臓器線維化にみる病気の本質 [らくがき]

急性の炎症はともかくとして、臓器の慢性疾患に疑問を感じたことはないだろうか。我々の体の細胞は常にそれぞれの周期を以て生まれ変わっている。したがって、細胞が生まれ変われば病気も消失するはずなのですが、不思議なことに、慢性疾患の臓器は病気のままなのです。それは何故か、昔から疑問に感じていました。

疾患臓器の細胞の構造を電子顕微鏡で観察しても、細胞自体には形態学的な変化は存在しません(癌を除く)。実は、細胞間のマトリックスにおける組織構造の破壊である線維症が病態の本質なのです。最近の推計によれば、線維症は欧米の全死亡のほぼ半分を占めており、組織機能を回復するメカニズムは未解明なのです。

線維症は、慢性炎症および組織修復中の線維性結合組織の過剰な形成です。細胞外マトリックス(ECM)成分、特にコラーゲンの過剰な沈着と架橋の形成が線維症の主な原因でであり、筋線維芽細胞アポトーシスの明確な欠如によって特徴付けられます(1.)。それは、組織損傷に対する修復過程の失敗と言えます。

アレルギー反応、自己免疫、持続性感染症、組織損傷などのさまざまな刺激が、皮膚、肝臓、肺、心臓、腎臓などの組織や臓器の線維形成の開始と進行に寄与します。線維症は、全身性硬化症(SSc)、特発性肺線維症(IPF)、および最近のパンデミックコロナウイルス病2019を含む多くの慢性疾患における臓器損傷および機能不全の原因であり、予後は不良です。

これまで、線維症は不可逆的なプロセスと見なされてきたため、臓器不全の「なれの果て」と考えられていました。しかし.近年、動的な細胞ネットワークが支える可逆的な状態と捉えられる知見が蓄積してきており(2.)、慢性疾患が回復する可能性も見えてきました。とは言え、これまでのヒト線維性疾患の特定のメカニズムを標的とする薬剤の臨床試験は期待外れであり、線維症を回復させることは示されていません。

可逆性が達成できる程度は、器官、組織依存性および刺激依存性である可能性があります。線維症の分解を促進するための戦略には、アポトーシスに対する筋線維芽細胞感受性の回復、細胞外マトリックス(ECM)分解、クリアランスの増強メカニズム、コラーゲン架橋の阻害、および老化細胞の排除が含まれます。

私は、筋・筋膜に関連する疾患にもコラーゲンの異常な過剰形成が関与しており、鍼治療は治療手技によってこれらの異常を改善できるものと考えています。

出典文献
Mechanisms for the Resolution of Organ Fibrosis
Jeffrey C. Horowitz, Victor J.
Physiology (Bethesda). 2019 Jan 1; 34(1): 43–55.
Published online 2018 Dec 12. doi: 10.1152/physiol.00033.2018

The Roles of Immune Cells in the Pathogenesis of Fibrosis
Enyu Huang, Na Peng, Fan Xiao, et al.
Int J Mol Sci. 2020 Aug; 21(15): 5203.
Published online 2020 Jul 22. doi: 10.3390/ijms21155203

1.
Jun JI, Lau LF. Resolution of organ fibrosis. J Clin Invest 128: 97–107, 2018. doi:10.1172/JCI93563.
2.
Glasser SW, Hagood JS, Wong S, Taype CA, Madala SK, Hardie WD. Mechanisms of Lung Fibrosis Resolution. Am J Pathol 186: 1066–1077, 2016. doi:10.1016/j.ajpath.2016.01.018.