「膝痛の鍼治療」を出版 [出版のお知らせ]

私の、4冊目の本となる、「膝痛の鍼治療」を上梓しました。

本書は、鍼灸師の視点で捉えた膝痛の診かたと治療法を解説しています。一般成書とは異なり、膝関節の解剖図などはありません。従いまして、膝関節の骨格構造や靱帯の配置なども全く描いていません。また、膝痛の中でも、最も頻度が高いと言われている変形性膝関節症(膝OA)についても、この疾患概念を特に治療対象としていません。つまり、軟骨の変性や関節の変形なども全く問題にしません。本書では、圧通部位の特定(筆者の考えによる)によって発痛源を見定めて疼痛の因子を推測し、それぞれの病態に対する鍼治療法を解説しています。

第Ⅰ章は、膝痛とは何かをテーマとして、「変形性膝関節症の矛盾」、「膝を構成する組織」、「疼痛因子」、および「膝痛の原因となる関節外の要因」などを述べ、最後に、鍼灸師から観た、膝痛とは何かについて述べています。第Ⅱ章は、膝の臨床判断の方法を述べています。この章では、膝を4方面に分割し、圧痛点など、鍼治療の対象となる病態の診かたを示しています。第Ⅲ章は鍼治療の総論。第Ⅳ章は治療の各論を述べています。第Ⅴ章は、説明が不十分であった事項について、若干ですが説明しています。疾患の判断および治療法は医学に基づいてはいますが、その理念は筆者独自の考えに基づいています。

「はじめに」の抜粋

 本書は、筆者が「膝痛とは何か」について考えた過程を示すとともに、その結果導かれた、鍼灸師にとっての膝痛の診かたと治療法をまとめたものである。結論を言えば、外傷、腫瘍、感染症、骨性疾患、および全身性の炎症性疾患などを除くと、臨床におけるほとんどの膝痛の原因は、筋腱障害性(附着部障害・骨と筋腱の摩擦、筋と筋の摩擦など)、神経性、および局所的炎症の3種類に集約できる。さらに筆者は、この神経性(絞扼性神経障害他)および局所的炎症も、筋の病態が発症に関与しているものと推測している。臨床において、様々な筋関連痛や内臓の痛みなどの際に、四肢の特定の部位に圧痛を伴う索状の硬結が現れる。この硬結部位への鍼刺激によって症状が軽快することや、時に、この硬結部位が症状発現にも関与している可能性が考えられることから、この現象を“筋・筋膜性神経障害(Myofascial Neuronal Disorder ; MND)と提唱している(小川, 2015)。この診断と治療に使用できるポイントをトリガーポイントやモーターポイントと区別するために、本書においては“特異点:peculiar point ;PP”と仮称している。

 膝痛の特徴は、膝全体が腫脹するような急性炎症を除けば、発痛源の特定がほぼ可能であること。その手段として、触診による圧痛部位の特定が有効である。従来、整形外科学書では、十字靱帯損傷や半月板損傷の診察と外科手術に紙面の多くが費やされ、日常臨床で遭遇する膝痛に対しては、その発痛源や原因についてはほとんど触れられてはいなかった。いや、むしろ理解できていなかったと考えられる。膝蓋下脂肪体などはその良い例であり、以前の専門書では全く無視されていた。最近では、超音波検査機器の画像が向上して軟部組織の病変が次第に明らかとなってきたが、逆に、今頃この様な事に注目するのかとあきれることも多い。

・・・・・・・。

・・・・ 鍼灸師は医師のような検査ができないことや、治療手段にも制限がある。しかし一方、運動器疾患に対して、保存的治療において有効な手立てを持ち会わせていない医師とは違い、鍼治療は患部に対する直接的な処置が可能であり、しかも即効性を示すことも多い。さらに、これらの治療は単なる鎮痛ではなく、原因となっている病態の直接的な治療であって本治的であり、むしろ優れているとさえ言える。・・・・・。

Ⅰ-1. 変形性膝関節症の矛盾

・・・ 「ヒトが二足歩行を初めて以来、膝関節への負担によって膝痛は発生した」と、整形外科学書に記されていた(宗田,2007)。膝痛はヒトに固有のものであるかのような認識であるが、これは全くの間違いである。膝OAは、ベルベットモンキー、ヒヒ、アカゲザル、マカク、チンパンジー、およびゴリラを含む、非ヒト霊長類においても広く発症する(Stecher RM. 1958, Plate JF, 2013, Bates CM, 2013, Jurmain R.2000, Ham KD, 2000)。
・・・

