下顎に放散する胸痛の患者 [症例参照]

めまいと冷たい発汗を伴う、下顎に放散する胸痛を訴える患者(2時間)。心電図では、V1からV4に超急性T波、0.5-mm のST上昇を認めた。バイタルサインは、血圧130/70 mm Hg、心拍数は85/分、呼吸数は16/min、体温36.2 ℃で、異常は見られなかった。

初期の心エコー画像では、左前下行冠状動脈の急性閉塞と一致する、前壁および前中隔壁ならびに前壁および中隔の頂端部の低運動性が示唆された。

その後、心エコー所見に基づいて、患者は直ちに経皮的冠動脈インターベンションを受けた。血管造影にて近位左前方降下動脈臨界狭窄を確認し、血管形成術と薬剤溶出ステント留置が行われた。処置後順調に回復し、2日後に退院した。

後から振り返れば、「胸痛、顎への放散痛、冷たい汗、めまい」などから心筋梗塞を疑うことは可能と言える。経験的にも、極希にではあるが、初診の患者で心筋梗塞を疑って病院へ送ったこともあった。

しかし、もし、この患者が目の前に現れたとして、鍼灸師の立場で、直ちに心筋梗塞と見抜けるだろうか。簡易な心電計を持っていれば、「Hyperacute T Waves」を見つけられたかも知れない。触診でも、QRSに続く異常に高いT波を感じられるかも知れない。とは言え、増高T波は心筋梗塞超急性期の患者で常に出現するわけではなく、その形成には中等度の虚血や反復する虚血発作の関与などが考えられている。臨床は教科書通りにはいかない。

この文献では、このような胸痛患者に対し、初診時の心エコー検査を推奨している。鍼灸師に正確な診断が要求される訳では無いが、手に負える疾患か否かを推測して適切に対応することは必要だろう。個人的には、「持続する胸痛と、顎への放散、冷たい体の異様な発汗」の組み合わせを重視して、心筋梗塞を疑うべきだろうと思う。

出典文献
A Patient With Chest Pain and Hyperacute T Waves
Virginia Zarama, Christian D. Adams, Carlos E. Vesga.,
CHEST, December 2018Volume 154, Issue 6, Pages e161–e164
DOI: https://doi.org/10.1016/j.chest.2018.07.047

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出産後の骨盤底障害と分娩モードの関連 [医学一般の話題]

出産後の骨盤底障害と分娩モードの関連を調査したコホート研究(n=1528)の結果、帝王切開分娩は自発的な膣分娩と比較して骨盤底障害のリスクが低く、器具などを使用する手術分娩では高リスクと関連していた。

女性1528名中、帝王切開出産群778名、自発的分娩群565名、および手術分娩群185名。初産時の年齢の中央値は30.6歳で、1092名 (72%) は登録時に経産婦。

女性は、このコホート研究のためのコミュニティ病院から、最初の出産から5から10年後に募集され、9年間フォローされた。

自発的な腟分娩による、初回出産後における骨盤底障害の15年間の累積発生率は、ストレス性尿失禁 (SUI)34.3%(95% CI、29.9%-38.6%)。過活動膀胱 (OAB)21.8% (95% CI、17.8%-25.7%)、肛門失禁 (AI)30.6% (95% CI, 26.4%-34.9%)、骨盤臓器脱 (POP)30.0% (95% CI, 25.1%-34.9%)。

骨盤底障害の発生率について、自発的腟分娩に対する帝王切開分娩のハザード比は、SUI (adjusted hazard ratio [aHR], 0.46 [95% CI, 0.32-0.67])、OAB (aHR, 0.51 [95% CI, 0.34-0.76])、および POP (aHR, 0.28 [95% CI, 0.19-0.42])であり、帝王切開分娩が有意に低リスクと関連していた。

一方、手術分娩は、AI (aHR, 1.75 [95% CI, 1.14-2.68]) and POP (aHR, 1.88 [95% CI, 1.28-2.78])と、有意に高リスクと関連していた。

分娩モードによる層別化では、生殖器の裂傷サイズが2.5cm以下の場合のPOPのハザード比は3(95% CI, 1.7-5.3)、3.5cm以上では 9.0 (95% CI, 5.5-14.8)で9倍であった。

