減量目的の胃バイパス手術後の抗肥満薬に注意 [薬とサプリメントの問題]

“Roux-en-Y gastric bypass (RYGB)”後の体重回復に対する、抗肥満薬(Am)のフェンテルミンとトピラメートの併用ないし単独使用が有効であったとする報告を見た(Obesity, First published: 22 May 2020)。

この文献の「Abstract」には、数値が全く記されていないので、この研究を紹介している、“MedPage Today May 27, 2020”の記事を見ると。ボストン大学医学部のNawfal Istfan, MD, PhDらは、3つの異なる統計モデルによって、抗肥満薬を服用している患者の累積体重回復率が約10%(P=0.012)減少したと報告している。

さらに、“the team's study online in Obesity”におけるオンライン研究によるCox回帰分析では、体重回復の可能性が27%低く(HR 0.73, 95% CI 0.56-0.96, P=0.023)、“binary logistic model”では、オッズ比は42%減少した (OR 0.58, 95% CI 0.37-0.88, P=0.01)。

RYGBや他のバリヤード手術の後ろ向き研究では、実質的な体重の回復と肥満関連の併存症の再出現が報告されている。また、700人以上の患者を含む研究では、50%が7年間のフォローアップで失った体重の少なくとも3分の1が戻ってしまった。

手術後の合併症への対処、別の手術への転換、矛盾した結果を伴う内視鏡療法、ライフスタイル管理弁護士の再導入など、肥満手術後の体重回復に対処するための選択肢は限られている。

この報告で主張されている、「薬理学的アプローチは、肥満/代謝手術後の不十分な体重減少、および体重回復を軽減するためのより安全で効果的な戦略を提供できる」、と述べられているが、それは本当だろうか。これまでの研究のほとんどが「後ろ向きの観察研究」に過ぎず、研究の質は低い。

フェンテルミンは化学的に置換アンフェタミン(amphetamine, alpha-methylphenethylamine)であり、間接型アドレナリン受容体刺激薬としてメタンフェタミンと同様の中枢興奮作用を持ち、心拍数と血圧を増加させて食欲を減少させる。

アンフェタミンのアメリカ合衆国における商品名はAdderallで、適応症は、注意欠陥多動性障害 (ADHD) のみである。強い中枢興奮作用と精神依存性、薬剤耐性があり、日本の覚醒剤取締法ではフェニルアミノプロパンの名で覚醒剤に指定されている。

フェンテルミンの一般的な副作用は、心拍数の増加、 高血圧、睡眠障害、めまい、重篤な副作用としては、肺高血圧症、弁膜症などが挙げられる。妊娠中や授乳中の使用は推奨されない。

エーザイ株式会社は2014年10月29日に、「肥満症治療剤lorcaserinとphentermineの併用投与の臨床試験結果について」と題して、米国アリーナ社(Arena Pharmaceuticals, Inc.)と共同で実施した試験結果を報告している。その報告には、12週間投与による安全性と忍容性を確認し、所期の目的を達成したと記されている。フェンテルミンは、 1959捻に米国で承認されている。しかし、2000年に英国の市場からは撤退している。

現時点で、有害な副作用のない抗肥満薬が存在するとは考えにくい。アンフェタミンと同様の性質であるならば、自ずと副作用は想像できるのであって、製薬会社の宣伝には注意が必要だ。

出典文献
The Mitigating Effect of Phentermine and Topiramate on Weight Regain After Roux‐en‐Y Gastric Bypass Surgery
Nawfal W. Istfan , Wendy A. Anderson , Donald T. Hess, Liqun Yu, Brian Carmine, Caroline M. Apovian
Obesity, First published: 22 May 2020| https://doi.org/10.1002/oby.22786|

Drugs Helped Stop Weight Regain After Gastric Bypass
— Half of patients in retrospective study regained a third of lost weight
by Jeff Minerd, Contributing Writer, MedPage Today May 27, 2020

