新型コロナ禍によって知り得ること [らくがき]

東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士助教らのグループは、今年2月以降、喘息のため入院する患者が例年に比べて大幅に減ったとする調査結果を発表した。

それによると、全国 272 ヵ所の急性期病院における入院診療データを分析した結果、新型コロナウイルス感染症の流行期間(2020年2月24日以降)では、前年までの同時期に比べて、喘息による入院数が55%減少した。

健保連による、全国の20~70代の男女4,623人を対象に実施した今年9月のオンライン調査によると、高血圧症や脂質異常症といった持病をもつ3,500人のうち、865人(24.7%)が受診を抑制したが、それらの人の69.4%が体調が悪くなったとは感じないと回答し、体調が少し悪くなったと感じた人は10.7%だった。

今から約30年前、老人保健施設が創設された頃のエピソードでは、老人病院から老健施設に転所した高齢者の多くが、認知症が改善しむしろ元気になったのである。老人保健施設では薬剤費が包括化されており、薬を使えば使うほど施設側の持ち出しになるという制度設計になっているため、老人病院から老健施設に転所した高齢者の多くが病院入院時よりも投与する薬を大幅に減らされたことが、その要因として挙げられている。

今回のコロナ禍でも、外来診療における過剰診療・過剰投薬が改めて浮き彫りになるであろうし、恐らく、2020年度における病気による死亡者数も減少するものと、個人的に予想している(来年に報告される、厚生労働省の統計が待たれる)。

季節性インフルエンザについても、その発症は例年より大幅に少ないとの報告が出ている。

厚生労働省が11月20日に発表した、 11月9~15 日の1週間のインフルエンザの発生状況によると、全国およそ5,000ヵ所の定点医療機関から報告があった患者数は前週から1人減り、わずか計23人。インフルエンザは、1医療機関当たりの1週間の患者数が全国で1人を超えると全国的な流行期入りと判断されるが、この時点で0.005人と大きく下回っている。専門家を自称する医師の中には、新型コロナとインフルエンザが同時に流行する可能性があると騒いでいた人たちがいた。しかし、私の知る限り、これまでに複数の感染症が同時に流行したことはない。1つの感染症が流行すれば、他の感染症は減少するのが一般的だ。

因みに、日本においても毎年数千人がインフルエンザで死亡し、多い年では一万人が死亡している。通常の肺炎でも、昨年度は9万4千人以上が死亡している(一日平均259人)。新型コロナの比ではないのである。

また、日本医師会による最新の診療所の経営状況の発表では(11月5日)、小児科で約3割、耳鼻咽喉科で約2割前後、外来点数が減少している。小児科と耳鼻咽喉科は感染症やアレルギー性疾患の患者が多く、単に新型コロナによる受診の抑制だけではなく、疾患そのものが減っていることも大きな要因と考えられている。

それぞれのデータには複数の要因が関与しており、単純には比較できない。それでも、以前から言っていることだが、「医療の本質」について改めて考える好機ではないだろうか。さらに言わせてもらえば、専門家と呼ばれている医師達ほど、建前ばかりで本音を語らない。

引用
第34回 コロナ禍の意外な恩恵? インフル・喘息大幅減、受診抑制も体調変化なし…
萬田 桃 氏
Care Net 公開日:2020/11/25

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高心血管リスクを有する患者へのΩ3脂肪酸の投与は心血管イベントを減少させない [医学一般の話題]

無作為化臨床試験の結果、アテローム原性脂質異常血症および高心血管リスクを有する患者に対するEPA および DHA (オメガ 3 CA)の投与は、トウモロコシ油の使用と比較して、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠状動脈再血管化、または不安定狭心症の入院の複合終点などに有意な効果を示さなかった。

尚、この試験は、オメガ 3 CA 対トウモロコシ油比較器の臨床的利益が低いことにより、中間分析に基づいて早期に停止された。

以前の観察研究では、オメガ3脂肪酸の摂取と心血管イベントと、エイコサペンタエン酸(EPA)またはドコサヘキサエン酸(DHA)の循環濃度が心血管リスクと逆相関することを示すものもあった。また、EPAおよびDHAサプリメントの1 g /dで心血管の利益を示す報告もあった。しかし、何れも、その後のより大きな試験ではこれらの知見は確認できなかった。

