ニューヨーク市地域のCOVID-19入院患者の報告から [医学一般の話題]

既に、新聞等でも報じられている、「Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area, JAMA; April 22, 2020」なので、周知のことと思われるが、私なりに、気になった点を述べたい。

ノースウェルヘルスシステム内のニューヨーク市、ロングアイランド、ニューヨーク州ウェストチェスター郡の12の病院に入院した、合計5700人(中央値年齢、63歳[四分位範囲{IQR}、52-75;範囲、0-107年];39.7%の女性)の患者についての報告。期間は、2020年3月1日から2020年4月4日まで。

最も一般的な併存疾患は、高血圧(3026 ; 56.6%)、肥満(1737 ; 41.7%)、糖尿病(1808 ; 33.8%)であった。死傷者分類では、患者の30.7%が熱性(37℃<)、17.3%が24呼吸/分を超える呼吸数、27.8%が酸素吸入を受けた。呼吸器ウイルスの共感染率は2.1%。

入院した患者でさえ発熱は3割程度であり、このデータから言えることは、空港などで入国者の体温を計測していたがその効果はなかったと言える。

本報告では、研究の終点で退院または死亡した2634人の患者についてを評価。入院中、373人(14.2%) (median age, 68 years [IQR, 56-78]; 33.5% female) は集中治療室で治療を受け、320人(12.2%)が侵襲性機械的換気(人工呼吸器)を受け、81人 が(3.2%)腎臓補充療法を受け、553人(21%)が死亡。

人工呼吸器を装着した患者の死亡率は88.1%(282人)。その内、18~65歳までの死亡率は76.4%、65歳以上では97.2%。一方、人工呼吸器の装着に至らなかった患者の死亡率は、18~65歳19.8%、65歳以上26.6%。18歳未満の年齢層では死亡者は0人。

65歳以上では人工呼吸器の装着者はほぼ全員が死亡し、65歳以下でも8割近くが死亡する。批判覚悟で言えば、酷なようだが、この調査結果を見る限り器械による酸素化は対象療法にすぎず、Cobid-19における両肺におよぶ肺胞の炎症を鎮静できなければ、根本的な治療にはならない。さらに、直接血液中に酸素を送るECMO(extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)の増産を、政府は指示したようだが、この装置も一時しのぎに過ぎないし、この器械を操作するためのマンパワーはそう簡単に確保できることではないだろう。

入院期間は4.1日(IQR、2.3-6.8)。退院後の追跡期間の中央値は4.4日(IQR、2.2-9.3)。合計45人の患者(2.2%)が研究期間中に再入院。再入院期間の中央値は3日間(IQR、1.0-4.5)。

この研究では、明確な転帰(退院または死亡)のある患者についてのみ死亡率が報告されている。それは、感染は様々な集団のセグメントで起きており、死亡率も変化する可能性があるため。

退院、および試験終了までに死亡した2634人の患者のうち、2411人(92%)の在宅薬調整情報が利用可能だった。 これら2411人の患者のうち、189人(7.8%)が自宅でアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEi)を服用しており、267人(11.1%)が自宅でアンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)を服用していた。在宅薬の総数の中央値は3(IQR、0-7)。

自宅でACEiを服用している患者のうち、91人(48.1%)が入院中もACEiの服用を継続し、残りは来院後にこのタイプの薬剤を中止した。

自宅でARBを服用していた患者のうち、136人(50.1%)は入院後もARBの服用を継続し、残りは来院中にこの種の薬物の服用を中止した。 自宅でACEiまたはARBを処方されなかった患者のうち、49人が入院中にACEiによる治療を開始し、58人がARBによる治療を開始した。

ACEiまたはARBを服用していない高血圧患者の死亡率は26.7%、ACEiを服用している患者は32.7%、およびARBを服用している高血圧患者の死亡率は30.6%%であった。

ACEiおよびARB薬は、心臓アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のmRNA発現を有意に増加させることができるため、これらの薬物による治療への悪影響が推測され議論になっていた。それは、これらの薬物がすべての降圧薬の中で最も多く処方されているためである。

この報告においても、重要な懸念事項であると述べられている。これに対し、米国心臓協会(AHA)、米国心不全学会(HFSA)、米国心臓病学会(ACC)の3学会は、3月17日、「ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の服用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の重症化要因にはならない」とする共同声明を発表している。COVID-19重症化とこれらの降圧薬の使用をめぐる議論を受け、今回の声明の発表に至ったとしている。しかし、直ちには信用できない。これらの薬の利権は大きいだろうから。と、猜疑心が強いせいか、つい疑ってしまう。

出典文献
Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area
Safiya Richardson, Jamie S. Hirsch, Mangala Narasimhan, et al.,
JAMA. Published online April 22, 2020. doi:10.1001/jama.2020.6775

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骨髄浮腫はコラーゲン誘発関節炎の滑膜炎に先行する [免疫・炎症]

骨髄浮腫(BME)、滑膜炎、およびコラーゲン侵食の縦方向の関係を、コラーゲン誘発関節炎マウス(CIA)モデルを使用して骨侵食におけるBMEの役割を調査した結果、BMEはCIA発症中の関節炎症状や滑膜炎に先行すると報告されている。

破骨細胞(OC)、OC関連サイトカイン、および骨髄の免疫細胞の発現は、フローサイトメトリー、免疫組織化学、免疫蛍光染色、およびリアルタイムPCRによって決定し、 OCsの形成はin vitroアッセイを使用して推定。

MRIが検出したBMEは、関節炎および滑膜炎がない状態で、最初の免疫後25日目に70%のマウスに出現(n = 10)。28日目には、BMEは90%のマウスで発生し、関節炎の症状と組織学的滑膜炎は、その時点で30および20%のCIAマウスでのみ発生した(n = 10)。

BMEの出現は、骨髄OC数の増加と軟骨下骨表面に付着したOCの分布の変化に関連し、その結果、CIAプロセス中に軟骨下侵食が増加して海綿骨数が減少した。

BMEの出現後に明らかな骨髄環境の変化が確認され、高度に発現したRANKL、炎症性サイトカインとケモカインの増加、高度に活性化されたT細胞と単球などの複数のOC関連シグナルで構成された。

骨浸食は、関節リウマチ(RA)の機能悪化に関連する中心的な病原性事象。滑膜炎は、骨浸食の主要なトリガーと見なされ、線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)は、このプロセスで中心的な役割を果たしている。通常のFLSと比較して、RA-FLSは独特の侵襲的な特性を有している。これらの細胞は過剰に増殖し、細胞外マトリックスを分解する炎症性サイトカイン、ケモカイン、およびプロテアーゼを産生して軟骨および骨に侵入すると考えられている。

