心筋梗塞後の退院時心拍数は3年死亡率と強く関連する(心拍数の意義とは) [医学一般の話題]

急性心筋梗塞(AMI)患者6576人の調査で、退院時心拍数は広範囲の潜在的な交絡因子とは無関係に、3年間の追跡調査後の全死因死亡率と有意に関連していた。この関連は入院心拍数とは無関係で、独立して死亡率に関連していた。また、退院時心拍数と全死因死亡率との関係は退院時のβ遮断薬治療によって修正され、退院時心拍数の上昇による死亡リスクはβ遮断薬を受けずに退院した患者の方が著しく高かった。

退院時心拍数が高く、βブロッカー非使用では死亡リスクは、HR=1.35per10bpm(95% CI=1.19–1.53per10bpm)で10拍当たり35%増加する。一方、βブロッカーを使用した場合には、HR=1.10 per 10 bpm(95% CI=1.03–1.17 per 10 bpm)で、増加は10%。

従来、AMI患者の入院時心拍数の上昇が、退院後の短期および長期の死亡率の独立した予測因子であることは多数の研究によって立証されている。また、β遮断薬が安静時の心拍数を下げ、梗塞サイズ、再発性梗塞、および長期死亡率を減らすのに効果的な薬剤であることも十分に確立されている。

この研究は、β遮断薬の単独使用が利益をもたらすか、あるいは、AMI後の退院時心拍数と長期死亡率との関連がβ遮断薬によって改善されるかを検証したもの。

男性1000人当たり2年間における突然死発生率は、心拍数<65拍/分では1.1、>88拍5.9(p<0.001)。男性では、安静時の心拍数が10拍/分上昇すると突然死発生率が約2倍となる(Kannel WB,1985)。一方、女性では、安静時心拍数の上昇による突然死は増加するものの、突然死発生そのものが男性に比べて少ない傾向がある。

一般企業の男性1,233名を対象にした研究(Chicago Peoples Gas Company study, Dyer AR, 1980,)では、心拍数≧94拍/分群の全死亡率は、心拍数56〜60拍/分の群の2.7倍(p≤0.01)。尚、心拍数55拍/分の群の全死亡率が心拍数56〜60拍/分の群よりもわずかに高くなったが(1.1倍)、有意差はなかった。

そもそも、心拍数にはどの様な意味があるのだろうか。

哺乳動物において、心拍数と寿命には深い関係がある。(但し、ヒトだけは例外)、生涯心拍数は、動物の大きさや種類に寄らずほぼ一定の範囲に分布しており(7.3±5.6×10の8乗拍)、心拍数によって寿命がプログラムされている可能性がある。このことから、ほ乳類の寿命は心臓が約7億回拍動できるまでとプログラムされているようにも見える。

横軸に平均寿命をプロットして縦軸に心拍数を対数表示すると、ヒトを除けばみごとな直線関係となる。ヒトの心拍数はキリンに近いが、寿命は直線の右に大きく偏位する。この理由として、文明社会によって健康管理などの恩恵を受けているためと言われているが、私には安易な推測に思える。野生のキリンの寿命は10~15年で、飼育でも20~30年が限界である。天敵もなく、栄養や健康管理が十分でも、平均寿命80歳のヒトには遠く及ばない。逆に、古代において、ヒトの寿命が20年程であったとは考えにくい。

寿命はともかくとして、心拍数の増加が心血管イベントや死亡率増加と関連することは多くの研究によって示唆されており、昔の正常値(65~85/分)は現在では意味を成さない。

出典文献
Discharge Heart Rate After Hospitalization for Myocardial Infarction and Long‐Term Mortality in 2 US Registries
Venkatesh Alapati, Fengming Tang, Esti Charlap, Paul S. Chan, Paul A. Heidenreich, et al.,
Originally published29 Jan 2019https://doi.org/10.1161/JAHA.118.010855Journal of the American Heart Association. 2019;8

Kannel WB, Wilson P, Blair SN : Epidemiological assessment of the role of physical activity and fitness in development of cardiovascular disease. Am Heart J, 1985 ; 109 : 876 ~ 885

Dyer AR, Persky V, Stamler J, Paul O, Shekelle RB, Berkson DM, Lepper M, Schoenberger JA, Lindberg HA : Heart rate, as a prognostic factor for coronary heart disease and mortality : findings in three Chicago epidemiologic studies. Am J Epidemiol, 1980 ; 112 : 736 ~ 749

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