絡脈の構造 (絡脈とは何か・手の太陰の絡脈) [経絡とは]

 今回からは、“経絡”のもう一方の“絡脈”を、「霊枢:経脈篇」の記述に沿って構造的に解釈していきます。 

 これまでは、「経絡」全般の概略と、メインルートである「正経十二経脈」の構造についての私の仮説を述べてきました。私の説は、霊枢:経脈篇に記された“正経十二経脈”とは、“陰経は血管”,“陽経は神経”によって構築した概念であると推測して、原典に記された経脈の流注を解剖学的に解釈したものです。

 結果的に、私の仮説によってほぼ全ての経路を説明できました。さらに、内経中に記された全経穴を調べた結果、私が想定した無穴領域には、経穴は全く出現しないことも確認できました。この経穴分布の一致は、私の仮説の妥当性を示す重要な証拠と考えています。

 今回からは、この仮説を前提とした、同様の規定条件によって“絡脈”の流注も神経,血管によって解釈できることを報告していきます。(“胃の大絡”については、以前に書いた”宗気”についての稿と一部重複します)

“絡脈”とは何か

 先ず、絡脈について簡単に説明します。一般的な成書の中には、“経脈は縦の流れ・絡脈は横の流れ”などと説明しているものも有ります。しかしながら、これは全くの誤りであることを明記しておきます。絡脈は正経脈の支流です。本経からの分岐点を、霊枢の記述を忠実に且つ正確に解釈しますと、絡脈も構造を有すること、また、内経当時の解剖観察が相当正確であったことも理解できます。さらに、「正経十二経脈」と同様の解釈法にて再現できることは、経絡が神経・血管によって構成された概念であることを再確認するうえでも重要であることが理解できます。

 絡脈は、四肢の範囲では皮静脈,皮神経を結び、貫通静脈の分岐点や、神経が筋膜を貫通して皮下に浅く出る部位などを本経からの分岐点としています。これらの解剖による観察は正確であり、経絡が構造を有することの証拠として極めて重要ですが、従来の経絡研究でこの事実を認識したものは皆無です。また、絡脈の分布は、陰陽の思想にそぐわない領域への走行を矛盾無く説明するための方策とも考えられます。

 脾と腎の絡脈は門脈系の側副血行路であると推測されます。胃の大絡は左胃動脈より食道動脈,気管支動脈を経て肺に至る経路であり、宗気の通路として考えたもので、これを経絡の循環の動力源として考えています。心窩部に感じられる鼓動を心臓の拍動とは認識できず、食物の栄養と空気が結びついて生じた一種のエネルギ-の活動として想像し、これを“宗気”と呼びました。

絡脈の流注(構造的解釈)
 
 本稿では、一般的な漢方書などに記されている「十六絡脈」に、“手の陽明の大絡”と“手の少陽の大絡”及び“少陰の大絡”を加えた十九の絡脈について解釈します。解釈法は、正経十二経脈と同様の統一条件 によって行います。従って、陰経の絡脈は血管,陽経の絡脈は神経と仮定します。但し、大絡は全て血管として解釈しました。流注解釈は正経脈の順序と同様に進め、最後に任脈,督脈を説明します。

 1 手の太陰の絡脈

原文の訳
「…(1)名ハ曰ク列欠.腕上分間ヨリ起ス.太陰ノ経ニ並ビ直ハ掌中ニ入リ散ジテ魚際ニ入ル.(2) 別ハ陽明ニ走ル…」

流注解釈
 (1)列欠の部位で橈骨静脈より貫通静脈にて皮下へ出て橈側皮静脈へ進み、掌側指静脈網の母指球への分枝に入る。また、(2)橈側皮静脈の手背へ向かう分枝で手の陽明の領域に向かう。 (図-1)

図-1 手の太陰の絡脈流注図
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追伸
本記事は、拙著「中医学の誤謬と詭弁:2015年1月出版」にも記されています。本書は、黄帝内経における臓腑経絡概念の本質を解読・検証したものです。市販はしておりませんが、希望される方には、個人的に販売しています。申し込み方法は、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧ください。


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