アルツハイマー病薬のアデュカヌマブはなぜ承認されたのか [薬とサプリメントの問題]
有効性が確認されないまま、問題のある、アルツハイマー病の新薬であるバイオジェンの aducanumab (Aduhelm) を FDA が承認し、日本でも近いうちに承認される予定と聞いた。しかし、これは何を意味するのだろうか。
FDAは、大規模で慎重に実施された第 III相試験によって提供された非有効性に関する質の高い科学的証拠を無視した。
凝集型のアミロイドベータに選択的に結合するモノクローナル抗体である Aducanumab は、2 つの同一の第 III 相試験である EMERGE および ENGAGE の結果、かなり疑問視された。 試験は 2019 年 3 月に終了し、 aducanumab がプラシーボを上回る可能性は低いと判断された。
アミロイドβ(Aβ)の蓄積がアルツハイマー病の本当の原因であるかは現時点で明らかではない。今回承認されたアデュカヌマブは、脳内にアミロイドβ(Aβが蓄積して神経細胞を死滅させることでアルツハイマー病になるとする仮説に基づいて開発された。しかし、Aβの蓄積の結果として神経細胞が死滅するのか、別の原因で神経細胞が死滅した結果としてAβが蓄積するのかについては定かではない。このAβを標的として、その前駆タンパク質からAβが作り出される際に働く酵素のβセクレターゼ(BACE)阻害薬や、アデュカヌマブと同じような、脳内に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体の2つの流れで新薬開発が進められてきた。しかし、ロシュ、ファイザー、イーライリリー、メルク、ノバルティスなど、第III相試験で効果が見いだせずに開発中止に追い込まれた経緯がある。
2019年3月に独立データモニタリング委員会の勧告によって、2件の進行中の第III相試験が中止となった。しかし、その後に新たな症例を加えて解析した結果、1件については、高用量群で、プラシーボ群と比較して臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes:CDR-SB)において有意な低下が認められたことで、一転して承認申請された。提出されたデータに対するFDA諮問委員会の評決では、ほぼ一貫して否定的な評価であったが、何故か最終判断で新たな無作為化比較試験の追加実施を条件に、その結果次第では後日承認を取り消しができるという条件付きで承認となった。
今回のFDAの承認は、代理エンドポイントに基づいて、満たされていない医療ニーズを満たすために承認する方法である、FDAの迅速承認経路を通じて行われた。その承認は、あくまでも、その薬が臨床的利益を生み出す可能性が合理的に予想されることを前提としている。しかし、代理エンドポイントは、ベータアミロイドを減少させる aducanumab の能力であり、これは、「競合するモノクローナル抗体を持つ企業が、説得力のある臨床データがなくても同様の主張をするための扉を開くことになる。
急いでいれば、とりあえず何でも許されるのか。それは政治的意図か?なにやら、新型コロナワクチンに似ている。
FDAは、アデュカヌマブの臨床試験データは複雑であるとしつつも、「ADUHELMには、脳内のAβプラークを減少させるという実質的なエビデンスがあり、プラークの減少はベネフィットを予測できる合理的な可能性がある」、と述べている。
アデュカヌマブをめぐっては、患者団体や一部の神経科医から承認を望む声が上がっていたが、臨床試験の結果には一貫性はなかった。FDA諮問委員会に出席していた、ジョンズ・ホプキンス大の医薬品研究者のケイレブ・アレキサンダー博士は、アデュカヌマブの承認に否定的な見解を示しており、結果に驚き失望していると語った。メーカーとつながりのある科学者でも、全体として説得力を持つエビデンスがあると考える者は少ない。
また、懸念されるのは、年間売り上げ1兆円と言われる医療コストだ。バイオジェンは、米国では約150万人が月1回アデュカヌマブを点滴する対象になると推定している。アルツハイマー病協会によると、アルツハイマー病を患う米国人は現在600万人。2050年には1300万人に増加すると予想されている。
引用文献
A Drug to Treat Alzheimer's Was Approved. Now What?