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アルツハイマー病遺伝子はCOVID-19の高リスクに関連する [医学一般の話題]

英国バイオバンクのデータ分析から、アルツハイマー病の最も一般的な遺伝的危険因子であるAPOE4対立遺伝子の2つのコピーを持っている英国人は、COVID-19コロナウイルスの陽性反応のリスクが著しく高かく、2倍以上(OR 2.31, 95% CI 1.65-3.24, P=1.19 x 10-6)であったと報告されている(reported David Melzer, MBBCh, PhD, of the University of Exeter in England, and colleagues.)。

ほとんどの人は、アルツハイマー病のリスクに中立である2つのAPOE3対立遺伝子を持っている。ヨーロッパの祖先の人々において、APOE4の2つのコピーを持つ人は、APOE3の2つのコピーを持つ人々よりもアルツハイマー病を発症する可能性がほぼ15倍高い。

COVID-19の検査を受けたのは、APOE3ホモ接合体(401)と APOE4ホモ接合体(37)。

高血圧症(OR 2.41、95%CI 1.56-3.74)、冠状動脈性心臓病(OR 2.43、95%CI 1.69-3.50)、および2型糖尿病(OR 2.51)の患者を除外した後も、COVID-19陽性リスクは依然として高かった(95%CI 1.77-3.55)。

研究には限界があるものの、調査結果は重要である。APOE4がアルツハイマー病のリスクを高める理由に関する最近の研究では、APOE4が免疫系に関与していることを示している。

フランスやイタリアなど、ヨーロッパの人々におけるCOVID-19感染症の致死率の高さは生活習慣の違いなどだけでは説明できず、生物学的要因が隠されていると予想される。APOE4とCOVID-19の関連性は興味深い知見と言える。

出典文献
Is Alzheimer's Gene Tied to Higher COVID Risk?
— U.K. Biobank data assesses coronavirus test data by genotype
by Judy George, Senior Staff Writer, MedPage Today May 26, 2020

Primary Source
APOE e4 genotype predicts severe COVID-19 in the U.K. Biobank community cohort
Kuo C-L, et al.
Journal of Gerontology: Medical Sciences 2020; DOI: 10.1093/gerona/glaa131.

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「絞扼性神経障害の鍼治療」および「附着部障害の鍼治療」を購入された方へ [掲示板]

          
「絞扼性神経障害の鍼治療」、および「附着部障害の鍼治療」の中の記述について、「刺法」の一部変更をお知らせいたします。

これらの書籍はオンデマンド印刷にて随時増刷しておりますが、その際に、ミスプリントや変更したい箇所など、部分的な修正を行っています。

この度増刷する、「絞扼性神経障害の鍼治療」、および近い将来に増刷予定の「附着部障害の鍼治療」の内容を若干ですが変更しております。変更はわずかですが、基本的刺法ですので、以前に購読された方のためにお伝えします。

「治療法の総論」の中で、筋の緊張緩和への刺法としては「散鍼」を原則とすると記していますが、現時点では寧ろ留鍼し、途中で何度か「搓捻」、および「堤・插」操作を加えています。この刺激は、附着部障害における附着部(enthesis)へのEt鍼、および絞扼性神経障害の鍼治療における絞扼点(entrapment point)に対する、“emancipation method”においても共通点があります。尚、これらの刺法によって、現在までに局所の炎症が悪化したことはありません。      

出版後も多くの知見が報告されており、新たな情報や疾患の追加など、何れ、改訂版の出版も必要になろうかと思われます。また、その他の疾患についてもまとめたいと考えています。しかしながら、一開業鍼灸師にとりましては、未解決の問題も実験的検証は行えず、臨床に頼るしかないため、実現できるかは未定です。 
               
尚、「釈迦に説法」になってしまうかも知れませんが、念のため、前述した、「搓捻」と「堤插」についてご存じ無い方のために簡単に説明いたします。

「搓捻」とは、要するに、留鍼中に鍼を回転させて刺激することです。「搓」は、180°以上の回転を強く加え、「捻」は、45°以内の回転を弱めに加える。これらの手技によってコラーゲン線維の一部を切断することで線維束の異常を回復させる。同時に、回転刺激によって「得気:deqi sensation」を生じさせることを重視しています。

