補体因子C5aのワクチンによるアルツハイマー病治療 [医学一般の話題]

アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβの沈着、神経原線維変化、および神経炎症に起因する神経細胞の喪失によって特徴づけられる神経変性疾患です。最近では、神経炎症への干渉が新しい治療法として話題になっています。

神経炎症の主要な原因の1つであるミクログリア細胞は、前炎症性メディエーターの持続放出を誘導するアミロイドβや細胞破片などのようなミスフォールドタンパク質に応答して活性化されます。

特に、補体因子 C5aとその受容体は脳のアミロイド斑の周辺で見いだされ、C5aR のブロックによってADモデルにおける病理組織学的マーカーが減少します。

本研究では、ADマウスモデルにおいて、補体因子C5aに対するワクチンによる神経炎症および神経病理学的な変化の抑制効果を調べています。

C5aのC末端のエピトープを模倣する短い抗原性ペプチドAFF1とAFF2が選択され、ADの一般的なモデルである Tg2576マウスにワクチンとして処方されました。C5aに対して誘導される免疫応答は、ELISAおよびウェスタンブロット法によって分析。記憶保持に対する影響は文脈恐怖条件付け試験により評価。脳内のミクログリア活性化およびアミロイド斑の沈着は、免疫組織化学により可視化。

その結果、C5a標的ワクチンは高度な免疫原性、および持続的な抗体価を誘導しました。疾患の初期段階でワクチン接種したTg2576マウスは対照マウスと比較して、海馬におけるミクログリア活性化の減少および脳のアミロイド斑負荷の有意な改善を示しました。活性化ミクログリア数の減少、およびメモリ機能が改善しましたが、アミロイドβには影響しませんでした。

結論として、ADマウスモデルでは、C5aのペプチドワクチンはミクログリアの活性化を減少させて神経炎症を低減し、神経機能障害とAD症状を低下させると言えます。

出典文献
Christine Landlinger, Lisa Oberleitner, Petra Gruber, Birgit Noiges, Kristyna Yatsyk, Radmila Santic, et al.,
Active immunization against complement factor C5a: a new therapeutic approach for Alzheimer’s disease.
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:150 doi:10.1186/s12974-015-0369-6
http://www.jneuroinflammation.com/content/12/1/150

補体の役割として、アナフィラトキシン(C5a, C3a, C4a)や走化性因子(C5a)による炎症反応や抗原抗体複合体の可溶化現象が知られています。成分蛋白の重合反応では、膜侵襲複合体を形成して標的細胞膜を破壊する(C5b/6/7/8/9)、補体活性化によって細胞膜に結合することでオプソニンとして食細胞に認識されます(C3b)。また、体内への侵入異物やウイルスが感染した細胞や癌細胞に異物標識を付け、食細胞の認識を容易にするなどがあります。

しかし、補体因子の機能は様々で複雑です。

例えば、C5aRの不足かC5 を発現していない遺伝子組み換えマウスでは、セルレイン (50 μ g/kg ip) の 12 時間注射によって誘導した膵炎・膵炎関連肺損傷の重症度が高く、C5a が膵炎に対して抗炎症効果を発揮することが報告されています。

Bhatia M1, Saluja AK, Singh VP, Frossard JL, et al.,
Complement factor C5a exerts an anti-inflammatory effect in acute pancreatitis and associated lung injury.
Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2001 May;280(5):G974-8.

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