片頭痛患者の光過敏性(羞明)は網膜桿体に起因すると報告 [医学一般の話題]

片頭痛型羞明は光による頭痛の悪化(光恐怖症)として説明され、患者のほぼ90%が罹患している。

片頭痛患者の光に対する過敏性が、網膜錐体または視覚皮質よりもむしろ網膜桿体に起因し得ると示唆されている。この研究では、カラーベースの網膜電図と視覚誘発電位パラダイムを使用して、健常対照者(42名)と、発作片頭痛患者(46名)の網膜と視覚皮質で発生した電気波形を比較した。

その結果、片頭痛患者は対照群に比べて網膜錐体駆動b波または視覚誘発電位よりも網膜桿体駆動b波の振幅が大きかった(明順応フラッシュERGにおいて14%〜19%、暗順応フラッシュERGは18%〜34%)。また、片頭痛患者が発作期の間において、全ての色の光に対して敏感であった。

本研究のタイトルでは、「薄暗い光に対する明瞭な桿体駆動網膜経路の反応は視覚皮質過剰興奮理論に挑戦する」と記されている。しかしながら、この研究のみで片頭痛型羞明のメカニズムが解明されたとは言いがたい。

緊張型頭痛や群発性頭痛とは対照的に、なぜ片頭痛は羞明やそう呼ばれる他の症状と強く関連しているのか?。

視神経が障害されているか外科的に眼球が摘出されているなど、光知覚が欠如している患者グループでは強い光を曝露しても片頭痛の痛みは悪化しない。

一方、光知覚は温存されているが極端に視力が低下しているような、総合的な画像形成視力が損なわれている患者グループでは光によって片頭痛の痛みが悪化する。これらの知見から、光に対する感受性の増大が非画像形成性の網膜投射を介して伝達されることが推論される。

頭痛相は、片頭痛の起源に関係なく髄膜侵害受容器から生じ、脊髄三叉神経核および視床の中枢性三叉神経血管ニューロンを通して皮質に伝達される侵害受容シグナルの流れに依存する。光による頭痛の悪化は、光信号がその経路に沿ったどこかで三叉神経血管経路に収束することを示唆している。最近の研究で、視床において網膜から三叉神経血管ニューロンに光信号を伝達する新たな神経経路が概説されている(Noseda R, 2010)。

光に対する感受性の増大は非画像形成性の網膜投射を介して伝達される。Noseda らは、動物モデルにこの経路をマッピングすることによって、硬膜の有害刺激に感受性を示すニューロンを含有する視床後部領域を特定することに成功した。また、これらの細胞群は、網膜神経節細胞および硬膜からのいずれの入力情報にも反応することが明らかにされた。これらの細胞に入力情報が収束することが、光知覚は温存されているが機能的には盲目である被験者においても光が片頭痛の痛みを増強させる根拠となる。

過去の実験的研究では、頭蓋外組織や硬膜からの入力情報は三叉神経尾側核ニューロンに収束することが明確に示されているが、軟膜からの入力情報も同じニューロンに収束するか否かは不明。片頭痛の侵害受容の発生源を説明するのが困難であるのは、入力情報が広範囲に収束するためであると思われる。現時点において、片頭痛の痛みが頭蓋外組織から発生するのか、硬膜から発生するのか、または軟膜の血管から発生するのかを決定するためのエビデンスは不十分である。

片頭痛のメカニズムについては数多くの疑問が未解決のまま残っている(特に、片頭痛の症状における視覚系以外の感覚系の関与)。片頭痛患者は匂い(臭気恐怖症)や音(音恐怖症)に過敏であり、これらの症状は、特別なニューロンのサブセットの存在、または硬膜感受性ニューロンへの迷走神経入力情報の投射などによって説明できるかも知れない。片頭痛の他の特徴的な症状には、動作や身体運動に対する感受性だけでなく悪心や嘔吐も含まれる。これらの症状の背景にある神経経路についても多くの解明すべき課題が残されている。

出典文献
The migraine eye
distinct rod-driven retinal pathways' response to dim light challenges the visual cortex hyperexcitability theory
Bernstein, Carolyn A.a,b; Nir, Rony-Reuvena,c; Noseda, Rodrigoa,c; et al.,
PAIN: March 2019 - Volume 160 - Issue 3 - p 569–578
doi: 10.1097/j.pain.0000000000001434

引用文献
A neural mechanism for exacerbation of headache by light.
Noseda R, Kainz V, Jakubowski M, Gooley JJ, Saper CB, Digre K, Burstein R.
Nat Neurosci. 2010;13:239–245.