経穴領域におけるコラーゲン線維の形態変化(巻き付きなどの異常)が経穴の構造、および病態に関与し、また、その解除が鍼治療の機序に大きく関与していると報告されています。経穴領域において、例えて言えば、絡み合ったコラーゲン線維の一部を切除して解除することでコラーゲン線維を正常化して病態を改善すると推測されます。

「堤插」の「插」は、鍼を中に進めることで、「堤」とは鍼を外に退くことを意味し、鍼尖を上下に1分程度の範囲で動かす操作。

双方向性の回転刺激の微妙な違いは、マウスの皮下結合組織の細胞応答に影響するようです。また、“堤插操作:Lifting and Thrusting Manipulation”を伴う鍼治療は、操作無しの治療と比べ、エンドトキシンの注射によって誘発された血清IL-1β、TNF-αおよびIL-6のレベル増加を有意に阻害し、抗炎症性サイトカインであるIL-4を上昇させたとも報告されています。

私は、コラーゲン線維への操作とは別に、神経に対する、ダメージを与えない程度の回転刺激は神経機能の回復に寄与するものと推測しています。これらの刺激法の組み合わせは、神経機能の促進や、異常なコラーゲン線維の正常化を促す効果が期待されると考えています。

尚、「絞扼性神経障害の鍼治療」の増刷は、10日ほどで完了します。

追伸
本書は、5月28日に到着しました。
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COVID-19肺炎患者にヒドロキシクロロキンの効果は認められなかった [薬とサプリメントの問題]

covid-19による肺炎で入院し、酸素を必要とする患者に対するヒドロキシクロロキンの有効性を調査した研究では効果は認められなかった。

対象患者は合計181人。入院後48時間以内にヒドロキシクロロキンを投与された患者84人(治療群)と、非投与(対照群)の89人を比較。治療後21日目に集中治療室に移送されない生存率は、治療群で76%、対照群で75%(weighted hazard ratio 0.9, 95% confidence interval 0.4 to 2.1)。

21日目の全生存期間は、治療群で89%、対照群で91%(1.2, 0.4 to 3.3)。21日目の急性呼吸窮迫症候群のない生存率は、対照群の74%と比較して治療群で69%(1.3, 0.7 to 2.6)。

21日目に、対照群の76%と比較して、治療群の患者の82%が酸素から離脱した(weighted risk ratio 1.1, 95% confidence interval 0.9 to 1.3)。

最初の48時間以内に、ヒドロキシクロロキンを投与された84人の患者のうち、8人(10%)が心電図の変化によって中止された。

ヒドロキシクロロキン(Hydroxychlorquine, HCQ, 商品名;プラケニル)は抗マラリア薬であるが、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚エリテマトーデス、関節リウマチ、小児リウマチ、および、その他の膠原病にも用いられている。しかし、自己免疫疾患に対する効果の機序は不明であり、QT延長、失神、心停止、突然死といった、重篤な副作用の報告が増加している。前述した調査でも、1割が心機能への副作用で中止となっている。

ヒドロキシクロロキンは、小規模な研究による肯定的な報告もあったことから、一部ではcovid-19の治療薬として注目されていた。しかし、この研究の結果、酸素を必要とするcovid-19の入院患者への効果は無く、使用は推奨されない。

トランプ大統領はこの薬を感染予防として飲んだとか。そもそも、この薬剤の使用目的は、重症化した患者の病態である免疫の暴走、すなわち「サイトカインストーム」を抑制しようとするものである。感染者ですらない健康な人間が感染予防を目的として服用するなどあり得ない行為。何故、周囲が止めなかったのだろうか。しかし、医師の話しでは、彼は元気なようだが、、、。