— Whether Aduhelm actually slows cognitive decline still is unclear
by Judy George, Senior Staff Writer, MedPage Today June 8, 2021
FDAは、大規模で慎重に実施された第 III相試験によって提供された非有効性に関する質の高い科学的証拠を無視した。
凝集型のアミロイドベータに選択的に結合するモノクローナル抗体である Aducanumab は、2 つの同一の第 III 相試験である EMERGE および ENGAGE の結果、かなり疑問視された。 試験は 2019 年 3 月に終了し、 aducanumab がプラシーボを上回る可能性は低いと判断された。
アミロイドβ(Aβ)の蓄積がアルツハイマー病の本当の原因であるかは現時点で明らかではない。今回承認されたアデュカヌマブは、脳内にアミロイドβ(Aβが蓄積して神経細胞を死滅させることでアルツハイマー病になるとする仮説に基づいて開発された。しかし、Aβの蓄積の結果として神経細胞が死滅するのか、別の原因で神経細胞が死滅した結果としてAβが蓄積するのかについては定かではない。このAβを標的として、その前駆タンパク質からAβが作り出される際に働く酵素のβセクレターゼ(BACE)阻害薬や、アデュカヌマブと同じような、脳内に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体の2つの流れで新薬開発が進められてきた。しかし、ロシュ、ファイザー、イーライリリー、メルク、ノバルティスなど、第III相試験で効果が見いだせずに開発中止に追い込まれた経緯がある。
2019年3月に独立データモニタリング委員会の勧告によって、2件の進行中の第III相試験が中止となった。しかし、その後に新たな症例を加えて解析した結果、1件については、高用量群で、プラシーボ群と比較して臨床的認知症重症度判定尺度(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes:CDR-SB)において有意な低下が認められたことで、一転して承認申請された。提出されたデータに対するFDA諮問委員会の評決では、ほぼ一貫して否定的な評価であったが、何故か最終判断で新たな無作為化比較試験の追加実施を条件に、その結果次第では後日承認を取り消しができるという条件付きで承認となった。
今回のFDAの承認は、代理エンドポイントに基づいて、満たされていない医療ニーズを満たすために承認する方法である、FDAの迅速承認経路を通じて行われた。その承認は、あくまでも、その薬が臨床的利益を生み出す可能性が合理的に予想されることを前提としている。しかし、代理エンドポイントは、ベータアミロイドを減少させる aducanumab の能力であり、これは、「競合するモノクローナル抗体を持つ企業が、説得力のある臨床データがなくても同様の主張をするための扉を開くことになる。
急いでいれば、とりあえず何でも許されるのか。それは政治的意図か?なにやら、新型コロナワクチンに似ている。
FDAは、アデュカヌマブの臨床試験データは複雑であるとしつつも、「ADUHELMには、脳内のAβプラークを減少させるという実質的なエビデンスがあり、プラークの減少はベネフィットを予測できる合理的な可能性がある」、と述べている。
アデュカヌマブをめぐっては、患者団体や一部の神経科医から承認を望む声が上がっていたが、臨床試験の結果には一貫性はなかった。FDA諮問委員会に出席していた、ジョンズ・ホプキンス大の医薬品研究者のケイレブ・アレキサンダー博士は、アデュカヌマブの承認に否定的な見解を示しており、結果に驚き失望していると語った。メーカーとつながりのある科学者でも、全体として説得力を持つエビデンスがあると考える者は少ない。
また、懸念されるのは、年間売り上げ1兆円と言われる医療コストだ。バイオジェンは、米国では約150万人が月1回アデュカヌマブを点滴する対象になると推定している。アルツハイマー病協会によると、アルツハイマー病を患う米国人は現在600万人。2050年には1300万人に増加すると予想されている。
引用文献
A Drug to Treat Alzheimer's Was Approved. Now What?
— Whether Aduhelm actually slows cognitive decline still is unclear
by Judy George, Senior Staff Writer, MedPage Today June 8, 2021
2021-06-09 10:32
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