しかし、この滑膜炎中心の概念は、RA患者のMRIにおける骨髄浮腫(BME)の発見に基づく骨中心の概念によって変更される可能性がある。

MRI検出のBMEは、当初、RAの早期診断のための組織学的炎症の敏感なマーカーと捉えられていた。しかし、その後の研究から、BMEがRAの侵食進行と密接に関連していることが示唆されている。疾患発症時のBMEは、1~6年後の関節損傷の進行を予測できる(1.2.)。BMEはRA病理の重要な部分であり、恐らく、浸食の初期の病態を直接表している。

BMEは骨炎とも呼ばれ、脂肪組織が炎症状態で骨髄に浸潤する炎症細胞に置き換えられることが示唆されている(2.)。滑膜炎中心の概念によると、BMEは、滑膜炎による滑膜組織と骨髄の間の炎症伝達の結果とされている。骨浸食が滑液包炎によって駆動される場合、軟骨変化は骨変化に選考するはずである。しかし、BMEの発生と浸食は初期のRAにおいて軟骨の薄化に先立つことが示唆されている。最も重要なことは、縦方向MRI研究によって、BMEと侵食進行との関連が局所滑膜炎とは無関係であることが示されている(3.)。さらに、.骨浸食は、滑膜炎の臨床的特徴を持たない関節においても認められている(4.)。

骨免疫学の新たな分野は、骨髄が免疫系の重要な部分であることを証明している(5.)。BMEの出現に伴い、T細胞、単球および炎症性サイトカインの数が骨髄において有意に増加した。これらのデータは、骨髄がRAにおいて、免疫寛容を破壊する「最初のヒット」のための重要な病理学的部位である可能性を示唆している。遺伝的要因と環境要因の相互作用の下で、特定の抗原が骨髄または他のリンパ組織の適応免疫応答を活性化して滑膜炎を引き起こす可能性がある。

本研究の重要な新しい発見は、BMEの出現が、CIAの開発中に骨髄「破骨形成環境」にリンクされていること。骨髄は、造血幹細胞の静止、増殖、分化および自己再生能力を制御する「ニッチ」で構成することが証明されている(6.)。骨髄微小環境信号は、OCsの形成および機能の調節に関与する(7.)。

RAにおける骨浸食に対する骨髄微小環境の重要性が強調され、BMEを「標的治療」戦略として考慮すべきであることが提唱されている。

このように、様々な疾患の発症機序や病態、さらに治療目標としても、「浮腫」の重要性が認識され初めている。

出典文献
The Bone Marrow Edema Links to an Osteoclastic Environment and Precedes Synovitis During the Development of Collagen Induced Arthritis
Fang Wang1, Aishu Luo, Wenhua Xuan, et al.,
Front. Immunol., 24 April 2019 | https://doi.org/10.3389/fimmu.2019.00884

二次文献
1.
Boyesen P, Haavardsholm EA, van der Heijde D, Ostergaard M, Hammer HB, Sesseng S, et al. Prediction of MRI erosive progression: a comparison of modern imaging modalities in early rheumatoid arthritis patients. Ann Rheum Dis. (2011) 70:176–9. doi: 10.1136/ard.2009.126953

2.
McQueen FM. Bone marrow edema and osteitis in rheumatoid arthritis: the imaging perspective. Arthritis Res. Ther. (2012) 14:224. doi: 10.1186/ar4035

3.
Nieuwenhuis WP, van Steenbergen HW, Stomp W, Stijnen T, Huizinga TW, Bloem JL, et al. The course of bone marrow edema in early undifferentiated arthritis and rheumatoid arthritis: a longitudinal magnetic resonance imaging study at bone level. Arthritis Rheumatol. (2016) 68:1080–8. doi: 10.1002/art.39550

4.
McGonagle D, Tan AL. What magnetic resonance imaging has told us about the pathogenesis of rheumatoid arthritis–the first 50 years. Arthritis Res. Ther. (2008) 10:222. doi: 10.1186/ar2512

5.
Walsh MC, Takegahara N, Kim H, Choi Y. Updating osteoimmunology: regulation of bone cells by innate and adaptive immunity. Nat Rev Rheumatol. (2018) 14:146–56. doi: 10.1038/nrrheum.2017.213

6.
Morrison SJ, Scadden DT. The bone marrow niche for haematopoietic stem cells. Nature. (2014)505:327–34. doi: 10.1038/nature12984

7.
Amarasekara DS, Yun H, Kim S, Lee N, Kim H, Rho J. Regulation of osteoclast differentiation by cytokine networks. Immune Netw. (2018) 18:e8. doi: 10.4110/in.2018.18.e8

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高齢変性腰椎脊柱側弯症患者の腰痛と骨髄浮腫との関係 [腰痛関連]

MRI上の骨髄浮腫は、高齢者の変性腰部脊柱側弯症における腰痛の存在と密接に関連していたと報告されている。4年前の文献だが、最近、腰痛と骨髄浮腫との関係が気になって検索しているがなかなか見つからない。この報告は広島総合病院の医師らによるもの。

対象となった腰部脊柱側弯症患者120名(65歳以上)で、その中の、腰痛患者64名中 62 名(96.9%)に骨髄浮腫を認めた。一方、非腰痛者では56名中21名(37.5%)であった。

放射線撮影、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、および腰椎の圧痛点検査を行った。MRIでは、冠状断 (coronal)ガドリニウム対照的T1-またはT2強調の脂肪飽和画像によって骨髄浮腫の大きさを評価。

骨髄浮腫は、脊柱側の凸側よりも凹面側に位置する頻度が高い (P 0.001)。腰痛を有する患者の骨髄浮腫スコアは、腰痛の重症度に関連していた (r = 0.724; P < 0.001)。また、腰椎圧痛点の位置は骨髄浮腫の位置に一致していた(κ value = 0.745; P < 0.001)。

退行性腰部脊柱側弯症における腰痛の原因は不明であるが、この調査から、骨髄浮腫が側湾症患者における腰痛だけではなく、もっと広範囲の腰痛のメカニズムに関与しているのではないかと考えている。

また、関節炎や変形性膝関節症(膝OA)では骨髄浮腫が滑膜炎などに先行して生じていることが報告されている。膝OAにおいては、骨髄浮腫の存在が将来の人工関節全置換術に至るリスク因子であると報告されており(当ブログで紹介)、さらに多くの病態に関与している可能性も考えられる。

コラーゲン誘発関節炎マウス(CIA)モデルを用いた、骨髄浮腫(BME)、滑膜炎、骨浸食との関係を縦方向に調査した報告もあるが、長くなるので、この件は別の稿で紹介したい。

出典文献
Bone Marrow Edema and Low Back Pain in Elderly Degenerative Lumbar Scoliosis: A Cross-Sectional Study.
Nakamae T1, Yamada K, Shimbo T, Kanazawa T, Okuda T, et al.,
Spine (Phila Pa 1976). 2016 May;41(10):885-92. doi: 10.1097/BRS.0000000000001315.