出典文献
Clinical efficacy of hydroxychloroquine in patients with covid-19 pneumonia who require oxygen: observational comparative study using routine care data
Matthieu Mahévas, Viet-Thi Tran, Mathilde Roumier, Amélie Chabrol, et al.,
BMJ 2020; 369 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m1844 (Published 14 May 2020)
Cite this as: BMJ 2020;369:m1844

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COVID-19患者の非侵襲的換気における腹臥位の有効性 [医学一般の話題]

侵襲的人工換気中の腹臥位は、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)患者の大規模無作為化臨床試験(RCT)で酸素化を改善したと報告されている。COVID-19の患者において、ICU外での自発的かつ補助呼吸の間における腹臥位のポジショニングは、下肺領域を回復させて気道分泌物を排出し、ARDSにおけるガス交換および生存率を改善することが報告されている。研究には限界があるものの、興味深い内容が示されている。

新型コロナウイルス疾患(COVID-19)の患者のかなりの割合が、重度の呼吸不全であるARDSを発症し、人工呼吸器を必要とする。ARDSに対する人工呼吸器管理は、ガス交換を改善して呼吸仕事量を軽減させる最も重要な治療手段である。しかし、人工呼吸器管理は治療において必要不可欠である一方、それ自体が肺傷害を悪化させて死亡率を増加させる一因になることが示されている。

肺保護換気をさらに促進させるため、人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存するかどうか長年議論されてきた。人工呼吸器管理中の自発呼吸の役割は、酸素化能の改善、ICU滞在日数および挿管日数の減少など、その有用性が報告されてきた。しかし、その一方で、severe ARDS患者に対する早期の筋弛緩によるfull supportが予後を改善したとする、従来の研究結果に反する結果が報告された。さらに、人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存した場合にはstressとstrainを制限できないことが明らかになってきた。

自発的または補助的な侵襲的および非侵襲的換気(NIV)中の、中等度および重度のARDS患者における活発な呼吸努力は肺損傷を悪化させ、患者の自傷肺傷害(P-SILI)をもたらす可能性がある。強い呼吸努力は、過度の肺ストレスおよび緊張を引き起こす胸膜圧の大きな負の揺れをもたらし、陰性の経槽圧による肺浮腫の増加につながる。依存領域における無気肺のために横隔膜収縮によって発生する力は、主に横隔膜の筋肉部分に近い領域に局在して肺内に圧力勾配を生成し、非依存領域から依存領域へのガスの変位を伴う。ペンデルルフトと呼ばれるこの現象は、局所的な肺ストレスと緊張を増加させる。

また、COVID-19のパンデミックは、呼吸支援を必要とする多数の患者によって集中治療室(IUS)を過負荷にする恐れがある(現時点では、欧州においても終息しつつあるが)。一般病棟での非侵襲的換気(NIV)の使用は、一部の患者にとって代替手段であるがあまり行われていない。

JAMA. (Elharrar et al, Published online May 15)では、急性低酸素呼吸不全患者の24人中、腹臥位を許容した15人のうちの6人は、Pao2がベースラインから20%以上増加した(74 [SD16] to 95 [28] mm Hg; P = .006)。しかし、3人の患者が、背臥位後にベースラインPao2に戻った。

侵襲的人工換気中の腹臥位は、ARDS患者の大規模無作為化臨床試験(RCT)で酸素化を改善したが、短期間の腹臥位では生存率の改善とは関連しなかった。中等度および重度のARDS(Pao2:Fio2 <150)の患者466人を含むRCTでは、保護的人工呼吸器を使用し、1日あたり少なくとも16時間の腹臥位では、90日間の死亡率が減少した。また、以前の16の小規模なケースシリーズで、鼻カニューレを介する高流量の非侵襲的換気(NIV)中に、腹臥位に置かれた覚醒患者の酸素化の改善が示されている。

背側肺領域では肺血管の密度が高いため、腹臥位での換気分布の変化(すなわち、背側の非依存領域での換気の相対的な増加)により、V̇/Q̇マッチングと酸素化が改善される。

