新しい抗炎症治療の可能性 [免疫・炎症]

最近では、うつ病や2型糖尿病(T2D)は生物学的起源を共有し、そのメカニズムとして、視床下部下垂体副腎の不全によって誘発された慢性的なサイトカイン媒介性炎症反応であることが示唆されている(1.2.)。T2D はうつ病のより高い感受性と関連付けられ(3.)、うつ病はT2D のリスクを60%増加させると報告されている(4.5.)。

NLRP3は免疫系タンパク質で、タンパク質複合体であるインフラマソームの構成成分であり、自然免疫機構として、病原体の構成成分などを特異的に完治して排除するために炎症応答を惹起する。しかし、その暴走は、2型糖尿病、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、および自己免疫疾患などの重篤な炎症性疾患の発症に寄与する。

糖尿病治療薬のGlyburide は、NLRP3 インフラマソームの阻害剤として有効であり、海馬のインスリンシグナリングと同様に、インスリン不耐性や行動のパフォーマンスを改善することが示されている(6.)。

しかし、Glyburide は、NLRP3 インフラマソーム活性化を防止する最初に同定された化合物だが、その多面効果の正確なメカニズムについては未だ不明確。

パターン認識受容体であるNLRP3は、過栄養によって生体内に蓄積した遊離脂肪酸や尿酸塩などの刺激性の代謝物に反応し、タンパク複合体であるNLRP3インフラソームを形成してIL-1β、IL-18の産生を誘導する。

絶食やカロリー制限、激しい運動、また、低炭水化物ケト原性食によって産生される代謝産物のβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)がNLRP3を直接阻害すると報告されている(7.)。BHBをナノ粒子に封入してから炎症性疾患のマウスモデルに投与すると、血液中のBHBレベルを上昇させるケト原性食を摂取した場合と同じように炎症症状が軽減する。これらの知見から、絶食、ケト原性食の摂取や激しい運動の際に見られる抗炎症効果の一部は、BHB産生とそれによるNLRP3の阻害が関与していると推測される。

BHB とAcAcは、エネルギー欠損状態における哺乳類の生存をサポートし、BHB は、ヒト単球で NLRP3 インフラマソームを媒介するインターロイキン IL-1α,βおよび IL-18 産生を低減する。カロリー制限やケトダイエットの抗炎症作用は、NLRP3インフラマソームの BHB 媒介阻害にリンクすることを示唆している。

さらに別の報告では、MCC950がNLRP3を直接阻害し、ヒト細胞、あるいは自己免疫疾患や自己炎症性疾患のマウスモデルにおいて炎症応答の抑制に効果が示されている。また、MCC950の抗炎症作用は、インフラマソーム複合体中の感染制御に重要な働きをする成分には影響を与えないことも示唆されている。

引用文献

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Yun-Hee Youm, Kim Y Nguyen, Ryan W Grant, Emily L Goldberg, et al.,
The ketone metabolite β-hydroxybutyrate blocks NLRP3 inflammasome–mediated inflammatory disease.
Nature Medicine 21, 263–269 (2015) doi:10.1038/nm.3804

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