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腎臓と肺との相互作用 [臓器相関]

当然のことながら、各臓器はそれぞれが単独で存在しているわけではなく、他の臓器と相互作用することでその機能を最適化しており、1つの臓器の障害は他臓器の機能にも悪影響をおよぼす。しかし同時に、各臓器には独自の組織構造と調節機構があるため、これまでの医学では単一臓器の生理学的システムの探求が中心であった。

しかし、臓器は統合されたネットワークで結ばれており、臓器系は様々なフィードバック機構と異なる時空間スケールを介して相互作用してその機能を最適化している。このような、多様な臓器系を含むネットワークシステムは生理・生化学の根本的な問題であるが、これまでは十分には研究されてこなかった。

「臓器相関」という言葉が未だあまり馴染みが無かった昔に、日内科誌(昭和59年2月10日:老人肺の臨床)に掲載されていた報告を読み、そのメカニズムがずっと気になっていたことがある。

その報告には、「老年者における呼吸器疾患の予後検索をしてみると、原疾患よりも、むしろ、他臓器系の機能状態や疾患によって左右されていることが少なくない。肺炎の死亡例と回復例とを比較してみると、高齢や病変の程度には差がみられないのに、腎機能障害、脱水徴候、血清トランスアミナーゼ高値などの所見は死亡例により高率に認められた。」と記されていた。

現在においても、腎臓に無関係の手術症例でも、AKIの有無が手術成績や予後の善し悪しに直接関与する程の危険因子となっていることが知られている。

私の経験でも、他の検査データは正常で、腎機能のみが毎年低下傾向を示していた高齢者が、数年後、さらに進行して透析の手前位になると感染症で亡くなることは少なくはない。腎臓はヒトにおける体内環境調節機能を担っており、老廃物の排泄のみならず、エリスロポエチン、レニン、活性型vaitaminDなどの各種ホルモンを分泌する機関であることから、その影響が複数の臓器におよぶことは予想されることではある。

しかしそれは、中医学あるいは漢方における、「臓腑理論とは医学的な複数の臓器機能を包括的に捉えた概念である。」などではない。「黄帝内経」解釈における医学的誤謬と、現代医学を都合良く拝借して構築した、歴史的にあり得ない説明に基づく詭弁であり、およそ「理論」や「学」に値しないものである。したがって、中医学によって生命の真理に近づくことはない。(詳しくは、本ブログの他稿か、拙著、「中医学の誤謬と詭弁」を参照)。さらに、「東洋医学はシステムネットワーク医学である」などと述べる、一部の医師の意見は、黄帝内経の記述を自ら検証せず、一般的な中医学書を鵜呑みにして後付しただけの、浅薄なこじつけである。

尚、「黄帝内経」の全記述を検証した結果では、古代中国においては、医学的に腎臓の機能も病態も全く理解できてはいなかったことを予め明記しておく。

腎臓と多臓器、特に心臓、肺、腸、脳の間で起こる相互作用は重要である。このような臓器間の相互作用について、医学文献では「クロストーク」と記されているものを見かける。しかし、「crosstalk」とは、そもそも、電話の混線、または、ステレオの録音・再生機器において左右の音が混ざり合うことを示す言葉である。「当意即妙な応答」という意味もあるが、電話において、複数の回線を束ねた通信ケーブルなどで、ある回線で伝送される信号が他の回線にもれる、「漏話 (ろうわ)」を意味している。何故、医学文献において、臓器間の相互作用を「クロストーク」と呼ぶのか私には理解できない。

したがって、本稿では、「臓器相関ないし臓器相互作用(“Organ Interaction”または“Organ Correlation”)」と表記している。

腎臓と最も密接に関係している臓器は心臓であり、その代表的な疾患は「うっ血性心不全」である。「腎-心連関」と称されるように、循環器疾患において、腎臓疾患は極めて強い危険因子である。しかし、今回は、私の「昔からの疑問」について考えてみたいので、腎臓疾患と肺との関係を対象にした。

肺は諸臓器の中で最も毛細血管が発達した臓器であり、心臓からの血液の全てが供給されているため、腎臓を含む他臓器の障害に由来する炎症性メディエーターの標的となる。腎臓と肺との相互作用は、急性腎障害(AKI)による急性肺傷害(ALI:acute lung injury)・呼吸逼迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)のメカニズムについて考える。

AKIは直接的に生命予後に関与する重篤な疾患である。そのメカニズムは、続発する多臓器障害であると考えられている。急性肺障害は心不全や全身のうっ血などによる毛細血管圧の上昇により増悪するが、AKIで認める肺障害や肺水腫はうっ血がなくても発生する。

ALIARDSにおける肺胞障害の病態のメカニズムの中でも、IL-1β,sTNF-α IL-6,IL-8 などの炎症性メディエーターや、好中球、マクロファージなどの炎症性細胞浸潤、血管透過性亢進などが、AKIによって直接誘導されることが示されている。

恐らく、AKIに関連する最も一般的な肺合併症は「肺胞浮腫」である。AKIの代謝変性は、血清リン酸およびカルシウム濃度、代謝性アシドーシスの異常など、呼吸筋力低下や機能不全にも寄与し、さらに、「腎原性肺水腫」の状態となる。肺水腫の形成に対するAKIの寄与は、バルク流体蓄積、毛細血管静水圧の増加、肺胞空間へのネットフローの勾配に起因する肺胞空間に異常な体液が蓄積した状態であり、正常な酸素化および換気を困難にして、重症患者の死亡率を増加させる。

両腎摘出や腎虚血によるAKIでは、肺への炎症細胞の浸潤、肺水腫、肺の血管透過性の亢進が起こるが、IL-6 欠損マウスではこれらの反応はほぼ抑制される。さらに、AKI後の肺障害に対してIL-6 中和抗体が有効であることから、IL-6 は有望な治療標的となる可能性がある。しかし、IL-6は炎症の初期段階では炎症性であるが、その後は抗炎症性に働くためそう単純には期待できない。また、両腎摘出後のALIにおいて、活性化好中球より分泌されるエラスターゼが肺傷害の発症・進展に重要であることが、AKI動物モデルで確認されている。