急性低酸素呼吸不全患者の自発的補助呼吸における腹臥位は、近い将来、治療介入になる可能性がある。しかし、腹臥位が挿管を防ぐことができるかは不明であり、腹臥位の間の酸素の改善は、臨床医が低酸素血症のみに基づいて挿管に関する決定を下すことを妨げる可能性がある。結果的に、挿管の遅れを避けるために呼吸の臨床評価が不可欠。

この腹臥位における酸素化の改善は、喘息などの鍼治療におけるポジショニングを考える上でも、何らかの応用ができるのではないかと考え、参考までにまとめてみました。

追伸
その後、別の実験では効果が認められず、研究は中止されました。この文献については、「Covid-19による中等度低酸素血症患者対する腹臥位は効果がない; 2022.3.26.」2022.3.26.のタイトルで投稿しています。

引用文献
Is the Prone Position Helpful During Spontaneous Breathing in Patients With COVID-19?
Irene Telias, Bhushan H. Katira, Laurent Brochard,
JAMA. Published online May 15, 2020. doi:10.1001/jama.2020.8539

Respiratory Parameters in Patients With COVID-19 After Using Noninvasive Ventilation in the Prone Position Outside the Intensive Care Unit
Chiara Sartini, Moreno Tresoldi, Paolo Scarpellini, et al
JAMA. Published online May 15, 2020. doi:10.1001/jama.2020.7861

Use of Prone Positioning in Nonintubated Patients With COVID-19 and Hypoxemic Acute Respiratory Failure
Xavier Elharrar, Youssef Trigui, Anne-Marie Dols, et al
JAMA. Published online May 15, 2020. doi:10.1001/jama.2020.8255

Gravity is a minor determinant of pulmonary blood flow distribution.
Glenny RW , Lamm WJE , Albert RK , Robertson HT . 
J Appl Physiol (1985). 1991;71(2):620-629. doi:10.1152/jappl.1991.71.2.620 PubMed

An updated study-level meta-analysis of randomised controlled trials on proning in ARDS and acute lung injury.
Abroug F, Ouanes-Besbes L, Dachraoui F, Ouanes I, Brochard L.
Crit Care. 2011;15(1):R6. doi:10.1186/cc9403 PubMed

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一酸化窒素とBCG免疫療法が新型コロナ感染症の救世主となる可能性 [薬とサプリメントの問題]

一酸化窒素ガスの吸入とBCG免疫療法が新型コロナウイルスに効果的であることが示唆されている。

2003年のSARSの流行の際、一酸化窒素の吸入は肺酸素化を改善して換気サポートを短縮した。肺機能の改善とは別に、一酸化窒素は直接的な抗ウイルス活性だけでなく、S-タンパク質-ACE-2相互作用を妨害するウイルスプロテアーゼのシステインのニトロイル化を含む標的を示した。COVID-19感染患者に提供される吸入一酸化窒素は、肺血管拡張効果と直接的抗ウイルス効果の両方を通じて救命的であることが証明される可能性が高い。

一方、BCGは単なるワクチンではなく、非特異的免疫に対する免疫刺激剤である。BCGは弱体化した生菌であるカルメット・ゲリン菌(Bacille Calmette-Guérin)であり、自然免疫系の原始的先天的な能力を賦活させる。この菌は、ハンセン病や結核(TB)を引き起こす病理性抗酸菌の遠い親戚である。結核に対するワクチンとして100年以上管理されており、毎年1億人の新生児がBCGの予防接種を受けている。

最も顕著なのは、BCGが結核への影響とは無関係に乳児死亡率を減少させることである。また、BCG政策を持つ国では、非接種国と比較して、COVID-19に起因する死亡率が著しく低かったと言われている。

