感染症入院患者における低LDL-C値と敗血症リスクとの関連性 [善玉・悪玉概念の否定]

感染症で入院する1年以上前に測定された低LDLコレステロール(LDL-C)レベルは敗血症リスクの増加と関連していたが、交絡因子を調整するとこの関連性は併存症によるものであり、LDL-Cの遺伝的危険因子は敗血症またはその結果に関連しないと報告されている。

低密度リポタンパク質(LDL)を含むリポタンパク質は、血管拡張、毛細血管透過性の増加、末梢血管抵抗の減少など、多くの敗血症の徴候を媒介する有毒なリポ多糖(LPS)を結合するが、LDLはLPS誘発性の死亡リスクから保護することが示唆されている。

低レベルのLDL-Cを有する患者は敗血症のリスクが高く、転帰が悪化する。地域在住の成人を対象とした研究では、コホートに入る時点での低LDL-Cレベルが将来の敗血症リスクの増加と関連していることが示され、LDL-Cレベルが直接敗血症リスクに影響を与える可能性がある。

しかし、これらの研究は、LDL-Cが敗血症のリスクと予後不良のリスクを直接改善するのか、それとも併存疾患の影響を介してのものかという疑問には答えられてはいない。

アメリカでは、敗血症は集中治療室(ICU)への入院の一般的な原因であり、院内死亡の2〜3人に1人の割合となっている。敗血症は感染症の合併症であり、制御不能な全身性炎症反応、および臓器不全などにによって死亡率が高く、有効な治療法はない。 したがって、敗血症を予防し患者を治療するための新しいアプローチが必要であり、敗血症およびその結果に対するリポタンパク質の影響は関心のある分野の1つ。

より低い脂質レベルへの新しい薬(プロタンパク質転換酵素スブチリシン/ケキシン9型[PCSK9]阻害剤)はLDL-C濃度を非常に低いレベルまで下げるため、低LDL-Cレベルが敗血症のリスク増加とより悪い転帰に直接関連するかを検証することは重要である。

血清LDL-Cの低下療法は、心血管系の罹患率および死亡率を低下させるのに有益であることが証明されている。しかし最近、非常に危険度の高い患者において、推奨される目標LDL-Cレベルは<70 mg / dlに減少しているが、そのような低レベルへの危惧もある。

例えば、203名の患者を対象にした、低レベルLDL-C(グループ1n=79:<70mg/dl, グループ2n=124:>70mg/dl)と発熱、敗血症、および悪性腫瘍の発生率との関連を調べた研究では(後ろ向き分析)、第1のグループは血液癌のオッズ比が15倍以上増加したことを示した(OR 15.7、95%CI 1.78-138.4、p = 0.01)(1)。

また、LDLの各1 mg / dlの増加は、血液癌のオッズ比の2.4%の相対的な減少と関連していた(OR 0.976、95%CI 0.956-0.997、p = 0.026)。さらに、低LDL-Cレベルは群間の発熱および敗血症の可能性を増大させた(OR5.3,95%CI;1.8-15.7, p=0.02)。

要約すると、低血清LDL-C値レベルは、血液癌、発熱、および敗血症のリスク増加と関連していた。但し、後ろ向き観察研究であり、因果関係は不明。

LDL-Cに限定されていないが、心肺バイパス患者177名を対象にした、前向き観察研究の例(フランスの大学病院の外科ICU)では(2)。

この研究では、麻酔導入前(ベースライン)、心肺バイパス開始時、心肺バイパス終了時、心臓手術後3および24時間の血漿血中脂質および炎症マーカーを測定。転帰は、敗血症を伴う全身性炎症反応症候群患者(n = 15)、敗血症を伴わない全身性炎症反応症候群患者(n = 95)、および非全身性炎症反応症候群患者(n = 107)で比較。

血漿コレステロール濃度の漸進的な減少は、心肺バイパス手術中に発生したが、血液希釈の補正後にはもはや存在しなかった。敗血症患者の補正コレステロール値は他のサブグループよりも敗血症患者のベースラインで有意に低く、心肺バイパス術中および術後に敗血症グループの方が低かった。敗血症に関して、ベースラインコレステロールの識別力は、受信者動作特性曲線分析によって示されるように良好であった(曲線下面積、0.78;95%CI, 0.72-0.84)。

ベースラインコレステロールレベルの五分位数が増加するにつれて、敗血症の頻度は漸進的に減少した(底部および上部五分位数でそれぞれ18.6%および0%, p=0.005)。多変量解析では、ベースラインコレステロール値と心肺バイパス期間は、プロカルシトニンとインターロイキン-8の濃度における3時間の心肺後バイパス増加の有意で独立した決定要因であったが、インターロイキン-6の濃度ではなかった。

結論として、心肺バイパスによる選択的心臓手術前の低コレステロール値は、敗血症のリスクが高い患者を早期に特定するためのバイオマーカーとなる可能性があると述べられている。

出典文献
Association Between Low-Density Lipoprotein Cholesterol Levels and Risk for Sepsis Among Patients Admitted to the Hospital With Infection
QiPing Feng, Wei-Qi Wei, Sandip Chaugai, et. al,
JAMA Netw Open. 2019;2(1):e187223. doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.7223

1.
Low serum LDL cholesterol levels and the risk of fever, sepsis, and malignancy.
Ann Clin Lab Sci. 2007 Autumn;37(4):343-8.
Shor R1, Wainstein J, Oz D, Boaz M, Matas Z, Fux A, Halabe A.