A neural pathway for photophobia in migraine
Jes Olesen
Nature Reviews Neurology volume 6, pages 241–242 (2010)

ADVANCES IN UNDERSTANDING THE MECHANISMS OF MIGRAINE-TYPE PHOTOPHOBIA
Rodrigo Noseda and Rami Burstein
Curr Opin Neurol. Author manuscript; available in PMC 2015 Jul 15.
Curr Opin Neurol. 2011 Jun; 24(3): 197–202.
doi: 10.1097/WCO.0b013e3283466c8e

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オピオイド依存患者の喘息罹患率は約2倍 [医学一般の話題]

ニューヨーク市の自治区の病院において、オピオイド依存患者のコホートにおける喘息罹患率は全国平均のほぼ2倍と報告されている。

オピオイド乱用/依存症(n = 1,977)を有する患者のうち、18%が喘息を患っていた。

また、オピオイド依存女性の25%が喘息を発症し、女性の喘息率の全国平均9.7%に比べて高率であった。

喘息で慢性疼痛状態を有する患者は、女性75%vs男性26%、喘息のない慢性疼痛状態を有する患者では64%vs 36%( Chi square analysis P<0.05)。

著者は、in vitro研究では、喘息に関連している免疫系において、オピオイドが2型ヘルパーT細胞反応を促進することを示唆していると述べている。

モルヒネのようなオピオイド薬はヒスタミンの放出を直接活性化するため、ヒスタミンによってアレルギー反応を引きお起こすため、喘息に関連する可能性があると推測。

しかし、臨床現場での喘息リスクに対するオピオイド使用の影響を評価している研究は混在し、喘息を有し、なおかつオピオイド薬を服用している患者をどのように管理するかについてのガイドラインは現時点ではないと述べている。

出典文献
Prevalence of Long Term Opioid Use in Patients with Asthma and Allergic Rhinitis
Naik R, et al.,
American Academy of Allergy Asthma & Immunology, 2019; Abstract 685.

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AMPKの活性化が炎症性疼痛を抑制する(鍼鎮痛との関わり) [鍼治療を考える]

アデノシン-リン酸活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化は、NF-κBの活性化を抑制してIL-1βの発現を減少させ、神経因性疼痛を抑制すると報告されている。

完全フロイントアジュバント(complete Freund’s adjuvant ; CFA)の注射はその局所に炎症性疼痛を引き起こすことが知られている。この研究では、マウスにCFAを注射して炎症性疼痛を誘発し、AICAR(5-アミノイミダゾール-4-カルボキシアミドリボヌクレオシド、AMPK活性化剤)、Compound C(AMPK阻害剤)、およびIL-1ra(IL-1受容体拮抗薬)の効果を注射後4日目に試験した。

AMPK活性化剤AICAR(5-アミノイミダゾール-4-カルボキシアミドリボヌクレオシド;AMPK活性化剤)によって鎮痛効果が生じ、マウスの炎症を起こした皮膚中の炎症誘発性サイトカインであるIL-1βのレベルを減少させた。さらに、AMPKの活性化は、炎症を起こした皮膚組織の活性化マクロファージ(CD68+およびCX3CR1+)における細胞質ゾルから核へのCFA誘導性 NF-κB p65転座を抑制した。

IL-1raの皮下注射は、CFA誘発性の炎症性疼痛を軽減した。 AMPK阻害剤Compound CおよびAMPKα shRNA AMPKは、炎症を起こした皮膚組織におけるIL-1βおよびNF-κB活性化に対するAICARの鎮痛作用およびAICARの作用を逆転させた。

このAMPKは鍼治療においても関わりがある。

電気鍼(EA)鎮痛に対する感受性の個人差の原因として、AMPKがEAに感受性であったラットの視床下部において最も高度に発現される遺伝子であることが同定されている(*Sun Kwang Kim, 2014)。

リアルタイムRT- PCR分析によって、感受性ラットの視床下部におけるAMPKのmRNA発現レベルが非感受性ラットよりも有意に高いことが示された。また、AMPK活性を阻害する、ドミナントネガティブ(DN)AMPKアデノウイルスのラット視床下部へのマイクロインジェクションはEA鎮痛を有意に弱める(P<0.05)が、野生型(WT)AMPKウイルスではEA鎮痛に影響はなかった(p>0.05)。