これまでの研究では、BCGの予防接種を受けた小児の死亡率が50%近く減少したと報告されており、結核に対する保護だけでは説明できない効果が存在する。また、1990年代以来、BCGは、接種後数日以内に膀胱内の細胞を免疫刺激し、膀胱癌細胞を標的とする非特異的免疫応答を刺激することによって膀胱癌再発のリスクを軽減する、FDAが承認した最初の免疫療法であった。

膀胱癌患者の約70%はBCG免疫療法後に寛解に入る。BCGの能力に基づいて、小児の気道感染症の発生率を低下させ、リーシュマニア・メジャー、フランシゼラ・トゥラレンシス、およびプラズモジウム種などの多様な細胞内微生物に対して抗菌効果を発揮し、ウイルス感染の実験ヒトモデルにおけるウイルス血症を減少させることにより、BCGはSARS-CoV-2に対する予防薬として同様に有効であることが証明される可能性がある。

さらに、外因性吸入一酸化窒素ガスとBCG免疫療法で高められた内因性一酸化窒素が治療および予防として有効であると仮定すると、食事療法は肺内の一酸化窒素レベルの上昇にも同様に有効である可能性がある。

出典
Nitric Oxide, BCG, and COVID-19's Weakness
— Clinical trials might reveal a common link-
by Shawn J. Green PhD
Medical News and Free CME Online May 10, 2020

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レムデシビル:拙速な特例承認の狂気 [薬とサプリメントの問題]

米製薬会社のギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱治療のための治療薬として開発したレムデシビルが、新型コロナの治療薬として、今月7日に申請からわずか3日という異例の早さで特例承認された。

同社は、全世界で約14万人分(患者1人に10日間投与する場合)を無償で供給する方針を表明しており、厚労省は重症者向けに優先的に分配する方針とのこと。

これで世間では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬が登場したと誤解して過大な期待を抱くことだろう。しかしその効果とは、ランセットの報告を見てもたかだか回復までの期間が4日短縮された程度で、死亡率を減少させる効果は無かった(統計的有意差は認められていない)。この4日の短縮が統計的に有意とは言え、実際には臨床的な価値はほとんど無いに等しい。

但し、感染の初期段階で投与すれば一定の効果は期待できる可能性はあるが、このことが十分には調査されていない。日本政府の重症者優先の方針はそもそも間違いである。

しかしながら、この理由を説明したところで一般の人には伝わらない。医療機関の多くが、この薬の効果の実際を全く理解していない人たちによる問い合わせが殺到することで、混乱するだろう。安倍首相は、国民の命を守るのではなく、「狂気」と「混乱」を招くことになるだろう。

説明が難しく、正しければ正しい程人は聞かない。人々は、理解するのに精神的努力の最も少ない情報だけを断片的に受け入れ、それを勝手な解釈によって創作する。その結果、情報は大きくゆがめられてしまう。これを意図的に利用するのが、かつての小泉首相が行ったような「衆愚政治」。一般紙には、「新型コロナに有望薬」などといった見出しが踊っている。一般読者は、「新型コロナに効く薬がようやくできた」と誤解することだろう。

しかし、新型コロナに限らず、ウイルスを直接たたけるような薬が登場したことはただの一度もなかったし、近い将来にも開発はできないだろう。

米国食品医薬品局(FDA)は世界に先駆けて使用許可を認めたとは言え、これは緊急時の特例であって正式承認までの暫定措置である。レムデシビルの正式な製造販売承認は日本が世界初となる。死亡者が圧倒的に多いアメリカならいざ知らず、既に、感染は終息しようとしている日本において、何故このように焦って承認するのか全く理解できない。これは、次に承認を控えているアビガンとて同じ事だ。薬によるわずかな効用(怪しい)よりも、むしろ、重篤な副作用で死亡する患者の方が多くなる可能性が懸念される。

新型コロナ感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV2はRNAウイルスであり、RNAポリメラーゼ酵素に依存してRNA鎖を増殖させる。レムデシビルはこのRNAポリメラーゼ酵素に似た(一カ所の分子を変えている)構造をしているため、これを取り込んだウイルスは増殖できなくなる。これが、前述した、「初期の段階ならば有効性も期待できる」と述べた理由である。