スタチンで治療されたアテローム性脂質異常症の証拠がある高リスク患者に対し、4gのオメガ3脂肪酸を投与した最近の研究では、臨床的利益の可能性が低く、オメガ3 CA治療群において心房細動の発生率が高いなど、リスクの証拠があったため早期に中止されている(1.2)。

つまり、世間の認識とは違い、EPAとDHAが心血管リスクを減少させるかどうかは不明。

出典文献
Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk
The STRENGTH Randomized Clinical Trial
Stephen J. Nicholls, Michael Lincoff, Michelle Garcia, RN, et al,
JAMA. Published online November 15, 2020. doi:10.1001/jama.2020.22258

1.
Kastelein JJ, Maki KC, Susekov A, et al. Omega-3 free fatty acids for the treatment of severe hypertriglyceridemia: the EpanoVa fOr Lowering Very high triglyceridEs (EVOLVE) trial.  J Clin Lipidol. 2014;8(1):94-106. doi:10.1016/j.jacl.2013.10.003

2.
Maki KC, Orloff DG, Nicholls SJ, et al. A highly bioavailable omega-3 free fatty acid formulation improves the cardiovascular risk profile in high-risk, statin-treated patients with residual hypertriglyceridemia (the ESPRIT trial).  Clin Ther. 2013;35(9):1400-11.e1, 3. doi:10.1016/j.clinthera.2013.07.420

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全膝関節形成術後の不良転帰が予測される患者に対するリハビリの効果とは [医学・医療への疑問]

全膝関節形成術後の予測不良転帰を有する患者を対象として、セラピスト主導の外来リハビリテーション(プログレッシブ目標指向の機能的リハビリテーションプロトコル、1対1の接触セッションで毎週変更)、または在宅運動のいずれかに分類して効果を比較したところ、両群に差は無かった。

参加者334名は、膝変形性関節症の術後6週間で、オックスフォード膝スコアに基づいて、全膝関節形成術後の予後不良リスクと定義(全体は4264名)。163名が、セラピストによる外来リハビリテーションに割り当てられ、171名は家庭運動ベースのプロトコルにそれぞれ無作為に割り当てられ、6週間、18セッションのリハビリテーションが実施された。

52週における、オックスフォード膝スコアのグループ間の差は1.91(95%信頼区間-0.18〜3.99)ポイントで、外来リハビリテーションアーム(P=0.07)を支持した。すべての時間ポイントデータを分析した場合、グループ間の差は2.25ポイント(0.61〜3.90、P=0.01)であった。平均疼痛では、グループ間に差異は認められなかった。

この研究の制限は、比較のための非治療群を含めなかったことが挙げられる。(著者も認めている)。

“Discussion”でも述べられているように、全膝関節形成術の1年後の患者転帰は、患者に適用される術後リハビリテーションの場所またはタイプの影響を受けないことがすでに明らかになっている。術後理学療法の有効性が低いにもかかわらず、個々の理学療法部門に特定のプロトコルが強く定着しており、さらに、リハビリテーションを提供するための最良の方法に関するコンセンサスは欠如している。

膝関節形成術後の回復は手術のでき如何で左右され、それは、術後のリハビリで変更できるものではない。患者に正しく伝えて状況を認識させ、理学療法士のレビューと家庭運動に基づくレジメンを通じてハンズオフリハビリテーションを提供するだけで十分である、という事実をこの研究結果が示している。

全膝関節形成術(人工関節全置換術)は膝の末期変形性関節症に対する一般的な治療法であり、英国では毎年100,000以上、米国では700,000以上に行われている。その内の、約20%が術後の結果に対する不満を訴えている(20~30%の患者に痛みが残る)。もし、手術を受ける前に患者に手術の動画を見せたとしたなら、果たして受けるだろうか。この手術を目の前で見た者としては、どんなに膝が痛かろうが受けようとは思わないが。

出典文献
Targeting rehabilitation to improve outcomes after total knee arthroplasty in patients at risk of poor outcomes: randomised controlled trial
BMJ 2020; 371 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m3576 (Published 13 October 2020)
Cite this as: BMJ 2020;371:m3576
David F Hamilton, David J Beard, Karen L Barker, et al,

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