断食は乳癌患者の放射線・化学療法の毒性作用から保護しつつ癌細胞を損失させる [医学一般の話題]

断食模倣食(FMD)が癌患者における化学療法の毒性から保護し、なおかつ、薬の効果を高めて癌細胞を脆弱化したと報告されている。

これまでに、短期的な断食は治療効果を高めつつ、腫瘍を持つマウスに対して化学療法による毒性作用から保護することが示されていた。

2014年2月から2018年1月にかけて、糖尿病のないHER2陰性ステージII/III乳癌患者131人の患者が無作為化された。除外された患者以外の129人の患者のうち、65人が化学療法の補助としてFMDを3日間受け、64人の患者が通常の食事を使用した。30人の患者がFEC-T化学療法と99のAC-Tを受けた。患者特性は、群間で等しく分布していた。

FMDを化学療法の補助として使用した患者は、FEC/ ACと協調してデキサメタゾンを処方されなかったにもかかわらず、非使用患者よりもグレードIII/IVの有害事象を経験しなかった。これは、FMDが化学療法の副作用の予防におけるデキサメタゾンの必要性を排除する可能性があることを示唆している。また、FMDを使用した患者では、放射線学的に完全または部分的な応答がより頻繁に起きた(OR 3.168、P = 0.039)。

Tリンパ球のDNA損傷は、通常の食事と化学療法を受けている患者と比較して、FMDを組み合わせた患者では少なく、FMDが化学療法によるDNA損傷の誘導からこれらの細胞を保護したことを示唆した。

さらに、プロトコルごとの分析により、FMRを使用している患者では、90〜100%の腫瘍細胞の損失を示すMiller&Payne 4/5の病理学的応答が発生する可能性が高いことが明らかになっている(OR 4.109、P = 0.016)。

広範な前臨床証拠では、短期的な断食および断食模倣食(FMD)が化学療法を含む多種多様なストレッサーの危険から健康な細胞を保護し、同時に癌細胞を化学療法および他の治療法に対してより脆弱にすることが示唆されていた。

基本的に、断食は、増殖状態から維持および修復状態に向かって健康な細胞のスイッチを引き起こす。対照的に、悪性細胞は、オンコタンパク質活性のためにこの保護状態に入ることができず、栄養不足の状態に適応することができないと考えられる。結果的に、断食は、癌細胞から栄養素、成長および他の増殖要因を奪い細胞死を増加させる(1,2)。

一方、癌細胞が毒素に対して保護される現象は、差動ストレス耐性(DSR)と呼ばれ、がん細胞のストレスに対する特異的な感作化は差動ストレス感作(DSS)(1,3.)と呼ばれる。

本研究は、恐らく、癌患者における化学療法の毒性および有効性に対するFMDの影響を評価する最初の無作為化対照研究である。この結果は、FMDがHER2陰性早期乳癌患者における放射線および病理学的腫瘍応答に対するネオアジュバント化学療法の効果を有意に増強することを示唆しており、癌治療における断食/FMDの利点のさらなる探求を奨励するものと言える。

出典文献
Fasting mimicking diet as an adjunct to neoadjuvant chemotherapy for breast cancer in the multicentre randomized phase 2 DIRECT trial
Stefanie de Groot, Rieneke T. Lugtenberg, Danielle Cohen, Marij J. P. Welters, et al.,
Nature Communications volume 11, Article number: 3083 (2020)

二次引用文献
1.
Lee, C. et al. Fasting cycles retard growth of tumors and sensitize a range of cancer cell types to chemotherapy. Sci. Transl. Med. 4, 124ra127 (2012).

2.
Raffaghello, L. et al. Starvation-dependent differential stress resistance protects normal but not cancer cells against high-dose chemotherapy. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 8215–8220 (2008).

3.
Thissen, J. P., Ketelslegers, J. M. & Underwood, L. E. Nutritional regulation of the insulin-like growth factors. Endocr. Rev. 15, 80–101 (1994).

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VDとオメガ3脂肪酸は膝痛に効果無し [膝OA]

25,871人の高齢米国成人を対象に行われた、ダブルブラインドコントロール試験の結果、膝痛に対して、ビタミンDおよび海洋オメガ3脂肪酸(n-3 FA)の投与群はプラシーボ群と差は無く、効果は認められなかった。

評価は、Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Index (WOMAC; 0‐100, 100 worst)による。膝痛を経験している1,398人の参加者が含まれ、平均年齢は67.7歳(66%が女性)。WOMAC疼痛は37 (SD 19)、平均フォローアップ期間は5.3年(SD 0.7)。

VDとオメガ3脂肪酸で膝OAが改善すると期待したのだろうか。今更、このような無意味な研究をする意図が理解できない。要約のみなので情報が少なく、投稿する程の内容も無いが、とりあえず、、。

出典文献
The Effects of Vitamin D and Marine Omega‐3 Fatty Acid Supplementation on Chronic Knee Pain in Older U.S. Adults: Results from a Randomized Trial
Lindsey A. MacFarlane, Nancy R. Cook, Eunjung Kim, I‐Min Lee, Maura D.
Arthritis & Rheumatolgy, First published: 25 June 2020 https://doi.org/10.1002/art.41416

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膝OAの発症要因および治療目標としての膝蓋下脂肪体 [膝OA]

変形性膝関節症(KOA)は、最も一般的な関節疾患であり、成人集団における痛みや障害の主な原因となっている。しかし、痛みを示す症候性OAの患者がいる一方で、関節損傷の放射線徴候を示しながら無症候性の者が存在する。最近は、膝蓋下脂肪体(IFP)がKOAにおける痛みの潜在的な原因として検討されている。新しい知見では、IFPおよび滑膜がKOAの病態および疼痛の機能的単位として作用する可能性を示唆している。