重症化したその病態の本体は、ウイルスそのものによるものではなく、自身の免疫の暴走によって起きた全身の炎症である「サイトカインストーム」。この段階の治療は、ステロイドの大量投与、免疫抑制剤、および血漿交換などである。しかし、現実には、ほとんどの患者が回復しない。

さらに、問題なのは副作用。最後のエボラ出血熱の流行期間に行われた、レムデシビル(RDV)の無作為化対照試験は1回のみで、しかも、患者の死亡率が有意に増加したため研究終了を待たずに中止された。つまり、エボラ出血熱患者の助けにならなかった薬だということ。次に認可される予定の、我が国発の「アビガン」も同様だ。新型インフル用に開発されて認可されたものの、死亡例が多く出たため使用できず、そのままお蔵入りしていた薬である。

ファイナンシャルタイムが報じた、STATによる研究要約では、レムデシビルは臨床的またはウイルス学的利益に関連付けられていないと結論ずけている。

レムデシビルで治療を受けた158人の患者の14%が治療の28日後に死亡したのに対し、プラシーボでは79人の13%であった。また、中国の研究者では、プラシーボの4人に対して18人の患者が副作用のために投与が中止された。現在、フェーズⅢの臨床試験の途中であり、この結果を見てから承認の是非を検討すべきだった。

追伸
政府はアビガンの5月中の承認を断念した(5月25日)。その理由は、現段階で有効性を示すデータが存在しないこと。しかしながら、今後、少しでも有効性が示されたならば、直ちに承認する予定とのこと。先ず、承認ありきで事が進められている。「特効薬を政府が用意したぞ」と、見栄を張りたいのであろうか。大して効果の無い薬を、またもや特例承認する狂気。

参照
Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial
Yeming Wang, Dingyu Zhang, Prof Guanhua Du, Prof Ronghui Du, Prof Jianping Zhao, et al.,
The Lancet,
Published:April 29, 2020•DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31022-9

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脂肪および炭水化物の摂取と心血管疾患および死亡率との関連 [栄養の話題]

食餌に関する様々な研究は報告によって結果に違いが見られ、解釈に混乱を来している。この原因として、主要栄養素と健康との関連性を、消費量の広範囲にわたって線形と見なしていることが考えられる。実際は、他の生命現象と同様に、主要栄養素の摂取量と健康上の結果の多くは非線形の関係となる。

また、その関係性が他の栄養素の摂取量のレベルと総エネルギー消費量に関係なく有効であるとする先入観によって齟齬が生じる。食餌のアドバイスは、それぞれの成分、例えば、炭水化物に関するガイドラインでは、その成分である砂糖とデンプンの違いやそれぞれの摂取量を考慮する必要がある。

本研究の対象者は、英国バイオバンクの502,536名の参加者のうち、不可解なエネルギー摂取量または食餌摂取のために除外された15,365名を除く195,658名。参加者は、少なくとも1つの食餌アンケートを完了した。食餌は、ウェブベースの24時間リコールアンケートであるオックスフォードWebQを使用して評価され、栄養素摂取量は標準的な方法論を使用して推定。非線形の関連性は“Cubic Spline Analysis;3次スプライン解析”を使用したCox比例モデルによって解析している。

4780名(2.4%)が平均10.6年(範囲9.4-13.9)のフォローアップ期間中に死亡し、948名(0.5%)が致命的なCVDイベント、9776名(5.0%)が非致命的なCVDイベントを、平均9.7年間(8.5-13.0)に発症した。

全原因死亡率が最も低い食餌は、高線維(10〜30 g/日)、タンパク質(14〜30%)、一価不飽和脂肪酸(MUFA;10-25%)、および中程度の多価不飽和脂肪酸(PUFA;5% から <7%)とデンプン(20%から<30%)の摂取で構成されたものであった。

