電気鍼が神経変性疾患モデルマウスを改善したと報告 [鍼灸関連研究報告から]

アルツハイマーと神経変性疾患モデルである、グリア機能不全とアストロ サイト αシヌクレイン変異マウスに対する電気鍼(EA)が神経変性を改善したと報告されています。

突然変異体マウスに対する電気鍼治療によって、複数のテストで動きが改善されました。細胞レベルでは、脳の炎症性要因 (腫瘍壊死因子-α およびIL- 1 β) の異常上昇が抑制されて抗炎症、抗酸化物質の活動が強化されました。また、異常なグリア活性化の抑制によって中脳におけるドーパミンニューロンおよび脊髄運動ニューロンの損失が防止されました。

通常は、脳血液関門によって、脳内には白血球や細菌などは侵入できませんので、グリア細胞の一種であるミクログリアが脳内で免疫防御を担っています。しかし、免疫細胞としてのミクログリアの働きは諸刃の剣でもあり、腫瘍細胞や細菌を殺すためのサイトカインやタンパク質分解酵素、活性酸素類が正常なニューロンも傷害します。この実験では、ミクログリアの活動が抑制されたと記されています。

アルツハイマー病では、βアミロイド蛋白とともに、αシヌクレイン変異体蛋白のA53T 変異体も存在します。また、家族性パーキンソン病の中に、α-シヌクレインをコードする遺伝子が変異しているタイプが存在し、原因の1つと考えられています。A53Tは53番目のアラニンがスレオニンに点変異したものです。

但し、provisional abstractを読んでおり、この実験による刺激部位などの治療法や、実験結果のデータも不明です。全文が見られましたら、また、紹介します。

神経の変性疾患への電気刺激の効果については、可能性はあると思われます。しかし、電気鍼による抗炎症効果の報告はこれまでにも散見されていますが、私は懐疑的です。私の、偏見かも知れませんが。

出典文献
Jiahui Deng, Jian Yang, et al.,
Electroacupuncture remediates glial dysfunction and ameliorates neurodegeneration in the astrocytic α-synuclein mutant mouse model.
Journal of Neuroinflammation 2015, 12:103 doi:10.1186/s12974-015-0302-z
Published: 28 May 2015 ,

余談になりますが、電気刺激が中枢神経の炎症性疾患を誘導する機構の例を紹介します。

中枢神経系である脳や脊髄の血管には、細菌やウイルスなどの侵入を防御するための特殊な関所として血液脳関門が存在しており、免疫細胞はもとより大きなタンパク質なども通過できません。しかし時に、細菌やウイルスが感染し、癌や炎症などに起因する難病が発症します。したがって、病原体や免疫細胞などが中枢神経系へと入るゲートが存在するはずです。

中枢神経系の難病である多発性硬化症の動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎;EAE)による実験によって、このゲートが第5腰椎の背側の血管にあることを、阪大グループが突き止めました(2012)。

EAEを発症させたマウスから、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質に特異的な自己反応性のTh17細胞とTh1細胞を採取し、正常マウスの静脈に移入するとEAEが誘導されます。これは、血液中の病原性T細胞が血液脳関門から中枢神経系に侵入することを示唆しています。

第5腰椎背側の血管内皮細胞において、炎症アンプとよばれる炎症を誘導する仕組みが活性化することで、CCL20というケモカインが血管内皮細胞に発現し、血液内の病原性T細胞を呼び寄せて中枢神経系へのゲートを形成していることが判明しました。

この、第5腰椎の背側の血管内皮細胞で炎症アンプが活性化される原因は、抗重力筋であるヒラメ筋への絶え間ない重力刺激が、感覚神経を介して第5腰椎の背側で脊髄に伝わることで近傍の血管で炎症アンプを活性化します。

マウスのしっぽを天井からつるし(後肢懸垂法)てヒラメ筋への重力刺激を無くすと、第5腰椎背側の血管におけるCCL20の発現および病原性T細胞の集積は見られず、EAEの発症も抑制されました。また、後肢懸垂モデルのマウスのヒラメ筋に電気刺激を与えると電気刺激を与えた時間に比例してCCL20の発現量が増加しました。

また、この感覚神経の活性化は近傍の交感神経の活性化を引き起こし、交感神経末端から放出されるノルアドレナリンが、第5腰椎の背側の血管内皮細胞において、炎症アンプを過剰に活性化し、過剰のCCL20分子を発現していることが証明されました。さらに、第5腰椎の背側の血管の内皮細胞からは、CCL20ばかりではなく、他のさまざまなケモカインも大量に発現されていました。

第5腰椎の背側の血管内皮細胞が血液細胞の中枢神経系へのゲートであり、そして重力刺激を起点とした感覚神経および交感神経の活性化による血管内皮細胞の炎症アンプ誘導性のケモカインの大量発現がゲートの形成に関与していることが、世界で初めて明らかにされたことになります。

この文献は3年前の報告ですので、既に知っている鍼灸師も多いかとは思います。しかしながら、この研究が、その後どの様に進展しているのか解らないことや、不明な点も多くあります。

炎症アンプとは、血管内皮細胞や線維芽細胞などの非免疫系細胞に存在する炎症誘導機構のことです。炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-17がきっかけとなって、IL-6やケモカインなどの炎症関連因子が産生と、相乗的にNFκBとSTAT3が活性化して多くのケモカインが産生され、自己免疫疾患を含む慢性炎症を誘導する機構です。

Arima Y., M. Harada, D. Kamimura, J-H. Park, F. Kawano, F. E. Yull, T. Kawamoto, Y. Iwakura, U.A.K. Betz, G. Marquez, T. S. Blackwell, Y. Ohira, T. Hirano, and M. Murakami.
Regional Neural Activation Defines a Gateway for Autoreactive T Cells to Cross the Blood-Brain Barrier.
Cell. 148: 447-457, 2012 (Cell) (PubMed) (Cell Previews)

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