また、酸化ストレスも遠隔臓器障害の重要な因子であり、AKIによるNO合成障害が、肺における酸化ストレスを増強することが動物モデルで確認されている。しかし、肺水腫発症のメカニズムとして、酸化ストレスよりも腎不全に関連した「尿毒素」が関与するとの意見もある。

尿毒素化合物の蓄積が肺の炎症や傷害に寄与することは知られており、「尿毒肺炎」と呼ばれている。しかし、尿毒肺炎は肺胞毛細血管透過性のびまん性透過性障害と高凝固性の状態から生じることが示されている。重度の尿毒症を有する66の検死症例の比較形態学的および臨床的分析によって、尿素保持の強度もクレアチニン保持の強度も尿毒肺炎の形態学的症状と相関性を示さなかった。尿毒症は、肺胞および肺管への基本的な肺動脈毛管損傷とその後の血漿漏れを誘発する可能性はあるが、尿毒は肺膜および肺胞内出血の同時形成に影響を及ぼさないと報告されている。

AKIに関する肺・腎相関の臨床的裏付けを行うために行われた、ICU管理された2,027 人の患者を対象にした、人工呼吸器離脱失敗例についての後ろ向き研究の結果、AKI発症群では有意に多く、odds ratio 2.27 倍で最も高い危険因子だった。

一方、ALIARDSによる低酸素血症・高二酸化炭素血症及び従来の陽圧式呼吸管理は、腎血流量低下と腎における炎症性傷害を誘発してGFRの低下を招き、AKI-ALIARDSの悪循環を引き起こす。

ARDSネットワーク研究による陽圧人工呼吸管理による血行動態への影響では、従来の陽圧人工呼吸管理と低換気量による呼吸管理との比較において、低換気量による呼吸管理によってARDSの生命予後が改善し、腎機能の改善も認められた。高PEEPによる陽圧呼吸管理による胸腔内圧の上昇は、心臓への静脈環流の低下によって心拍出量の低下を招き、さらに、腎血流量やGFRの低下を引き起こすものと考えられる。

尚、余談になるが、急性腎障害や慢性腎障害がなくとも、下肢に見られる浮腫が多くの急性・慢性痛などの病症と同時に現れることが多く、鍼治療によって浮腫とともに病症が改善される傾向がある。治療上の有益性から推測して、何らかの関連性があるのではないかと考えている。但し、それは病態の科学的調査によって検証することであり、「湿邪」など、医科学の無かった時代の古代人の自然認識を病理のメカニズムとして納得して解明したつもりになるべきではない。

追伸
本稿では、「肺腎症候群(PRS)」については述べていない。

PRSとは、びまん性肺胞出血と糸球体腎炎の併発したもので、これらはしばしば同時に発生するが、特定の疾患単位ではなく、鑑別診断と特定の一連の検査の必要性を示唆する症候群であり、原因はほぼ自己免疫疾患である。肺の病態は、細動脈、細静脈、および肺胞毛細血管を侵す小血管の血管炎である。腎の病態も小血管の血管炎であり、巣状分節性増殖性糸球体腎炎(focal segmental proliferative glomerulonephritis)の病態となる。

肺腎症候群は、基礎にある自己免疫疾患が発現したものであり、グッドパスチャー症候群が典型的な原因であるが、SLE、多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎および、その他の血管炎、結合組織疾患および、薬剤性血管炎によっても生じる。併発するからには関連性はあると推測されるが、自己免疫疾患の観点から考える必要があると考え、本稿では扱わなかった。

引用文献
Kidney-Organ Interaction
Sean M. Bagshawr, Frederik H. Verbrugge, Wilfried Mullens, Manu L. N. G. Malbrain, Andrew Davenport
Acute Nephrology for the Critical Care Physician pp 69-85| Cite as

Intensive Care Med. 1981;7(4):193-202.
The pathology and biology of uremic pneumonitis.
Bleyl U, Sander E, Schindler T.

Effects of Ischemic Acute Kidney Injury on Lung Water Balance: Nephrogenic Pulmonary Edema?
Rajit K. Basu, Derek Wheeler
Pulmonary Medicine
Volume 2011 |Article ID 414253 | 6 pages | https://doi.org/10.1155/2011/414253

Ischemic acute kidney injury induces a distant organ functional and genomic response distinguishable from bilateral nephrectomy.
Hassoun HT1, Grigoryev DN, Lie ML, Liu M, Cheadle C, Tuder RM, Rabb H.
Am J Physiol Renal Physiol. 2007 Jul;293(1):F30-40. Epub 2007 Feb 27.

急性腎障害と肺, 湯澤由紀夫, 林宏樹, 新城響, 日本内科学雑誌, 第103巻第5号, 1116-1122.
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ウイルスがパラダイムシフトを引き起こすか [らくがき]

仕事に対する意識も大きく変わることだろう。これを契機として、「働き方改革」などという些末なことではなく、正しい方向にパラダイムシフトすることを願うのだが。

職員の体調管理については緊張感をもって常識的に対応するという、ごく当たり前のことを遵守することが如何に重要かを社会全体が改めて認識したことだろう。

先ず、「発熱のある人は必ず休む」が当然のことになる。日々職員の体調管理に気を配り、発熱のある職員は問答無用で休ませるという対応が管理職の責務となる。

体調不良でも頑張るような、猛烈社員はヒーローではなく迷惑な存在となる。さらに、企業や周囲のスタッフも人手不足を理由に勤務を強要しない。今回の経験から、実際には、そんな状況でも現場はなんとか回っていくことが多くの職場でも認識されたようだ。

また、病気や病院に対する認識もようやく変わり始めた。例えば、風邪が完治するには一週間を必要とし、これより早く治ることはない。本来、この世には存在しない「風邪薬」なのだが、「総合感冒薬」などと称して病院から処方され、薬局でも売られている。薬品に入っている消炎鎮痛剤は熱を下げて痛みを軽減させるが、免疫を抑制し抗体産生を妨害して回復を遅らせる。

何れの製品にも必ず入っている「カフェイン」は、脳を興奮させて「だるさ」や「疲労感」をごまかすためのもの。しかし、風邪の回復を遅らせ、疲労回復にも逆効果となることが医学的に検証されている。