治療法(総論)より抜粋

4.2 基本治療法の分類

・ 筋・筋膜性        : 筋PP
・ 絞扼性神経障害    : 絞扼ポイントへのEM, 関連する筋の筋PP 
・ 附着部障害       : 附着部へのEt鍼、関連する筋の筋PP 
・ 局所的炎症       : 炎症部位の中枢側の筋PP
・ 膝蓋下脂肪体の炎症 : 膝蓋下脂肪体鍼
・ 大腿神経の感作    : 拮抗筋刺(大腿二頭筋・半膜様筋)
・ 浮腫           : 浮腫に対するセット治療 

イラストのサンプル
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この本も、これまでと同様に市販はしておりませんが、希望される方には個人的に販売しております(初版日は11月5日としましたが、既に、私の手元に届いております。)。

           記

著書名   : 膝痛の鍼治療
サブタイトル: Acupuncture for Knee Pain 
発行所   : 虎の門針灸院
著者名   : 小川義裕
出版日   : 2020年11月5日
ISBN    : 978-9908155-3-0
本のサイズ : B5版112ページ(既刊著書からの抜粋を含む)
イラスト   : 34枚
価格     : 4,200円

注文方法  : 注文はメールにて受け付けております。

メールアドレス: dbqmw440@ybb.ne.jp

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アスピリン誘発レゾルビンD1は化学療法性神経障害性疼痛を抑制する [医学一般の話題]

アスピリン誘発レゾルビンD1(AT-RvD1)は、化学療法誘発性神経因性疼痛(CINP)のパクリタキセル(PCX)モデルラットにおけるWDRニューロンの機械的誘発反応を選択的に抑制した。WDRニューロンの機械的に誘発された応答に対するAT-RvD1の抑制効果は、脊髄モルヒネのものと同等とのこと。

魚油などに含まれるエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)などのn-3 系多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)には、以前より、心血管保護作用や抗炎症作用の報告が多数あったが、その作用は十分には解明されていなかった。最近になってEPAなどから代謝される生理活性物質の一つであるレゾルビンが同定され,その抗炎症作用が注目されている。

CINPは、抗腫瘍薬の一般的な副作用であり、パクリタキセル(PCX)は、治療後1〜6か月でCINPの推定有病率が70%と高く、癌治療の忍容性を制限している。PCXは、腫瘍細胞の増殖を阻害するチューブリン安定化因子ですが、軸索輸送を妨害することによって神経機能に悪影響をおよぼし、脱髄による神経障害を引き起こす。CINPのPCXモデルは、WDRニューロンの神経生理学的応答の顕著な変化と、脊髄後角の炎症誘発性シグナル伝達を駆動するGrin2b、およびサイトカインとケモカイン分子のmRNA発現の増加に関連している。PCXによって誘発されるCINPは、主に、機械的および低温刺激によるしびれ、火傷、異痛症などの感覚神経障害の症状を示す。

本研究結果は、レゾルビンシステムの活性化を介する、CINPの新しい治療法として期待される。

出典文献
Spinal neuronal excitability and neuroinflammation in a model of chemotherapeutic neuropathic pain: targeting the resolution pathways
Pongsatorn Meesawatsom, Gareth Hathway, Andrew Bennett, et al,
Journal of Neuroinflammation volume 17, Article number: 316 (2020)

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高齢者5年間の指導付き高強度トレーニングで死亡率減少せず [医学・医療への疑問]

高齢者に対する、指導者付の高強度トレーニングが死亡率を減少させると思い込んでの研究のようだが、期待は外れた。

ピーク時心拍数の約90%(HIIT、n =400)と、ピーク心拍数の約70%で中程度の強度連続トレーニング(MICT、n=387)を介入群、身体活動に関する国家ガイドライン(n=780;制御群)に従う高強度インターバルトレーニングの週2回のセッションを対照群として、5年間実施された無作為化無作為化比較試験の結果、有意差は認められなかった。

1567人の参加者(女性790人)の平均年齢は72.8歳(SD 2.1)。参加者の87.5%が健康であったと報告され、80%がベースラインで高い身体活動レベルが報告されている。

どうやら、元気な老人に、指導者が付いて強いトレーニングをやらせたらもっと元気になるだろうと考えたようだ。

若干の効果として、MICTとHIITを別々に分析し、対照群を基準に(観測死亡率4.7%)を用いた場合、HIIT後の絶対リスク低下率は1.7ポイント(ハザード比0.63、95%信頼区間0.33~1.20)、MICT後の絶対リスクは1.2ポイント(1.24、0.73~2.10)。HIITを基準群としてMICTと比較した場合、全ての原因死亡に対して絶対リスクは2.9ポイント(0.51,0.25~1.02)減少したとしている。

