ゾウの癌耐性にはTP53増幅と損傷DNAのアポトーシス応答増加が関与する [医学一般の話題]

ゾウは他の哺乳動物種と比較して癌耐性を有しており、このメカニズムを知るためにDNA損傷に対する細胞応答を比較した研究の結果が報告されています。

ゾウが持つ癌耐性には潜在的なTP53の複数のコピーが関連し、ヒト細胞と比較して、DNA損傷後のアポトーシス応答が増加することが示唆されました。

対象となった動物は、アフリカおよびアジアゾウ(N = 8)、を含む36種の哺乳動物(N = 644)、癌に罹患し易いリ-フラウメニ症候群(Li-Fraumeni syndrome;LFS)の患者(N = 10)、および年齢をマッチさせた健康なヒト(N = 11)。ヒトのサンプルは2014年6月から2015年7月までにユタ大学で収集しています。

生物種間を超えて癌死亡率を計算し、体の大きさと寿命を比較。ゾウのゲノムの癌関連遺伝子変化を調査し、ゾウと健康なヒト、およびLFSを有する患者の損傷応答を、末梢血リンパ球における DNA の修復とアポトーシスをin vitroで比較検討。

哺乳類間で、体の大きさと最大寿命によって癌死亡率は増加しませんでした。
ロックハイラックス1% [95% CI, 0%-5%]、アフリカンワイルドドッグ8% [95% CI, 0%-16%]、ライオン2% [95% CI, 0%-7%]

ゾウは体の大きさと長寿命にもかかわらず、癌死亡率は4.81% (95% CI, 3.14%-6.49%)で、ヒトの11% ~ 25%に比べて低く、高い癌耐性を有しています。

TP53のコピーは、ヒトで 1 copy (2 alleles;対立遺伝子)であるのに対し、アフリカ象では、19 retrogenes (38 alleles) を含む少なくとも 20 copy (40 alleles)が存在し、転写活性が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応によって確認されています。

電離放射線被ばく(ionizing radiation exposure)によるDNA損傷に応答した、象のリンパ球の p53 を介するアポトーシスは14.64% (95% CI, 10.91%-18.37%; P<0.001)で、LFS患者の2.71% (95% CI, 1.93%-3.48%)、および健康なヒトの 7.17% (95% CI, 5.91%-8.44%)
に比べ高レートになっています。

また、ドキソルビシン曝露では、ゾウ24.77% (95% CI, 23.0%-26.53%; P<0.001)、健康なヒトでは8.10%(95 %ci, 6.55%-9.66%)で、ゾウが圧倒的に高くなっています。

出典文献
Lisa M. Abegglen, Aleah F. Caulin, Ashley Chan, Kristy Lee, et al.,
Potential Mechanisms for Cancer Resistance in Elephants and Comparative Cellular Response to DNA Damage in Humans.
JAMA. Published online October 08, 2015. doi:10.1001/jama.2015.13134

補足:

TP53は癌抑制遺伝子でp53タンパク質をコードします。TP53は転写活性因子であり、DNA傷害などの各種細胞ストレスやがん遺伝子シグナルなどによりリン酸化され、アセチル化などの翻訳後修飾にて活性化され、下流遺伝子の転写調節領域内に存在する特異的塩基配列に結合して転写を活性化します。多くの癌においてTP53変異が報告され、ヒトの癌の約50%にTP53の変異が存在することから、発癌や悪化因子として重要な遺伝子であると考えられています。

Li-Fraumeni症候群(LFS)は、生殖細胞系列におけるTP53遺伝子の病的変異を原因とする遺伝性疾患です。LFSの患者は、様々な臓器の悪性腫瘍を多発するリスクが高いことが知られています。

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