鍼刺激における交感神経β2受容体の活性化による抗炎症治療を求めて [鍼治療を考える]

免疫の攻撃に応答して炎症メディエーターの過剰な放出を阻害する、「炎症反射: Inflammatory reflex ,(Borovikova et al. 2000; Tracey, 2002)」と呼ばれる神経反射がある。これは、迷走神経の求心路と遠心路を反射弓とする炎症に対する抑制系である。例えば、体内に埋め込んだデバイスによって迷走神経を電気刺激することで、メトトレキサート抵抗性の慢性関節リウマチ患者の70%において炎症と疼痛の緩和が認められている。

尚、交感神経への刺激でも、β2アドレナリン受容体を介した炎症制御が存在する。交感神経からの入力が、β2アドレナリン受容体を介して病原性T細胞依存性炎症を改善することや、樹状細胞のT細胞に対する抗原提示能を低下させて炎症性サイトカインの産生を抑制することも報告されている。

これに対し、β1アドレナリン受容体では、血管内皮細胞からのケモカイン産生を誘導して炎症反応を促進してしまう。この機序は、“Gateway reflex”と呼ばれ、第5腰椎背側の血管内皮細胞に血液細胞の中枢神経系へのゲートが存在し、ヒラメ筋への重力刺激を起点とする感覚神経および交感神経の活性化が、近傍の血管内皮細胞にIL-6アンプの過剰な活性化を誘導してケモカインの大量産生を引き起こすと説明されている。

従来の交感神経に対する鍼治療効果の研究では、αおよびβ機能を一括して影響を調査したものしか見られない。しかし、β1とβ2およびβ3を分離して選択的に検討することが病態に応じた治療法の開発に繋がる。今後の鍼治療において、鍼刺激のポイントおよび刺激手技による免疫系への作用を知ることが重要なテーマであると考えている。

従来、炎症性反射と呼ばれるメカニズムの遠心性アームは「コリン作動性抗炎症経路」であると考えられていた。しかし、迷走神経が内毒素動物モデルにおける炎症の制御に何の役割も果たさないとする報告がある。免疫攻撃に応答して活性化されるのは大内臓神経であり、そして次に節後交感神経ニューロンを刺激して炎症を抑制するとされる(the splanchnic anti‐inflammatory pathway)。

また、交感神経系の自発的な活性化がヒトにおけるリポ多糖類(LPS)のi.v.注射によって誘発される炎症を抑制できることも示されている(Kox et al., 2014)。

引用文献

自律神経系による炎症の抑制
鈴木一博Jpn. J. Clin. Immunol, 39(2)96-102(2016)

The splanchnic anti‐inflammatory pathway: could it be the efferent arm of the inflammatory reflex?
D. Martelli, D. G. S. Farmer , S. T. Yao
First published: 05 July 2016| https://doi.org/10.1113/EP085559|

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