手術膣分娩とは、膣から胎児を取り出すために、鉗子、真空、または他の装置を使用する分娩を指す。アメリカでは、3.1%(2015年)が手術膣アプローチによって出産している。この報告では、その後の骨盤底障害のリスクが倍近く高くなったが、同時に、新生児の傷害のリスクも重要である。鉗子分娩の選択を維持するためには、鉗子技術および関連する技術の詳しい指導を組み込む必要がある。

骨盤底疾患 (例えば、尿失禁) は、アメリカ女性の約 25% に発症し、それは出産に関連している。しかし、その経過と進行についてはほとんど知られていない。

出典文献
Association of Delivery Mode With Pelvic Floor Disorders After Childbirth
Joan L. Blomquist, Alvaro Muñoz, Megan Carroll, et al.,
JAMA. 2018;320(23):2438-2447. doi:10.1001/jama.2018.18315

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慢性的な赤肉食は全身のトリメチルアミン N-オキシドを増加させる [栄養の話題]

トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)は、アテローム硬化性心疾患の病因におけるメカニズム的な関連性を有する腸内微生物生成代謝産物。さらに、血漿TMAOレベルの上昇は、心血管疾患(CVD)発症、CVD有害事象、脳卒中のリスクを有する被験者で観察される。

本研究では、赤肉、白肉、または非食肉タンパク質が TMAO 代謝に及ぼす影響を無作為化された食事介入によって調べている(all meals prepared in metabolic kitchen with 25% calories from protein) 。TMAOおよびその他のトリメチルアミン (TMA) 関連代謝産物は、各食餌期間の終了時に定量。

カルニチンとコリンは、腸内細菌叢に依存する動脈硬化代謝産物の生成のための主要な栄養素前駆体であり、赤肉に富む食事はTMA のためのコリンおよびカルニチン栄養前駆体の両方のより高い含量を有する。

食餌性赤肉の中止は、4週間以内に血漿 TMAO を減少させる。また、食物飽和脂肪は TMAO およびその代謝産物に影響を与えなかった。

補足
栄養学や疫学において、赤肉(red meat)とは、牛、豚、羊、馬、やぎ、熊、うさぎなどの哺乳動物全般の肉を意味し、鶏肉および魚は白肉と呼ばれる。一般的に呼ばれている、脂肪が少ない「赤身肉」のことではない。因みに、米国農務省による分類では、ミオグロビンのレベルが 65% 以上含まれるものを赤身肉としている。

出典文献
Impact of chronic dietary red meat, white meat, or non-meat protein on trimethylamine N-oxide metabolism and renal excretion in healthy men and women 
Zeneng Wang, Nathalie Bergeron, Bruce S Levison, et al.,
European Heart Journal, ehy799, https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehy799

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アスピリンは IL-11を介して調節性T細胞を保護する [医学一般の話題]

アスピリンの新たな効果が示されている。アスピリン (アセチルサリチル酸)は、炎症性プロスタグランジンおよびトロンボキサンの合成に必要な酵素シクロオキシゲナーゼを不活化する非ステロイド性抗炎症薬で、最も広く使用されている。

さらに、低用量アスピリンは、多発性硬化症 (MS) のモデルである、実験的自己免疫性脳炎 (EAE) を有するマウスの臨床症状を抑制することがわかった。

多発性硬化症(MS)は、中枢神経系内で発現するミエリンタンパク質を自己免疫性T細胞が標的とすることで生じるヒト疾患で、FoxP3を発現する制御性T細胞(Tregs)の数が減少して自己反応性T細胞が活性化している。

アスピリンは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)特異的T細胞により引き起こされるEAEの進行、およびそれに伴う血管周囲肥厚、炎症および脱髄を抑制した。このアスピリンの効果は、CD25+FoxP3+Tregsの存在を必要としていた。

アスピリンはT細胞においてFoxp3およびインターロイキン-4(IL-4)の量を増加させ、ナイーブT細胞からTヘルパー17(TH17)およびTH1細胞への分化を抑制した。またアスピリンは、Tregsの生成に必要な、転写因子CREBが介在するIL-11の転写も増大させた。また、FoxP3+Tregsの比率の維持、およびEAEからのマウスの保護はIL-11のみで十分であり、IL-11の中和は、Tregの分化に対するアスピリンの作用を相殺してEAEを増悪させた。