マウスの百会穴に対する通電前処理が、AMPK 活性化を介して虚血性脳損傷を軽減するとの報告では。

通電処理後、両頚動脈を15分間結紮することによって確率した脳虚血モデルが、.傷害後72時間で海馬における神経障害が減少し, 通電治療後に末端デオキシヌクレオチド転移酵素媒介dUTPニック末端標識陽性細胞数が低下した。また、アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼα (AMPKα) およびリン酸化 AMPKαの発現が調節された。AMPK アンタゴニストの腹腔内注射、およびcompound Cはこの現象を抑制した。この実験により、通電前処理はAMPK 活性化を介して虚血性脳損傷を軽減することが示唆された(*Qiang-qiang Ran, 2015)。


AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase:AMPK)は、人から酵母まで真核細胞に高度に保存されているセリン/スレオニンリン酸化酵素の一つで、細胞内のエネルギーセンサーとしての役割を担っている。アデノシン三リン酸(Adenosine Triphosphate:ATP)は「生体のエネルギー通貨」とも言われており、全ての真核生物が活動するためのエネルギー源。このATPのリン酸基が1つ外れることでエネルギーが放出され、ADP(Adenosine Diphosphate:アデノシン-2-リン酸)とAMP(Adenosine Monophosphate:アデノシン-1-リン酸)になる。

AMPKはAMPで活性化されるタンパクリン酸化酵素であり、ATPの減少を感知して活性化する。カロリー制限、運動、低グルコース、低酸素、虚血のような細胞内 ATP 供給が枯渇する状況において、ATPのレベルを回復させるために代謝を調整する。

AMPKの活性化は、がん抑制遺伝子のp53を活性化してがん細胞の増殖を抑制する効果があり、培養がん細胞や移植腫瘍を使った動物実験など多くの基礎研究で明らかになっており、がんの予防や治療のターゲットとして有望視されている。

また、AMPKは脂肪酸やコレステロールの合成に必要なacetyl-CoA carboxylase (ACC)とHMG-CoA還元酵素(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA reductase)の活性を阻害する。HMG-CoA還元酵素は、コレステロールやイソプレノイドを合成するメバロン酸経路の律速酵素の一つであり、この酵素の阻害剤であるスタチン (Statin)はコレステロール降下剤として広く用いられている。AMPKはスタチンと同じようにHMG-CoA還元酵素を阻害して、メバロン酸の合成を阻害する。

出典文献
AMPK activation attenuates inflammatory pain through inhibiting NF-κB activation and IL-1βexpression
Hong-Chun Xiang, Li-Xue Lin, Xue-Fei Hu, He Zhu, et al.,
Journal of Neuroinflammation201916:34
https://doi.org/10.1186/s12974-019-1411-x


Expression levels of the hypothalamic AMPK gene determines the responsiveness of the rats to electroacupuncture-induced analgesia
Sun Kwang Kim, Boram Sun, Heera Yoon, Ji Hwan Lee, Giseog Lee, et al.,
BMC Complement Altern Med. 2014; 14: 211.
Published online 2014 Jun 30. doi: 10.1186/1472-6882-14-211

Electroacupuncture preconditioning attenuates ischemic brain injury by activation of the adenosine monophosphate-activated protein kinase signaling pathway
Qiang-qiang Ran, Huai-long Chen, Yan-li Liu, Hai-xia Yu, et al.,
Neural Regen Res 2015;10:1069-75 : http://www.nrronline.org/text.asp?2015/10/7/1069/160095

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自著書籍の販売継続中(お知らせ) [掲示板]

私が出版した書籍について、「今でも販売しているか」との問い合わせを時々戴きます。これらの書籍は随時増刷し、現在も販売しております。

将来的には、修正点や新たな情報を加えた改訂版の出版もあろうかと思われますが、現時点ではこのまま継続する予定です。



中医学の誤謬と詭弁-黄帝内経における臓腑経絡概念の本質-
                    
出版日 : 2015年1月6日初版
本のサイズ : A5版, 316ページ
ISBN 978-4-9908155-0-9
C3047 ¥ 6500 E


絞扼性神経障害の鍼治療

出版日 : 2015年3月22日初版
サイズ : B5版, 188ページ, 図34枚
ISBN 978-4-9908155-2-3
C3047 ¥ 8500 E


附着部障害の鍼治療 -Clinical Acupuncture Therapeutics of Enthesopathy-

出版日 : 2016年8月27日初版
本のサイズ : B5版, 112ページ, 図26枚.
ISBN 978-4-9908155-2-3
C3047 ¥ 4800E