風邪薬は、極端な発熱を下げることや頭痛などの不快感を和らげるなど一定の効用はある。しかし、風邪そのものを回復させる効果は無い。むしろ、いたずらに飲み過ぎれば有害なのだが、医薬品メーカも医師もそのような真実はうやむやにして患者には伝えないし、医薬品メーカーは決して認めはしないだろう。

多くの人が、ちょっと熱があるとか、喉が痛い程度のことで病院を受診する。何らかの感染症のリスクのあることも考えず、わざわざ危険な病院へ行き、効果の無い風邪薬を処方してもらうことを希望する。これは無知が原因である。これに対し、イギリスなどでは、通常、風邪程度で病院などへは行かないし、行けば医師に怒られる。

風邪程度では病院へ行かないことが常識となるかは、日本人の民度にかかっている。そのことが、感染症を減少させ、無駄な薬品の消費も削減して、膨大な医療費の抑制に貢献できる。今こそ、医療に関する市民の認識に対する考え方を改める良い機会だと思う。

いやもっと重要なのは、医療全体を考え直すことだ。治療行為の中身を精査し、必要がない、あるいはむしろ有害な治療の氾濫を是正するためのパラダイムシフトを起こす絶好の機会だ。

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COVID-19死亡者数・患者数推移の違いは人種によるものか [医学一般の話題]

COVID-19の死亡者数の推移について、札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門」の調査による「人口百万人あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【国別】」のグラフを見ると、、その増加傾向は中国、韓国、日本およびインドネシアが特に低い。中国と韓国は既に平坦化しており、日本は未だ増加中だがインドネシアと同様に上昇角度は低い。

極端に急上昇しているのは、イタリア、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカおよびトルコ。イタリア、ドイツ、フランスは上昇角度は下がりつつあるが、アメリカ、イギリスおよびトルコは未だ急上昇中。ブラジルは低い方のグループに入るものの、比較的急上昇中。

世界平均の推移を境にして、大きくはこの2グループに別れる。中国は世界平均のの相当上を推移していたが2月頃より平坦化し、3月22日頃より世界平均の上昇とは大きく下方に離れた。韓国は依然として上昇を続けているが、世界平均よりもカーブは緩やか。世界平均のやや下に、サウジアラビア、アルジェリア、西アフリカが入る。日本の上昇傾向は続いているものの、数値的には平均の大分下を推移している。

このグラフの傾向から、欧米の諸国と日本などとの違いは、恐らく遺伝子の型が関与しているものと推測される。もしそうならば、今後、日本において感染爆発は起きない可能性が高い。但し、ウイルスのRNAの一部に変化が起きている可能性も考えられるがイタリアの報告では否定されている。

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者、104例についての報告(2020年3月24日;自衛隊中央病院ホームページ)と、アメリカの様子との違いからも感じられる。

クルーズ船の患者の報告を記すと。
観察期間を通して全く症状や所見を認めなかった症例は全体の31.7%で、軽症例が41.3%、重症例は26.9%。無症候性および軽症例でも、約半数に胸部単純CT検査での異常陰影が認められた。陰影は両側末梢胸膜下に生じるすりガラス様陰影が特徴で、胸部単純レントゲン写真では異常を指摘できない症例が多かった。

無症候性および軽症例で、CT検査で異常影を認めた患者の約3分の2はそのまま症状が変化することなく軽快し、残りの約3分の1は増悪した。増悪する場合の画像変化は、すりガラス様陰影の範囲が広がり、徐々に濃厚なair-space consolidationを呈した。

無症状あるいは軽微な症状にもかかわらずCT検査で異常陰影を認める病態を「Silent Pneumonia」とし、「Silent Pneumonia」から「Apparent」に悪化する際の特徴は、発熱や咳嗽の増悪や呼吸困難の出現ではなく、高齢者ではSpO2の低下、若年者では頻呼吸のが出現が多い。症状増悪は初発から7~10日目で、比較的病状はゆっくりと進行した。

この報告の時点では観察期間中に死亡例はなく、3月24日時点では全員退院している。中等症~重症化しても、適切な酸素投与を実施するなどの対応によって救命可能な症例が多かった。

最終的には、クルーズ船の患者数は712名、死亡者は11名、死亡率1.54で、国内全体(4月9日)の死亡率1.78より低い(患者数 4,768名、死亡数 85名)。

これに対し、アメリカの患者の詳細は判らないので、数値で比較することはできないが、
救急の指導医として勤務している日本人医師の話による悲惨な状況は、対象となっている患者層の違いもあるだろうが、全く別の疾患ではないかと思う程だ。

人工呼吸器を外して自分で呼吸できるようになることを「戻ってくる」と表現しているらしいが、それはほんの一握り。回復するかどうかは別問題で、特に、お年寄りのほとんどがそのまま亡くなる。重症化してから亡くなるまでの時間は1週間程度だが、これはICU(集中治療室)の医師が何とかもたせた結果であり、人工呼吸器やECMOがなければ2、3日で亡くなる。さらに、特異なのは、全く重症化していなかった患者が、突然、わずか1~2時間で激変し、人工呼吸器を繋げる間もなく亡くなる人もいる。このような変化は容体をこまめにチェックしていても予期できないとのこと。

このアメリカの状況は、米ニュージャージー州で、感染症専門医として勤務する日本人医師・斎藤孝氏に話を聞いた、ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ氏のリポートから抜粋したもの。患者数がさらに膨大なニューヨーク州はこれ以上に悲惨な状況だろう。人知れず家で死亡している人も多く、このような人達は死亡数にカウントされないため、実際の死亡数、死亡率はさらに高いはずだ。

日本においても、志村さんの容体が急激に悪化したように、重症例はアメリカの重症患者と違いはないものと思われる。しかし、アメリカではその人数が膨大で、病院の前にはトレーラーが待機して遺体を収容し、焼却後遺族には書類のみが送られる。アメリカには火葬後の灰を埋葬する習慣が無いため、そのまま処分されるためだ(世界のほとんどの国が同様の考えで、焼却後の灰はゴミとして認識されている)。

consolidationとは、含気腔 air space が液体、細胞成分、組織などで置換された状態を指す病理組織学的用語。X線学的には、気道の閉塞や狭窄で二次的に含気腔が無気肺になっている状態と、液体や細胞成分で置換されて空気がない状態とを区別することはできない。

