MRIの解剖学的異常所見は腰痛患者における椎間板障害を予測できない [腰痛関連]

慢性腰痛患者 187人を対象として、腰椎 のMRI所見( 椎間板変性、高強度ゾーン、終板の異常:Modic 変化)を前向きに分析した結果、痛みを伴う椎間板障害の予測には役立たないと結論づけられている(少々古い文献ですが)。

画像診断には、磁気共鳴画像法 (MRI)、コンピューター断層撮影法 (CT)、X 線、脊髄造影法などがあり、MRIは電離放射線を使用しないという利点と、軟部組織の優れた可視化能力を備えているため最適な画像診断法と考えられている。しかし、臨床において腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の診断精度の証拠は不明であり、さらに、患者の臨床所見と MRI 所見の間の不一致はむしろ常識となっている。

腰痛および下肢の痛みに対する画像診断は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、馬尾症候群による神経根の圧迫を評価するために使用される。さらに、画像診断を使用して原因となる椎間板レベルを特定することは術前の情報源としても重要となる。しかし、腰痛症全体から見れば、これらはほんの一部に過ぎず、9割以上においてその原因は特定できない。

貴方が腰痛のために整形外科を受診したとする。画像検査の結果何らかの異常が見つかると、医師は、この画像上の変化を腰痛の原因であると告げる。ほとんどの患者がこの説明で納得するが、少し考えてほしい。画像の変化は突然生じたものではないが、何故、今急に痛み出したのか。さらに、症状の多くは画像の改善がなくても自然に治まってしまう。疑問に感じたことはないだろうか。

医師の診断の多くは「現象論」に過ぎず、画像の変化と症状の間はブラックボックスであり、これらを結びつけるような証拠も理論も存在しないのである。

本件の報告に戻ると、慢性腰痛患者 187 人の腰椎 MRI の椎間板所見と解剖学的異常を前向きに分析し、椎間板の変性、高強度ゾーン(HIZ)、終板の異常(Modic)変化について評価。ディスコグラフィー(527個の椎間板)における疼痛誘発の結果を画像所見とは無関係に評価。感度、特異度、陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)を計算して、MRIの異常との臨床的関連性を評価。

患者におけるHIZの有病率は 53.5%。椎間板の形態異常とHIZの間には有意な相関が見られた(p<0.05)。形態学的に異常な椎間板 (グレード 3, 4) では、HIZ と一致する痛みの再現の間に有意な相関が見られた (p<0.001)。

痛みとHIZとの関係は感度41%、特異度78.6%; PPV、26.4%; NPV、87.7%)、異常な椎間板(ディスコグラム)は、感度94%、特異度77.5%、PPV18.5%、NPV95.2%。椎間板変性は、感度85.5%、特異度73.4%、PPV17.9%、NPV90.8%、およびモディック変化は、感度、3.6%; 、特異度4.5%、PPV13.1%、NPV84.7%で、症候性椎間板障害の特定に役立たなかった。

因みに、一般の人から見ますと、ディスコグラムの感度94%、特異度77.5%は検査の信頼性としては高い方ではと思うかも知れません。しかし、感度と特異度の数値のみでは、実際に病気である確率は分かりません。有病率を含めたベイズ統計学を使って計算する必要があります。

アメリカにおけるLDHの有病率は約1%と言われています。この数値を使って、条件付き確率を計算しますと。

0.01×0.94/0.01×0.94+0.775×0.225+0.06×0.225=0.0476

つまり、ディスコグラム陽性でも、腰椎椎間板ヘルニア(LDH)である確率は約4.76%に過ぎない(計算違いがなければ)のです。「ベイズ推定」の結果は信じがたいかも知れませんが、これが現実であり、血液検査の信用性にも同様のことが言えるのです。

出典文献
Clinical Significance of the Anatomical Abnormal Findings on Lumbar MRI in Patients with Chronic Low Back Pain
Jowa Hyuk Ihm, Jong Hun Lee, Jin Sik Noh, Choong Bae Moon,
Korean J Spine 2004;1(1): 127-136.