2.
Low preoperative cholesterol level is a risk factor of sepsis and poor clinical outcome in patients undergoing cardiac surgery with cardiopulmonary bypass.
Crit Care Med. 2014 May;42(5):1065-73. doi: 10.1097/CCM.0000000000000165.
Lagrost L1, Girard C, Grosjean S, Masson D, Deckert V, Gautier T, Debomy F, Vinault S, Jeannin A, Labbé J, Bonithon-Kopp C.

コメント(0) 

潰瘍性大腸炎患者に対する糞便微生物叢移植(嫌気的調製)の効果 [医学一般の話題]

嫌気的に調製した便を用いた糞便微生物叢移植(FMT)によって、活動性の潰瘍性大腸炎(UC)治療の有効性を評価した研究。

オーストラリアの3カ所の三次紹介センターにおける、多施設無作為二重盲検臨床試験。2013年6月から2016年6月までの、軽度から中等度の活動性のUCを有する患者、合計73名の成人。

介入は、大腸内視鏡検査を介して嫌気的に調製されたプールドナーFMT(n = 38)または自家FMT(n = 35)のいずれか。

メインアウトカムはステロイドフリーのUCの寛解であり、8週目にメイヨースコアの合計が2以下で、メイヨースコアの合計が1以下(0:疾患なし~12:最も重度)。 UCのステロイドフリー寛解は12ヶ月で再評価。セカンドアウトカムは有害事象。

無作為化された73名の患者(平均年齢39歳;女性33人)のうち69人(95%)が試験を完了した。結果が達成されたのは、自家FMTを受けた35名のうち3名(9%)に対し、プールされたドナーFMTを受けた38名の参加者のうち12名(32%)(difference, 23% [95% CI, 4%-42%]; odds ratio, 5.0 [95% CI, 1.2-20.1]; P = 0.03)

ドナーFMT後8週目に主要評価項目を達成した12名の参加者のうち5名(42%)が12ヶ月で寛解を維持した。ドナーFMT群で3件、自家FMT群で2件の重篤な有害事象があった。

軽度から中等度のUCの成人を対象としたこの予備的研究では、1週間の治療によって8週間後、自家FMTの9%と比較して嫌気的に調製されたドナーFMTは32%と高く、また、寛解した患者の42%が12ヶ月後にも寛解を維持しており、寛解の可能性が高かいと述べられている。

現在、UCには有効な治療法が無いことを考慮すれば、FMTへの期待は大きい。しかし、この結果の数値は決して高いとは思われない。さらに、患者自身のFMTにそもそも効果がある筈は無く、比較する意味があるとは考えられない。

最近では、一般の人の間でもFMTは話題になっている。ヒト腸マイクロバイオームの役割を理解することへの関心が高まっており、メタゲノム研究によって、腸内細菌種の豊かさと多様性が健康の指標である可能性が示唆されている。

治療としての糞便の使用については、下痢を含む様々な症状に対し、4世紀の中国のGe Hongによって記載されている(Zhang et al, 2012)。Eisemanらは、偽膜性大腸炎の治療法として糞便性浣腸を使用してFMTを導入した(Eiseman et al, 1958)。FMTに関するほとんどの臨床経験は、再発性または難治性のクロストリジウム - ディフィシル感染症(CDI)の治療に由来している(Smits et al, 2013)。

この治療は、先ず、自己免疫、代謝、および悪性疾患の家族歴のないドナーを選択し、あらゆる潜在的な病原体をスクリーニングする。糞便は、水または通常の食塩水と混合し、続いて粒子状物質を除去するための濾過工程によって調製される。混合物は、経鼻胃管、経鼻空腸管、食道胃十二指腸鏡検査、結腸鏡検査、または停留浣腸を通して投与する。

出典文献
Effect of Fecal Microbiota Transplantation on 8-Week Remission in Patients With Ulcerative Colitis
A Randomized Clinical Trial
Samuel P. Costello, Patrick A. Hughes, Oliver Waters, et al.,
JAMA. 2019;321(2):156-164. doi:10.1001/jama.2018.20046

Zhang F., Luo W., Shi Y., Fan Z., Ji G. (2012) Should we standardize the 1,700-year-old fecal microbiota transplantation? Am J Gastroenterol 107: 1755–1756.

Eiseman B., Silen W., Bascom G., Kauvar A. (1958) Fecal enema as an adjunct in the treatment of pseudomembranous enterocolitis. Surgery 44: 854–859.

Smits L., Bouter K., De Vos W., Borody T., Nieuwdorp M. (2013) Therapeutic potential of fecal microbiota transplantation. Gastroenterology 145: 946–953.

コメント(0)