高タンパク質の食餌(≥14%)とデンプン(≥30%)、低線維(<10 g/日)、MUFA(<10%)、PUFA(<5%)は死亡率リスクが70%高い。より高い線維摂取量(≥10 g/日)は、より低いリスクに対応した。尚、同様の低レベルのリスクは、デンプンの摂取量を総エネルギーの30%から20%に減らし、MUFA(総エネルギー摂取量の最大10〜25%)またはPUFA(総エネルギー摂取量の最大5%から7%)に置き換えることで達成できる。

炭水化物の摂取量は死亡率と非線形の関連を示し、総エネルギー摂取量の20〜50%では関連せず、50〜70%で関連性が見られた(3.14 v 2.75 per 1000 person years, average hazard ratio 1.14, 95% confidence interval 1.03 to 1.28 (60-70% v 50% of energy))。この知見は、線維、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、およびタンパク質の摂取と心血管疾患(CVD)発症に類似していた。

MUFAの高摂取量 (2.94 v 3.50 per 1000 person years, average hazard ratio 0.58, 0.51 to 0.66 (20-25% v 5% of energy))と、PUFAの低摂取量(2.66 v 3.04 per 1000 person years, 0.78, 0.75 to 0.81 (5-7% v 12% of energy))、および飽和脂肪酸(SFA)(2.66 v 3.59 per 1000 person years, 0.67, 0.62 to 0.73 (5-10% v 20% of energy))が、死亡リスクの低下に関連していた。

総脂肪摂取量は、全原因死亡率と関連しなかった。残りのすべての主要栄養素は、MUFA、PUFA、およびSFAを除いて死亡率と非線形関係を有していた。

より高い糖摂取量とSFA摂取量が高いほど、全原因死亡およびCVD発症の高リスクと関連する。これら2つの成分の等カロリー置換が検討され、エネルギー摂取量が一定のままで、砂糖を、デンプンからのエネルギーの最大30%、MUFAからの25%、タンパク質からの20%に置換すると、全原因死亡およびCVD発症リスクが低下した。

MUFAとの関連は直線的であったのに対し、タンパク質とCVDの関係はJ字型を示した。PUFAに糖を置き換えた場合、PUFAがエネルギーの6〜7%を超えたときに死亡率とCVDのリスクは増加した。糖をSFAに置き換えてエネルギーの10%を超えると死亡リスクは高くなり、CVDリスクは低下した。

本研究では、炭水化物(糖、デンプン、線維を含む)とタンパク質の摂取は、全原因死亡率と非線形に関連しており、この知見は線維、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、および心血管疾患(CVD)の発症を有する場合のタンパク質摂取に類似していた。対照的に、SFA、MUFA、およびPUFAの摂取は、全原因死亡率と直線的に関連していた。さらに、砂糖の摂取量をデンプン、MUFA、またはタンパク質に置き換えると、デンプン、MUFA、およびタンパク質の現在の摂取量が少ないときに、全原因死亡率およびCVD発症リスクを低下させる。同様に、SFAをMUFAまたはタンパク質に置き換えることは、総死亡率およびCVDの両方のリスク低下に関連した。

これらの知見は、栄養素摂取量と健康結果との間の複雑で多様な関連性を強調している。以前の研究では、一般的に健康結果と単一の主要栄養素の線形関係を報告している。.本研究では、非線形関係を調べ、観測された関連性に影響を与える可能性のある他の主要栄養素の摂取に関する分析を調整し、主要栄養素と健康結果の非線形および線形関連に基づいて等量カロリー置換を実施した。

尚、非線形関係は、グラフによって一目瞭然なので、興味のある方は原著を参照していただきたい。

出典文献
Associations of fat and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality: prospective cohort study of UK Biobank participants
Frederick K Ho, Stuart R Gray, Paul Welsh, et al.,
BMJ 2020; 368 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m688 (Published 18 March 2020)
Cite this as: BMJ 2020;368:m688

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