尚、書籍の内容や購入方法などは、カテゴリー「出版のお知らせ」をご覧下さい。

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心筋梗塞後の退院時心拍数は3年死亡率と強く関連する(心拍数の意義とは) [医学一般の話題]

急性心筋梗塞(AMI)患者6576人の調査で、退院時心拍数は広範囲の潜在的な交絡因子とは無関係に、3年間の追跡調査後の全死因死亡率と有意に関連していた。この関連は入院心拍数とは無関係で、独立して死亡率に関連していた。また、退院時心拍数と全死因死亡率との関係は退院時のβ遮断薬治療によって修正され、退院時心拍数の上昇による死亡リスクはβ遮断薬を受けずに退院した患者の方が著しく高かった。

退院時心拍数が高く、βブロッカー非使用では死亡リスクは、HR=1.35per10bpm(95% CI=1.19–1.53per10bpm)で10拍当たり35%増加する。一方、βブロッカーを使用した場合には、HR=1.10 per 10 bpm(95% CI=1.03–1.17 per 10 bpm)で、増加は10%。

従来、AMI患者の入院時心拍数の上昇が、退院後の短期および長期の死亡率の独立した予測因子であることは多数の研究によって立証されている。また、β遮断薬が安静時の心拍数を下げ、梗塞サイズ、再発性梗塞、および長期死亡率を減らすのに効果的な薬剤であることも十分に確立されている。

この研究は、β遮断薬の単独使用が利益をもたらすか、あるいは、AMI後の退院時心拍数と長期死亡率との関連がβ遮断薬によって改善されるかを検証したもの。

男性1000人当たり2年間における突然死発生率は、心拍数<65拍/分では1.1、>88拍5.9(p<0.001)。男性では、安静時の心拍数が10拍/分上昇すると突然死発生率が約2倍となる(Kannel WB,1985)。一方、女性では、安静時心拍数の上昇による突然死は増加するものの、突然死発生そのものが男性に比べて少ない傾向がある。

一般企業の男性1,233名を対象にした研究(Chicago Peoples Gas Company study, Dyer AR, 1980,)では、心拍数≧94拍/分群の全死亡率は、心拍数56〜60拍/分の群の2.7倍(p≤0.01)。尚、心拍数55拍/分の群の全死亡率が心拍数56〜60拍/分の群よりもわずかに高くなったが(1.1倍)、有意差はなかった。

そもそも、心拍数にはどの様な意味があるのだろうか。

哺乳動物において、心拍数と寿命には深い関係がある。(但し、ヒトだけは例外)、生涯心拍数は、動物の大きさや種類に寄らずほぼ一定の範囲に分布しており(7.3±5.6×10の8乗拍)、心拍数によって寿命がプログラムされている可能性がある。このことから、ほ乳類の寿命は心臓が約7億回拍動できるまでとプログラムされているようにも見える。

横軸に平均寿命をプロットして縦軸に心拍数を対数表示すると、ヒトを除けばみごとな直線関係となる。ヒトの心拍数はキリンに近いが、寿命は直線の右に大きく偏位する。この理由として、文明社会によって健康管理などの恩恵を受けているためと言われているが、私には安易な推測に思える。野生のキリンの寿命は10~15年で、飼育でも20~30年が限界である。天敵もなく、栄養や健康管理が十分でも、平均寿命80歳のヒトには遠く及ばない。逆に、古代において、ヒトの寿命が20年程であったとは考えにくい。

寿命はともかくとして、心拍数の増加が心血管イベントや死亡率増加と関連することは多くの研究によって示唆されており、昔の正常値(65~85/分)は現在では意味を成さない。

出典文献
Discharge Heart Rate After Hospitalization for Myocardial Infarction and Long‐Term Mortality in 2 US Registries
Venkatesh Alapati, Fengming Tang, Esti Charlap, Paul S. Chan, Paul A. Heidenreich, et al.,
Originally published29 Jan 2019https://doi.org/10.1161/JAHA.118.010855Journal of the American Heart Association. 2019;8

Kannel WB, Wilson P, Blair SN : Epidemiological assessment of the role of physical activity and fitness in development of cardiovascular disease. Am Heart J, 1985 ; 109 : 876 ~ 885

Dyer AR, Persky V, Stamler J, Paul O, Shekelle RB, Berkson DM, Lepper M, Schoenberger JA, Lindberg HA : Heart rate, as a prognostic factor for coronary heart disease and mortality : findings in three Chicago epidemiologic studies. Am J Epidemiol, 1980 ; 112 : 736 ~ 749

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