:10.1136/jnnp-2011-301779


Souhel Najjar, Daniel M Pearlman, Kenneth Alper, et al.,
Neuroinflammation and psychiatric illness
J Neuroinflammation. 2013; 10: 43.

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