しかし、この研究の大きな問題点は、対照群の参加者も研究全体を通じて高レベルの活動を行い、多くはHIITと同等の運動を行ったこと、逆に、HIITグループの50%だけがHIITプロトコルを満たす厳格な基準に従ったこと、さらに、参加者が一般的高齢者に比べて健康で活動的であったことにより、選択バイアスが働いていること。

当初から、元気な老人を対象としていることや、3群間に分類したはずがないようが入り乱れている。結果に意味を感じられない。そもそも、研究として成り立つのだろうか。

出典文献
Effect of exercise training for five years on all cause mortality in older adults—the Generation 100 study: randomised controlled trial
Dorthe Stensvold, Hallgeir Viken, Sigurd L Steinshamn, et al,
BMJ 2020; 371 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m3485 (Published 07 October 2020)
Cite this as: BMJ 2020;371:m3485

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若い腰痛患者の30年後の椎間板変性と症状との関連性 [腰痛関連]

若い腰痛(LBP)患者の初期腰椎椎間板変性(DD)が30年後の変性変化、痛み、および障害の進行を予測するかを調べた研究の結果、それぞれのディスクの進行性変性変化は予測するが、痛み、障害、および臨床症状は予測しなかったと報告されている。

LBPを有する20歳の75人の兵士の腰椎をMRIによって検査。30年後被験者に連絡が取れた69人中35人が痛みと障害のアンケートを満たし、35人中26人について臨床的およびMRIによる再検討を行い、信号強度(SI)の減少およびその他の変性変化について評価した。SIの低下と疼痛/障害スコアの関連は、Kruskal-Wallis H testで分析。
(信号強度(SI)の減少は、椎間板の水分量の減少を示す)

腰椎椎間板の総数130中、SIの減少は23(18%)から92(71%)に増加(0.9 to 3.5 per subject during the follow-up)。DDの分布は、ベースライン時には、ほとんどがL4–L5およびL5–S1ディスクであったものが、下部4ディスク間でほぼ均等に変化。 ベースラインでSIがわずかに低下していたディスクは、健康なディスクと比較して、フォローアップ後大幅に低下(57%対11%、P <0.001)。 その他の退行性変化もこれらのディスクでより一般的。

但し、ベースラインでのDDの重症度は、現在の痛みや障害との有意な関連性は認められなかった。

つまり、椎間板の変化と腰痛には関連性は無いということ。

出典文献
Sääksjärvi, Simoa, Kerttula, Liisa, Luoma, Katariina, et al.
Disc Degeneration of Young Low Back Pain Patients
A Prospective 30-year Follow-up MRI Study
SPINE: October 1, 2020 - Volume 45 - Issue 19 - p 1341-1347
doi: 10.1097/BRS.0000000000003548

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HPVワクチンは男子全員に接種すべき [医学・医療への疑問]

集団ベースのコホート研究で、4価HPVワクチン接種が高悪性度の子宮頸癌リスクを大幅に減少させたと報告されている。スウェーデンの人口統計と健康登録を使用した、2006年から2017年の10歳から30歳までの1,672,983人の女性を対象とした研究。

感染経路が明白なのに、いつまで、この様な無益な研究を続けるのか。

女性同性愛者をのぞくすべての女性は、男性から子宮頸癌の原因となるHPV(ヒトパピロマーウイルス)をうつされる。本来、うつされる側の女子ではなく、うつす側の男子にこそ全員接種するのが道理というもの。男なら、女性を守るためにすべきこと。

現在、女子と男子の両方に子宮頸癌ワクチンを定期接種している国は20か国以上。

男性に接種することで、社会に循環するHPVの量を減らすことができる(集団効果)。

さらに男にとってもメリットがある。男子にも接種するもうひとつのメリットは、中咽頭癌、口腔癌、肛門癌、陰茎癌など、男性がなりやすいこれらの癌もHPVの感染がリスクとなっているから。

男子へのワクチン接種は、女性に無用な負担をかけず、自らにとっても一石二鳥となる。

出典文献
Jiayao Lei, Alexander Ploner, K. Miriam Elfström, et al,
HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer
N Engl J Med 2020; 383:1340-1348
DOI: 10.1056/NEJMoa1917338

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