メタアナリシス、実は出版バイアスが相当多い [医学一般の話題]

 レビューの中でも、最も研究の質が高いとされるメタアナリシス(meta-analyses )ですが、以前より、弱点とも言える、出版バイアスの問題が指摘されていました。今回の“BMJ”の報告でさらに明らかになっています。

 メタアナリシスとは、その言葉が示すように多くの研究報告を統合して解析する手法で、近年の医学研究では報告数が増えています。個々の研究では、サンプルサイズが小さくて優位差を検出できない場合でも、複数の研究データを束ねることで検出できることや、新たな知見の発見にもつながります。

 当然ながら、統合するためには各研究の質は高いものが要求されます。さらに、統合に当たっては様々なバイアスを考慮する必要がありますが、特に、出版バイアスについての検討が求められます。

 「出版バイアス」とは、投稿される研究は優位な結果が得られた研究が多くなる傾向があることや、有意な結果を報告している研究が出版され易くなるバイアスを言います。
 
 例えば、効果が期待される薬剤の研究で有利な傾向が見られた場合、統計学的に有意差が無くても投稿されます。逆に、若干不利な傾向が認められた場合には(理由の検証もなく)報告されないことが多くなります。これらのバイアスの検証がされなかったため、本来は全く効果が無く、有害であった薬品が長い間使用されていたケースもありました。

 私の印象では、統計学的優位差がほとんど無い場合、ほんの僅かでも数値が高ければ「有効」と結論します。また、逆であった場合には、「本当は有効の筈だが」とゴチャゴチャ言い訳を入れて、「本来は自らが意図する結果になるであろう」と、勝手な推論を述べている研究が相当多いのです。

 前置きが長くなりました。肝心の“BMJ”の報告の一部を簡単に説明します。

 1991-2009年までの、計383件のmeta-analysesから、最近の質の高い研究 31件を選んで調査しています。データは、“Medline”および、“Cochrane Library”から集めています。

 その結果は驚くべきもので、出版バイアスの可能性を検討していたものは32%でした。さらに、個別のデータを入手していたのは52%に過ぎませんでした。この作業は、実際は大変なのですがやらなければなりません。

 また、故意な選択的非システマティックが29%に認められました。本来、有利な報告も不利な報告も全てを集めて解析することが、メタアナリシスおよびシステマティック・レビューに求められます。これをしなければ、勝手な主観を述べただけの“Narrative Review”でしかありません。

Ikhlaaq Ahmed, Alexander J Sutton, Richard D Riley,
Assessment of publication bias, selection bias, and unavailable data in meta-analyses using individual participant data: a database survey
BMJ 2012; 344 doi: 10.1136/bmj.d7762 (Published 3 January 2012)
 
 そもそも、医学領域で“Meta- Analyses”が行われる様になったのは、1904年の戦時中、腸チフスワクチンの効果を研究したことが切っかけでした。実は、このワクチンは無効でした。その後、複数の研究データを統合することの必要性が検討され、1976年に“Meta- Analyses”という言葉が提唱されました。その後、1992年にコクラン共同研究が始まりました。

 出版されてもいない研究をどうやって検証するのかと、疑問に思われるかも知れませんが、実はできるのです。複数の手法がありますが、“Funnel Plot:ファンネル・プロット”が良く使われます。

 ファンネル・プロットは通常、横軸にエフェクトサイズ(有効率の差、オッズ比など)を示し、縦軸には、治療効果の精度(標本の大きさの関数)を示し、この2次元上に臨床試験の結果がプロットされます。プロットの形は逆さまの漏斗(ファンネル)状に分布します。
 出版バイアスが含まれていますと、プロットの下方の片側に空白ができます。本来そこには、利益を示唆しない少数例の試験結果が存在していることが推測されます。(Eggerらによって、ファンネル・プロットの非対称性に関する回帰分析法が開発されました。)

追伸:(Medical Editors Trial Amnesty : META)出版バイアスの改善策として

 META(医学雑誌編集者による臨床試験の救済)とは、1997年に、国際的な医学雑誌の編集者らによって、出版されない臨床試験の救済を目的として、研究者に報告されていない試験情報を送ることを求めたものです。これらの情報をインターネットウェブ上に掲載したり、コクランライブラリーに収載して公的に利用可能とするものです。

 





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