ニコチンの使い道 [善玉・悪玉概念の否定]

喫煙は、口腔咽頭癌、肺癌、循環器系疾患、COPDや歯周病の発症と悪化に関与します。しかし一方では、骨髄由来樹状細胞へのニコチン刺激でCD80, CD86, MHC classⅠ, classⅡの発現上昇と、T細胞増殖活性の増強および抗癌作用があるとの報告1)があります。

臨床的な知見では、喫煙者におけるニコチンの摂取は腸疾患を有意に改善することも示唆されています。また、喫煙者はパーキンソン病発症リスクが低いことも30年以上前から知られていました。これは、ニコチンが神経保護作用を有することによります。例えば、Aβ増強グルタミン酸誘発細胞死に対する保護作用やイオノマイシン誘発神経毒性への保護作用も示します。

ニコチンは神経伝達物質であり、イオンチャネル型のレセプターであるニコチン様アセチルコリンレセプター(nAChR)に結合します。 nAChRは主に神経筋接合部におけるシグナル伝達に働きます。アルツハイマー病、パーキンソン病、およびレビー小体病においてnAChRの減少が見られることから、認知症を引き起こす神経変性疾患の病態に関与すると考えれています。また、最近では、nAChRを介する刺激が免疫担当細胞に対して様々な影響を与えることが示唆されています。

1例として、α7サブユニットを介したシグナルにより、LPS刺激マクロファージからの炎症性サイトカイン産生が抑制されることが報告2)されています。喫煙歴がある歯周病の患者で非喫煙者よりも病態がより重篤となる要因には、喫煙による免疫抑制が関与することも報告3) されています。

簡単にまとめますと、ニコチンの存在下でGM-CSFとIL-4で分化させた樹状細胞(DC:最も強力な抗原提示細胞)をNiDCとしてLPS刺激すると、DCのサイトカイン産生は抑制されます。これ以外にも、ナイーブCD4陽性T細胞の増殖の抑制、IFN-γ産生の減少、IL-5/IL-10産生の増強が認められています。

また、タバコ煙抽出物(cigarett smoke extracts ; CSE)の存在下でニコチンを作用させますと、IL-12の産生量減少とIL-10産生量の増加4)(IL-10は一般的には抗炎症性のサイトカインですが、状況によっては炎症促進性にも働くことに注意)、CD40, CD80, CD86, 発現およびT細胞増殖活性の減弱とT細胞からのIL-4産生の増強が報告1)されています。

ニコチンは、免疫応答をTH2型にシフトさせるようです。

免疫の暴走による、難治性の多くの疾患が存在します。ニコチンによる免疫抑制作用はこれらの疾患の治療薬の開発に繋がることが期待されます。

1)Guo FG, Li HT, Li ZJ, Gu JR. Nicotine stimulated dendritic cell could achieve anti-tumor effects in mouse lung and liver cancer. J Clin Immunol 2011 ; 31: 80.

2)Wang H, Yu M, Ochani M, et al. Nicotinic acetylcholine receptor alpha7 snbunit is an essntial regulator of inflammation. Nature 2003. ; 421: 384.

3)柳田学他 ニコチンによる樹状細胞の機能修飾 臨床免疫・アレルギー科, 2012 , 57(3): 249-253.

4)Nouri-Shirazi M, Tinajero R, Guinet E. Nicotine alters the biological activities of developing mouse bone marrow-derived dendritic cells (DCs), Immunol Lett 2007, ; 109: 155.

また、経皮ニコチン治療によって、注意力や記憶などの軽度認知機能障害の改善がみられたとする報告もあります。その内容は、注意力、記憶力、精神運動機能などのセカンダリ・アウトカムの改善が認められたとするものです。但し、プライマリーアウトカムの改善は認められていません。

P. Newhouse, MD, K. Kellar, et al.
Nicotine treatment of mild cognitive impairment A 6-month double-blind pilot clinical trial
Neurology January 10, 2012 vol. 78 no. 2 91-101

余談になりますが、ニコチンは、毒性をコントロールできれば、その強力な鎮痛作用を有効に利用して新しい鎮痛剤ができることは70年程前から分かっているのです。毒性と薬効は裏表の関係にあります。

ニコチンの様々な機能について述べましたが、喫煙を推奨するものではありません。タバコの煙に含まれる約4500種の化学物質の内、200種類ほどが有害であると言われています。


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