ROS・NOの抗ストレス・抗炎症機能 [免疫・炎症]

 有害性のみが話題となっている活性酸素(reactive oxygen species:ROS)ですが、実は巧妙に制御されたシグナル伝達によって、抗酸化や抗炎症作用に対する細胞応答の中心的役割を担っていることが解ってきています。

 ROSや一酸化窒素(NO)は生体分子に損傷をもたらす毒性因子としてだけではなく、その強力な酸化作用による抗菌活性から、マクロファージなどによる自然免疫機能にとって重要な存在でもあります。

 炎症部位などで生成されるROSとNOに依存して、cGMPのニトロ化体である8-nitro-GMPは作られます。この8-nitro-GMPは蛋白質のチオール基と反応してKeap1のS-グアニル化を引き起こし、ヘムオキシダーゼ-1の発現調節を行っています。ヘムオキシダーゼ1は、抗酸化や抗炎症作用を持つことから、ROSは防御的な酸化ストレス応答や抗炎症シグナルを誘導する分子であることが明らかになってきました。

 また同時に、サルモネラ感染の際に、マクロファージ細胞内に8-nitro-GMPが生成されて細胞保護作用を示すことも報告されています。

 以前は、ガス状分子は代謝経路の末席を汚す有害な排泄物としての認識のみでした。しかしながら、NO、CO、H2Sなどの内因性ガス物質が生体恒常性維持に不可欠であることが解明されてきました。また、ある種の酵素は、化学的に困難な反応を触媒するためにラジカルの高い反応性を利用していることも知られています。

 従来、NOは神経伝達物質として知られてましたが、最近は、喘息患者の気道内において好酸球性炎症の際に多量に産生されることから、呼気分析による発作予測など診断ツールとしても利用されています(NIOX MINOスウェーデン製:以前にこのブログでも紹介)。
 
 これまでは、COPDと喘息の病態はoverlappingしているため、臨床的鑑別は容易ではありませんでしたが、最近、非侵襲的biomarkerとして、呼気揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOCs)を分析する、呼気指紋(breathprints)によって鑑別できる可能性があると報告されています。

 ガス状分子は細胞膜を容易に抜けて浸透するため、アセトン、水素などの多くの物質が皮膚からも発散しており、様々な診断への利用が期待されています。

 鍼灸刺激によるガス状物質の発生に関しては不明ですので、治療への応用は未知数です。しかしながら、将来的には研究する価値は高いものと考えます。また、NOのみならず、ガス状分子の分析は身体への侵襲が無いため、将来的には我々鍼灸師にとっても有益な診断ツールとなる可能性があります。

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