1904年、Hoffaは膝脂肪組織の炎症過形成と肥大を説明し、後にHoffa’s fat pad またはIFP (infrapatellar fat pad)として知られるようになった。膝関節の運動障害と膝関節の腫脹を伴う膝の痛みは関節炎の非存在下でも観察され、IFP障害またはホッファ病と呼ばれている。

IFPの炎症特性に関する最初の報告は2003年に遡る。Ushiyamaたちは、OA患者からのIFP破砕物がIL-6およびTNFαの検出可能なレベルを含むだけでなく、血管内皮成長因子および線維芽細胞増殖因子bFGFも含まれていることを示した。この報告は、IFPが膝関節のサイトカインやケモカインの供給源である可能性を示す最初のものである。

IFPは滑膜層および関節軟骨と密接に接触しており、KOA患者では、TNF-α、IL-1β、IL-6、リパーゼ、アディポネクチン、アディポカインなどの炎症因子を分泌してKOAの病理学的プロセスを促進する。

一方、膝OA患者のIFPは脂質メディエーターの供給源でもある。主な脂質は脂肪分解の過程で放出される脂肪酸である。脂肪酸は組織にとって重要なエネルギー源であるだけでなく、免疫調節作用を示す。パルミチン酸などの飽和脂肪酸の炎症促進効果に対し、不飽和脂肪酸は抗炎症効果を示す。疫学的研究では、飽和脂肪酸の消費は心血管疾患および2型糖尿病のより高い発生率に関連しているが、不飽和脂肪酸はこれらの疾患からの保護に関連付けられている。

IFPは、生理学的条件下またはKOAの初期段階においては、膝の負荷を軽減して関節を保護する。1100人のコミュニティ集団のコホート調査によれば、女性IFPの最大面積は、内側脛骨高原および大腿軟骨損傷の程度と、膝痛のWOMACスコアと否定的に相関したと報告されている(2014年、Pan ら)IFPの領域の1 cm2の増加ごとに、安静時の女性の膝の痛みのスコアは2.6年後に0.86ポイント減少した。IPFPは、少なくともKOAを有する女性の疼痛症状に関連しており、軟骨に対する保護効果を有する。

IFP由来脂肪調節メディエーターの脂質媒介リポキシ酸素A4レベルが健康な人でより高く、膝の軟骨分解を防ぐことができる。また、IFPにより分泌されるレプチンは、関節軟骨プロテオグリカンおよびII型コラーゲンの産生を促進し、インスリン様成長因子-1の合成を刺激して成長因子-βを形質転換し、軟骨細胞増殖を増強してKOAの病態から防御する。さらに、IFP由来間葉系幹細胞(MCS)は骨髄由来のMSCよりも軟骨化作用が大きく、OA患者の滑膜および軟骨細胞における炎症促進メディエーターの分泌を遮断することもできる。2015年の無作為化比較試験では、半月板損傷の動物モデルにおけるIFPとI型コラーゲン足場の混合移植は、単純なI型コラーゲン足場移植よりも修復が優れていることも示され、KOAの形成をある程度緩和できる。

また、バイオメカニカル負荷の異常がKOAの発生と開発において重要な役割を果たすため、IFPがショックを緩和する効果や、膝関節の安定性を高めてKOAの発生を防止する効果も考えられる。

この様に、膝蓋下脂肪体(IFP)はKOAにおける痛みの潜在的な原因として注目されていると同時に、治療における新たな戦略となる可能性が示唆される。未だ研究報告は少ないが、今後、さらに研究されるべき存在であると考えている。

追伸
但し、膝蓋下脂肪体(IFP)への施鍼は治療効果は高いが、大腿前部の腫脹が強い場合は禁忌。圧痛が局部に限定している場合にのみ適応となる。 

引用文献
Role of infrapatellar fat pad in pathological process of knee osteoarthritis: Future applications in treatment
Li-Feng Jiang, Jing-Hua Fang, and Li-Dong Wu
World J Clin Cases. 2019 Aug 26; 7(16): 2134–2142.
Published online 2019 Aug 26. doi: 10.12998/wjcc.v7.i16.2134

An emerging player in knee osteoarthritis: the infrapatellar fat pad
Andreea Ioan, Margreet Kloppenburg.
Arthritis Res Ther. 2013; 15(6): 225.
Published online 2013 Dec 24. doi: 10.1186/ar4422

Contribution of Infrapatellar Fat Pad and Synovial Membrane to Knee Osteoarthritis Pain
Elisa Belluzzi, Elena Stocco, Assunta Pozzuoli, Marnie Granzo, et al.,
Biomed Res Int. 2019; 2019: 6390182.
Published online 2019 Mar 31. doi: 10.1155/2019/6390182

Comparative advantages of infrapatellar fat pad: an emerging stem cell source for regenerative medicine
Yu Sun, Song Chen, Ming Pei.
Rheumatology (Oxford). 2018 Dec; 57(12): 2072–2086.
Published online 2018 Jan 24. doi: 10.1093/rheumatology/kex487

膝蓋下脂肪体の動態改善が膝前部痛に有効であった一症例
村上 智明, 原 賢治
第53回日本理学療法学術大会 抄録集
https://doi.org/10.14900/cjpt.46S1.H2-159_1

The Infrapatellar Fat Pad Is a Dynamic and Mobile Structure, Which Deforms During Knee Motion, and Has Proximal Extensions Which Wrap Around the Patella
Joanna M Stephen , Ran Sopher , Sebastian Tullie , Andrew A Amis, et al.,
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc
2018 Nov;26(11):3515-3524. doi: 10.1007/s00167-018-4943-1. Epub 2018 Apr 20

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