追伸

東京都における新型コロナ陽性患者数の推移(4月18日現在)から

このグラフを見る限り、東京都の感染者はすでにピークに達し、しばらくの間は上下しつつも平坦化を続けて間もなく減少すると予想される。

自然現象もヒトが作る工業製品にも、全てライフサイクルがある。その経過は、ロジスティック曲線を描いてS字カーブを示すのが常のこと。増加と同時に増加率を低下させる要因が現れる。今回の場合では、多くの人々が感染することで免疫の壁ができ、それが拡散することによって感染の拡大は終息する。但し、再び上昇傾向が現れて増加率が高くなりすぎれば、その後、カーブは上下動を繰り返すカオスとなることもあり得るが、恐らく、それはないと思う。
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鍼治療は反復性片頭痛の予防に有効と報告されているが [鍼灸関連研究報告から]

マニュアル鍼治療は、前兆(閃輝暗点)のない反復性片頭痛の予防において、偽(sham)鍼治療や通常治療に比べて片頭痛の発現日数や発作回数を抑制したと報告されている(中国・華中科技大学のShabei Xu氏ら)。

この報告は鍼灸師としては歓迎すべきだが、個人的には大いに不満がある。

第一点として、この種の医学研究では毎度のことだが、結論として、「予防薬の使用に消極的な患者や予防薬が効果がない場合の治療として、将来のガイドラインで考慮すべきである。」と述べられている。

効果があるとしながら、その対象として「従来の治療に抵抗する症例に鍼でもやってみれば」と、言っているのだ。おまえ達がお手上げの患者に対して鍼治療に効果があったのならば、その優位性は明らかであり、優れた治療法として素直に認めるべきだ。

昔から、このやり方なのだ。医学的治療で効果がなかった患者を対象にして鍼治療を試み、明確な効果が認められないと、鍼治療には効果が無いと結論づける。極めて「unfair」なのである。同じ土俵の上で比較
してこそ、その効果や治療法の優越性が明白となる。

第二点は、教科書に示された経穴の位置に、触診による反応など何も確かめることもなく、おまけに、刺激の加え方などの手技も考慮することなく単純に刺している。これこそが、従来の鍼治療における医学研究に見られる重大な欠陥である。何も考えず、教科書に記された経穴に刺してこれを伝統的鍼治療と呼び、研究手法が「randomised」であればそれだけで質の高い研究として評価される。しかし、これでは根本的に鍼治療になってはいない。

さらに、極めて個人的な意見を言うと。私は、ほとんどの場合、「教科書的な経穴」を治療には用いないし、そのような固定された特定のポイントの存在は否定している。

経穴は教科書的な固定されたポイントではなく、それは、特に何らかの不調がある時に反応が出現し易い領域であり、この部位の病的状態がさらに不調を助長すると同時に、この部位の異常を緩和することで臓器の変調も軽減できるような、特異な“regio”または“area”と呼ぶべき存在である。さらに言えば、このような特異な領域は経絡理論とは無縁で、医学的に予想できる部位である。この意味においても、経絡理論は無用であり全くのナンセンスと言える(詳細は、私のブログの記事を参照されたい)。

尚、私は、片頭痛の治療穴としてこの文献に記された経穴のほとんどを使用していない。経絡理論とは全く異なる、独自の部位(regio)を触診によって確認し使用している。

一応、報告内容を簡単に記すと。
 
研究デザインは、“randomised, controlled clinical trial”で、対象となった患者は150人(平均年齢36.5歳, SD 11.4, 女性123人;82%)。介入は、 真の鍼治療ポイント(20)プラス通常のケアとマニュアル鍼治療, 非経穴部位への偽鍼治療プラス通常のケア, および単独で通常のケアの3群に分類して8週間実施。

平均片頭痛の減少は、13~16週において、マニュアル鍼治療群で3.5 (SD 2.5) 偽鍼治療群では2.4 (3.4) (adjusted difference −1.4, 95% confidence interval −2.4 to −0.3; P=0.005)。

同様に、17 ~20週では、3.9 (3.0)versus 2.2 (3.2)(adjusted difference −2.1, −2.9 to −1.2; P<0.001)。

発作回数の減少は、2.3 (1.7)versus 1.6 (2.5)(adjusted difference −1.0, −1.5 to −0.5; P<0.001)。

何れも、重篤な有害事象は報告されていない。

しかし、統計的には有意とは言え、臨床的に意義がある差と言えるものではない。私の臨床経験と比較して、随分と効果が低いように思われる。やはり、治療法に大きな問題があると言いたい。

出典文献
Manual acupuncture versus sham acupuncture and usual care for prophylaxis of episodic migraine without aura: multicentre, randomised clinical trial
Shabei Xu, Lingling Yu, Xiang Luo, et al.,
BMJ 2020; 368 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m697 (Published 25 March 2020)

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Covid-19によるパンデミックはパラダイムシフトの契機となるか [らくがき]

過去に起きたパンデミックや寒冷化など、世界的規模の大惨事はいずれもパラダイムシフトを引き起こした。今回の事件は、「社会資本」とは何か、その概念を問い直す契機になると思われる。

「全ての国民が安楽に暮らせる」こと、これを達成させることこそ国家・政治家の唯一の使命であり、存在する意義だと考えるが、ごく当たり前のこのことを政治家は認識していない。同時に、国民にも本来の意味における「公共精神」が求められている。

それは、権威主義による抑圧的な公共ではなく、協働型コモンズへの移行であると思われる。現時点において、共有型経済こそが、グローバル経済の歪みを是正して民主化し、生態系に優しい持続可能な社会を築ける体制ではないだろうか。実のところ、、日本における、「失われた何十年」と呼ばれる苦境はグローバル化の中で起きた事である。世界経済の仕組みは専門外だが、日本はそもそもグローバル化に向いていない国家・国民であり、江戸時代のような「自給自足(循環型)」社会に向いているため、「協働型コモンズ」は案外容易く受け入れられるのではないだろうか? 