これらのデータは、低用量アスピリンレジメンが MS患者に恩恵をもたらす可能性があることを示唆するとともに、これまで特徴づけされていなかったアスピリンの新たな作用様式が明らかとなった。

出典文献
Aspirin ameliorates experimental autoimmune encephalomyelitis through interleukin-11–mediated protection of regulatory T cells
Susanta Mondal1, Malabendu Jana1, Sridevi Dasarathi1, Avik Roy, Kalipada Pahan,
Sci. Signal. 27 Nov 2018: Vol. 11, Issue 558, eaar8278
DOI: 10.1126/scisignal.aar8278

IL-11の興味深い機能として、辻岡 洋(大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任助教)らの研究で、アフリカツメガエル幼生尾の再生芽における様々な組織に分化する未分化細胞の出現に、IL-11がこれら細胞の誘導・維持に働くことが報告されている。

interleukin-11 induces and maintains progenitors of different cell lineages during Xenopus tadpole tail regeneration
Hiroshi Tsujioka, Takekazu Kunieda, Yuki Katou, et al.,
DOI:10.1038/s41467-017-00594-5
https://www.nature.com/articles/s41467-017-00594-5

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インフルエンザ予防接種は心不全患者の死亡リスクを下げると報告 [医学一般の話題]

インフルエンザワクチン接種と心不全( HF)患者の転帰との関連について調査した、デンマークにおける大規模コホート研究(n=134,048)の結果、予防接種の年数が長いほど、また、シーズンの早期段階ほど、全原因および心臓血管死のリスクが低くなると報告されている。

平均フォローアップ (99.8%)は3.7年 (四分位間の範囲、1.7-6.8 年)。研究コホートのワクチン接種率は、研究期間中に 16% から 54% に増加。

接種日、併存疾患、投薬、世帯収入、および教育レベルの調整後、1以上の予防接種を受けた場合、死亡リスクは 18% 減少(all-cause: hazard ratio, 0.82; 95% CI, 0.81-0.84; P<0.001; cardiovascular causes: hazard ratio, 0.82; 95% CI, 0.81-0.84; P<0.001)。

年間の予防接種 (9 月から10月) とワクチン接種の累積数は、断続的なワクチン接種と比較して死亡リスクのより大きな減少と関連していた(この要約には、数値は記されていない。)

この研究で示されたリスク低減効果は、β遮断薬と ACE 阻害薬で見られる 20 ~ 25% の死亡率の低下とほぼ同等であり、心不全患者のためのインフルエンザ接種の利点を示唆している。しかし、無作為化対照試験とは違い、観察研究では因果関係は不明であるため直接的な効果は証明できない。

心不全患者は、感染症に対する感受性が増加した脆弱な集団であることからも、インフルエンザ予防接種の安価で迅速な効果は重要と思われる。

出典文献
Influenza vaccine in heart failure: cumulative number of vaccinations, frequency, timing, and survival. a danish nationwide cohort study,
Daniel Modin, Mads Emil Jørgensen, Gunnar Gislason,et al.,
Circulation 2018; DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.118.036788.

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腰椎全ディスク交換の効果は非手術と同等 [腰痛関連]

多施設無作為化試験において、8年間のフォローアップの結果、腰椎全ディスク交換 (TDR) と非手術治療後における隣接する椎間板の変性 (add)および臨床転帰に差は認められなかった。

ADD は、Modic の変化、ディスクの高さの減少、ディスクの輪郭、ヘルニアのサイズ、核髄信号、および後部高強度ゾーンの評価に基づいて分類された。臨床転帰は、オスウェストリー障害指数 (ODI) の変化。対象者は、慢性腰痛 (LBP)患者173名中126名。

ADDの増加(for at least one ADD variable) は、非手術群で23/57名 (40%)、TDR群では29/69名(42%)(P = 0.86)で、全く差は無し。 ODI.についても同等(但し、要約には数値の記載無し。)

因みに、この研究の評価は“Level of Evidence: 1”で最上位。

出典文献
Adjacent Disc Degeneration After Lumbar Total Disc Replacement or Nonoperative Treatment
A Randomized Study with 8-year Follow-up
Furunes, Håvard, Hellum, Christian, Espeland, Ansgar, et al.,
Spine: December 15, 2018 - Volume 43 - Issue 24 - p 1695-1703
doi: 10.1097/BRS.0000000000002712

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