大仰な軍隊もマクロな経済指標もウイルスによる混乱には無力。「見えない敵に対する恐怖」によって都市は封鎖され、経済活動もストップしてしまう。G7などと称して、世界をリードする先進国・巨大国家の何ともろい事か。

恐らく、今回のパンデミックを契機にEUは分裂し消滅するだろう。EUがやったことは、規制によって各国政府の迅速な対応を妨害し、イタリアやスペインが求める「コロナ債」による資金調達を拒否して両国を救おうとしなかった。EUにとって最も重要な事は、本部組織の権力の維持であり、そのために、毎日作られる法律を各国に押しつけているだけだ。以前から、その権威主義への根深い不満は相当鬱積していたであろうし、今回の騒動でEU加盟国は目覚めるだろう。

WHOが如何に無能な組織かは、今回の無様さで世界の人々も認識したことだろう。そもそも、WHOに医学の専門家などはいないのであり、専門的に高度な決定能力などあるはずもないのだ。

アメリカも、連邦政府と州との分権体制や医療制度の欠陥を改めて露呈する結果となった。但し、突出して死亡率が高い要因として、ウイルスが変異して毒性が高くなっている可能性も考えられる。しかし、それでも近いうちに、対策などとは無関係に自然の成り行きで終息するだろう。

ニューヨークや東京など、大都市の存在意義も価値も消失するだろう。偉そうに見えても、自分の食餌すら用意できない赤ん坊と同然の存在である。東京ならではの仕事と思われていたことが、田舎暮らしを満喫しつつテレワークで済む事だと多くの人間が気づいた。本社業務などは全てオンラインで済む事であり、東京に本社を置く理由も、ステイタスでもなくなる。むしろ、そのような企業はIT化が進んでいない遅れた企業として評価されるだろう。

もはや、高額なタワーマンションに住む理由も、何時間もかけて、感染が心配される満員電車で通勤する必要など無いのだ。ごく近いうちに、東京などの大都市は無用の長物と化して地方都市の1つにすぎなくなる。都市のあり方も、人々の暮らし方も変化していくことだろう。ビルのほぼ全てが、地下に変電設備を設置していることは水没による大きなリスクを負っている。いや、東京の危険性はそれだけではない。この都市には地下施設が多すぎる。一度水没すれば都市機能は麻痺し、復旧はほとんど不可能だろう。また、お台場などの埋め立て地は、高潮や津波に対する対策は全くされておらずあまりに無防備だ。恐らく近い将来、この危惧は現実のものとなるだろう。

オリンピックもIOCの本質も、その正体が露呈した。今更のことではあるが、全てが中心にある組織や企業の利益と権威のために存在していることが、今回の顛末で世界中の人々も再認識したはずだ。IOCも現在のオリンピックもいらない。創始者であるクーベルタン本人も、晩年に言っている。「私があと50年生きたら、オリンピックを中止させるだろう」、と。

先々週だったか、一時落ち込んだ日本の株価が2日連続して1000円以上値上がりした。その後若干の乱高下を繰り返すも大きくは値下がりしていない。暴落するはずの時期に、この異常と思える株価は、結局のところ、日銀がETF購入などによって買い支えしているからだ。しかしそれは、いずれ日銀自体の破綻を意味する。人々は、資産構成を変化させようとしている。政府は小出しに経済対策を打ち出しているが、お仲間への手厚い援助か人気取り程度で、日本経済が直面している問題の解決には無力だろう。しかし、株価などはどうでも良いことである。クルーグマン先生も言っているように、株価と実体経済には何の関連性も無い。

但し、危惧する点もある。それは、GAFAに代表されるIT企業が今回のコロナショックに乗じてさらに拡大すること。リーマンショック後、その反省から起きた、株主偏重から、従業員や地域社会を重視する「ステークホールダー資本主義」への意識転換が、再び逆行して価値観の衝突が起こる可能性がある。

もう一つ。この機会に、人類は宗教から卒業できないものだろうか。ウイルス感染を恐れ、教会でミサが中止されたり、日本では各地のお祭りが中止となっている。神を運んで練り歩く神輿は様々な疫を打ち払うはずだが?。万物の頂点に立つ神々も、ウイルスには勝てないらしい。その矛盾に誰も気づかないのであろうか。
もういいかげんで、宗教の愚かさに気づき、宗教がなくなれば、この世界の多くの戦争もなくなるだろうに、、。

文明も生命も、使用できるエネルギーと情報量の増大を動機として進化してきた。この「増大させたい」という欲望は、企業・国家の拡大主義・覇権主義にも内在する、なにやら本能めいた性癖のように感じられる。人類に知性があるならば、個人および社会全体にとって何が重要なのかを問い直す時期であると思う。
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COVID-19重症患者の悪化要因から見えること [医学一般の話題]

ウイルス名;SARS-CoV-2による、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者の一部が重症化する原因を考えると、多くの疾患の重症化に共通するメカニズムが見えてくる。重症化した病態の本質は、自身の免疫の暴走による全身性の炎症である。

ウイルスの侵襲に対して自身の免疫が強く反応して暴走する、「免疫の嵐;サイトカインストーム」が起こり、肺や腎臓など、多臓器にダメージが生じてショック状態に陥って心肺停止で亡くなる。中には、ついさっきまで普通に談笑していた人が、わずか数時間で亡くなる事もあるとか。欧米では、重症化する患者が多いようだが、未だ、確かなことは判らない。

周知のように、中国における約45,000人の症例分析では、COVID-19が重篤な病態となる可能性が最も高い人々は、高齢者や併存疾患を有する人々であることが示唆されている。それ以外の健康な人の死亡率は1%未満で、心血管疾患を有する人々の死亡率は10.5%、糖尿病患者では7.3%、慢性呼吸器疾患、高血圧、または癌の患者では約6%で、80歳以上の患者では14.8%。

全体として、既知の症例の2.3%が致命的であった。この死亡率は、日本、韓国およびアメリカなどでもほぼ同様の値となっている。しかし、多くの専門家は、多数の軽症例が診断されていない可能性を考慮すると、この死亡率は過大評価であると述べている。但し、イギリスやイタリアでは7~8%、フランスでは13%以上と突出して高いが、この要因についていくつか考えられてはいるものの定かではない。

年齢とともに重症度が高まるこのパターンは、他のウイルスの流行、特に1918年のインフルエンザ大流行の時の、幼児と20歳から40歳までの人々の死亡率が高かったパターンとは異なっており、SARSとMERSコロナウイルス流行の記録と一致している。

悪化するか否かは患者の一般状態も影響するが、個人の免疫応答が大きく関与している。SARS-CoV-2が人間の気道の中に入ると、気道を覆う細胞に感染して増殖する。肺の中では、病原体を根絶するために免疫細胞が集合して炎症が起きる。やがて免疫応答が後退して患者は回復する。しかし、如何なる原因によるのかは不明だが、免疫系が何らかの機能不全を起こし、一部の人々は、免疫細胞の暴走に関連する「免疫の嵐;サイトカインストーム」となる。この段階では、自らの免疫によって攻撃されて重症の炎症状態となっている。

つまり、死を招く全身の炎症状態の直接的な原因は、前述したように、自分自身の免疫の暴走である。これは、敗血症の症状がが好中球の暴走によることと共通している。

ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬で、自己免疫疾患にも効果がある)に効果があることも納得できる。しかし、ヒドロキシクロロキンやアジスロマイシンなど、ある程度効くが、一度重症化したら薬はほとんど効果がなく対症療法しかない。呼吸困難になったら人工呼吸器に繋いで、それでもだめなら体外式膜型人工肺(ECMO)を使う。治せるのではなく、症状を緩和させてその後は患者の治癒力頼みだが、人工呼吸器に繋いだ患者で回復できた人はほとんどいないとのこと。

このウイルスの重症化のメカニズムは、まだはっきりとは解明されていない。

コロナウイルスやその他の感染症から起こり得る、肺の全身炎症(急性呼吸窮迫症候群;ARDS)に起因する呼吸不全の原因は正確には知られていない。恐らく、感染の受けやすさと発症および重症化には、自己免疫疾患などと同様に遺伝子のタイプが関与しているものと推測される。

一方、ウイルスの性格も重症化に影響する要因となっている。風邪の原因となるコロナウイルスは、一般的な風邪を引き起こす他の多くのウイルスと同様に、通常、鼻と副鼻腔などの上気道に限定される。しかし、SARS-CoVとSARS-CoV-2は、より重篤な疾患に関連する肺の深部に侵入する。

この理由の1つは、ウイルスが侵入を得るためにヒト細胞上のACE-2受容体に結合することである。この受容体は、上気道と下部気道の毛状上皮細胞、ならびに下部気道のII型肺胞上皮細胞に存在する。II型肺胞上皮細胞は肺胞がつぶれるのを防ぐための活性物質(サーファクタント)を分泌しているため肺機能にとって重要であり、下気道疾患が非常に重篤となる原因となる。

アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロンシステム(RAAS)活性化に対抗する酵素であり、COVID-19パンデミックを担うウイルスであるSARS-CoV-2に対する機能受容体としても機能する。したがって、SARSウイルスとACE2の相互作用が感染の潜在的因子となる可能性がある。

ACE2を変化させる可能性のあるRAAS阻害剤の使用と、ACE2発現の変動が疾患毒性の一部に関与する可能性が懸念され、ACE阻害剤およびアンジオテンシン受容体遮断薬(ARBs)の廃止を求める意見もある。

但し、心不全や心筋梗塞を起こした患者を含む、リスクの高い高血圧患者などにおけるRAAS阻害剤の突然の離脱は、臨床的不安定性および不利な健康結果をもたらす可能性がある。

また、ACE2が肺損傷患者に有害ではなく有益である可能性があるという仮説も提案されている。世界中における、ACE阻害剤およびARBの一般的な使用を考えると、Covid-19患者におけるこれらの薬物の使用に関するガイダンスが緊急に必要である。

現在、組換えヒトACE2およびCovid-19のARBロサルタンを含むRAASモジュレーターの安全性と有効性を検証するための臨床試験が行われている。

追伸(4月4日)
米国心臓協会(AHA)、米国心不全学会(HFSA)、米国心臓病学会(ACC)の3学会は、3月17日、「ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の服用は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の重症化要因にはならない」とする共同声明を発表した。COVID-19重症化とこれらの降圧薬の使用をめぐる議論を受け、今回の声明の発表に至ったとしている。

臨床上の意思決定において重要性が強調されているのは、早期のウイルス学的検出、炎症性指数の動的モニタリング、および胸部X線写真で、痰はRT-PCR結果において最高度の陽性率が観察されている。

ウイルス核酸は急性期に患者の血液サンプルの10%で検出され、患者の便の50%でRT-PCRが陽性を示した。また、便から生きているウイルス株が単離されており、便が潜在的に感染性を有していることを示す重要な情報である。

動的サイトカイン検出はサイトカインストームをタイムリーに同定し、人工肝血液浄化システムを適用するために重要であった。

初期の抗ウイルス治療は、疾患の重症度を緩和して病気の進行を防ぐことができる。ショックと低酸素血症は、通常、サイトカインストームによって引き起こされる。人工肝臓の血液浄化システムは、急速に炎症性メディエーターを除去してサイトカインストームをブロックすることができる。

重篤な疾患の症例では、中等度のグルココルチコイドの早期および短期間の使用が支持されている。酸素化指数が200mmHg未満の患者は集中医療センターに移す必要があり、保存的な酸素療法が好ましく、非侵襲的換気は推奨されていない。機械的換気を有する患者は、クラスター人工呼吸器関連肺炎予防戦略を厳密に監視する。抗菌予防は合理的に処方されるべきであり、疾患の長い経過、繰り返し発熱およびプロカルシトニン(PCT)の上昇を有する患者を除いて推奨されなかった。

一方、二次真菌感染も懸念されるべきである。COVID-19の患者の中には、ラクトバチルスやビフィズス菌などの減少したプロバイオティクスを有する腸内微生物叢を示す患者も存在する。栄養と胃腸機能は、すべての患者のために評価されるべきで、栄養サポートとプレバイオティクスまたはプロバイオティクスの適用は、腸内微生物叢のバランスを調節し、細菌の転位による二次感染のリスクを減らすために提案されている。

SARS-CoV-2感染後のウイルスクリアランスパターンについては不明。そのため、退院した患者に対して2週間の検疫が必要となり、定期的なフォローアップも必要となっている。

患者がSARS-CoV-2感染後、抗体が作られるかは依然として不明。SARS患者における、回復から約5年後または10年後の調査では、コロナウイルス抗体が長く持続しないことが示唆されている。しかし、少なくとも短期的には免疫の獲得が期待される。

鍼灸治療の対象となる疾患ではないが、病態を考える上で参考になるので知る範囲でまとめてみた。

引用文献
Why Some COVID-19 Cases Are Worse than Others
Emerging data as well as knowledge from the SARS and MERS coronavirus outbreaks yield some clues as to why SARS-CoV-2 affects some people worse than others.
Katarina Zimmer
The Scientist , Feb 24, 2020

Renin–Angiotensin–Aldosterone System Inhibitors in Patients with Covid-19
Muthiah Vaduganathan, Orly Vardeny, Pharm.D., Thomas Michel, et al.,
March 30, 2020 DOI: 10.1056/NEJMsr2005760

Management of corona virus disease-19 (COVID-19): the Zhejiang experience.
[Article in Chinese]
Xu K, Cai , Shen Y, Ni Q, Chen Y, Hu S, et al.,
Zhejiang Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 2020 Feb 21;49(1):0.

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